第2話 氷剣はじゃじゃ馬である
矛盾・誤字脱字の可能性あり。先に誤っておきます。
かつて人々に英雄と持ち上げられていたご先祖様。
その剣閃は万軍を凍り付かせ、天をも氷砕したという。
さて、私はというとーーー。
「このじゃじゃ馬っ!やり過ぎよぉぉぉ!」
かつて、ふわふわの草原だよ、昼寝するならここだよ、どんな不眠症でも安らかに眠れるよ!というフレーズで詠われていた場所は、それはそれはもう無残にも草が凍り付いて、砕けていた。
少女は憤慨していた。
抱え込まなければならない秘密がまた増えたじゃないの……!
練習場所に、そういう場所を選ぶ少女もアレなのであるが、とりあえず少女の中では、氷剣が悪いということになった。
まあ、砕け散った草原は、広大な草原の中のたった一部なのであるが、跡地がミステリーサークル(この世界にも宇宙人が作っているという説はある。大半は冒険者の暴走が原因なのであるが。)のようになっていて目立ってしまうことは間違いなかった。
このことについて聞かれても知らんぷりしよう。
今後の対応を少女が決めたところで、日が落ちてきた。
「急いで草原から出て、焚火を立てたら寝よ。」
草原を燃やして被害を拡大するわけには行かない。
少女が慌てて移動しようとすると、遠くからかなりのスピードで大きな影が突っ込んできた。
「!?」
それはラスタージャスティスと呼ばれる鳥モンスターだった。
冒険者ギルドが定める位階、すなわちランク付けによると、このモンスターは『限定的Aランク』と言われている。
『限定的』が付くモンスターにはある特徴がある。
それは条件さえ満たせば技能が未熟な者でも倒せるという特徴である。
ただし、その条件が満たせない者は、Sランク冒険者でも例外なくそのモンスターを倒すことはできない。
では、ラスタージャスティスというモンスターに定められた条件とは?
『突進時、剣で、翼の付け根を断ち切ること』
その条件以外では、例外はあれど、基本的には倒すことはできない。
どんな威力の魔法を使おうとも、地面に落とそうとも、他の部分を斬ろうとも、倒すことはできない。
ラスタージャスティスの体は、魔法を無効化する金属でできている。
さらに、剣が通らないように常時物理防御結界も張られている。
しかし、突進時だけ、その結界が翼の付け根の部分だけ解除される。
しかも、その金属はなぜか斬撃に弱いのである。
だから、剣さえ持っていれば誰にでも倒せるが、なければ倒せない。
そんなモンスターなのである。
幸運なことに少女は氷剣を持っていた。
突進を躱しながら交差する瞬間に翼の付け根に剣を添えればいいのである。
一秒。
ラスタージャスティスが突っ込んでくる一秒前に少女はとっくに迎撃態勢を整えていた。
そして、タイミングを合わせて、やあ!とかわしながら、剣を振るう。
翼は斬れる。
少女はそう思っていたし、実際に斬れはした。
だがそれだけではなかった。
氷剣がそれだけのはずはなかった。
砕けた。
魔法を無効化するはずのラスタージャスティスの全身が砕けたのである。
え?
少女がふっと、昔見たチョンマゲというおかしな髪型の人々がやっていた、残心、剣を収めながら「ふっ、つまらぬものを斬ってしまった。」と呟くシーンを再現して、後ろを振り向くと、そこには何もなかった。
いや、「なかった」は少し誇張表現である。
正確には、砕け散った無数の氷片が舞い散っていたというべきか。
氷剣のチート具合に気が付いた少女。
彼女はきっとこの剣を恐ろしいとーーー。
「ああああ!このポンコツ剣!ラスタージャスティスは売ればかなりの金になったのに、どうしてくれるの!?」
そうでもなかった様子。
少女は、金を得られる機会がなくなったことに歯ぎしりしながら、氷剣をアイテムボックスにしまい、普通の剣に持ち替えた。
「あの氷剣はしばらく封印!はははは!ラスタージャスティスよ!もっと来い!」
少女は高笑いしながら、ラスタージャスティスを一晩中待ち続けた。
しかし、遠くにいたラスタージャスティスの群れは、悪寒を感じて、その反対側に逃げて行ったと書いておこう。
結果、少女は休むことができなかった……。
「ちくしょう、氷剣のせいだ!このポンコツ剣ぅぅぅ!」
こうした少女は、出発が一日遅れつつも、着実に一歩一歩進んでいる。
物欲センサーはこうして働く。