彼女は少し甘い
少女とデートします。
やっと少年の名前分かります。
今、僕は美少女に連れられて街に来ていた。
街は大きな壁によって四角く囲われ、中心に丸いエリアと4つの区画に分けられている。(田の形で中心に丸いエリアがある。)
東西南北で十字に区切られ、北西がA地区[セレブの居住地]・北東がB地区[住宅街]・南東がC地区[個人経営の店が多い]・南西がD地区[工場地帯]・中心部の丸いエリアがE地区[露店や市場]となっているらしい。
僕達はE地区に来ている。(因みにレンガの家はB地区の外側で南東の一番遠い場所にある。)
この街について少しでも知ろうと、僕から街の案内を彼女に頼んだのだが、嫌な顔一つせず快く受け入れてくれたのだった。
しかし、少し後悔をしている。
仕方ない事情により、手を繋いで歩くことになったからだ。
この街には不思議なルールがあるらしく、E地区では[二人以上で手を繋ぎながら歩くことが義務づけられているんです。]と少女に説明された。
街の至るところに備え付けられているガーディアン(ドラ○エのゴーレムみたいなやつ)は、手を繋いでいないものを捕まえるシステムが組み込まれているとのこと。
防犯としてはいいかもしれないが正直不便である。
店の中などの屋内は手を繋がなくてもいいらしい。
街案内もあるのだが、今日は夕食の買い物がメインである。
彼女に硬貨の価値や字の読み方などを教わりながら、街の観光と今日の夕飯の買い物を済ませていった。
「少し休みましょうか。」
彼女が微笑みかけながら休憩を提案してきたので、僕は静かに頷いた。
美少女と手を繋いでデートというリア充イベントに、まったくついていけてなかったために頷くのがやっとだったのだ。
噴水のある開けた広場のベンチに座った。
辺りを見回すとどこもかしこもレンガで作られていた。
「あまり面白くなかったでしょう?」
彼女が急にこんなことを聞いてきたため、どう反応しようかと悩んだが素直に、
「面白い物はなかったけど良いところだと思う...」
そう答えた。すると、
「そうでしょう?そこが私の一番気に入ってる所なんです。」
そう笑顔で話した。
「この街は何もないんです。王都やもっと特産のある村とは違った良さがあるんです。穏やかなこの街が私は好きなんですよ。」
「そうなんだ...」
何もないことをここまで良いことのように言える彼女が正直凄いと思った。
「そういえば自己紹介がまだでしたね!私はリオ・スノールと申します。リオで構いません勇者様。」
「僕は...」
名前を言おうと思った。
だが嫌な思い出が頭を過ったために上手く言葉にできなかった。
静かにじっと見つめて彼女は待ってくれていた。
「僕は、岸尾 朝。朝でいいよ。」
昔のことだ。
漢字ではじめは朝と書くため、アサがあだ名となり、気付けばアーサーと呼ばれるようになっていた。
だが僕は体が小さく弱かった。
僕は虚弱なへなちょこアーサーだと周りに言われ続け、酷く虐められた。
そのためなるべく高校では他の人と関わらずに目立たないようゲームに没頭した。
そんな苦い思い出から僕は自分の名前が嫌いだった。
「素敵なお名前ですね!朝様からなにかが始まるのかも知れない可能性を秘めたお名前です。朝様にぴったりのお名前ですね!」
初めて名前を褒められた。
あれだけ馬鹿にされてきたのに。
気付けば涙が溢れていた。
止まらない涙。
声を出さず泣いた。
彼女はなにも言わず握っていた手を反対の手と入れ換えると優しく背中を撫でてくれた。
泣き止むまでずっと。
泣き止み落ち着いたところで彼女を見ると目が合った。
しばらく見つめ会った後、二人して笑った。
こんな風に泣いたり笑ったりしたのはいつぶりだろうか。
僕と彼女はなにもなかったかのように他愛ない話をしながら帰路についた。
次回お家で新キャラ。