邦子と直美
下ネタ短編企画
聖なる夜が皆様にとって地獄になりますように。
とある女子高のグラウンドで、二人の女子高生がベンチに腰掛け体育の授業を見学している。
体裁を整えるかの様にジャージに着替えている生真面目な子は直美、はなっから授業を受ける気の無い女の子が邦子。
普段はそれ程絡みの少ない二人だが、授業の見学と言う共通の退屈な時間を過ごす事によって、相手の腹を探りながらの会話が先程から続いている。
「ねぇねぇ、直美ちゃん。ロケットの名前の由来って知ってる?」
邦子が直美にニコニコと話しかける。
「ロケットって体育の先生の?」
直美は自分の顎に指を当て、話の流れから本物のロケットの話ではなく、目の前のグラウンドで持久走の監督をしている体育教師のアダ名を思い浮かべた。
「そそ」
直美は少し間を置いて噂で聞き齧った情報を話し出した。
「ロケット先生は学生の時分から短距離走の選手で、国体強化選手にも選ばれた程の健脚だったと言う実力者だから、ロケットの様に早く走る事からついたあだ名では無いかしら?」
直美が顎に指を当て思い出しながら語る。
「ざーんねーん。違うんだなあ」
邦子がニヤニヤと笑いながら人差し指二本でバツ印を作る。
「ロケットの由来はね、いつもパツパツのジャージを着ていて股間のブツがクッキリとしているでしょ? その形がロケットの様だって事からついたんだなあ」
「こ、股間……」
授業の見学を初めてから十五分、やや打ち解けて来たかと思って来た所に突然の下ネタに直美は言葉を失う。
「そ、そんな不純な理由からでは無いと思います!」
直美は顔を真っ赤に染め上げ、憤慨した様にジャージのポケットからメガネケースを取り出す。
「いや、メガネをかけてまでガン見しなくても……」
「こ、これは先生の名誉の為です!」
興奮して声が大きくなった直美に気付いた体育教師が、見学中の二人に近付いて来る。
「こらぁ、騒ぐなら走らせるぞ! 大人しく見学しておけ!」
ニコニコと愛想良く返事をする邦子と、反省しきった様子で顔を上げずに小さく返事をする直美を見て体育教師は持久走の監督に戻って行った。
「ロケットだった……」
「直美ちゃん見すぎだよ……」
顔を真っ赤にしてブツブツ何かを呟いている直美を見て邦子はニヤリと笑う。
「ねぇねぇ直美ちゃん」
「……スプートニク……はっ! 何? 邦子ちゃん」
「あのね、今回あたし達は生理で体育の見学をしているけど、男の人もアノ部分に凄い秘密を抱えているって知ってた?」
邦子が辺りを見回して誰も居ない事を確認しながら小声で囁いた。
「え? 秘密?」
「そう、これはお父さんでも見せてくれない秘密よ」
直美がゴクリと生唾を飲み込む。
「ど、どんな?」
「実はね、男の人のアレって先っぽが外れるの」
「……」
「……」
「マジ?」
「マジ」
「え? だって、え? 気象衛星的な?え?」
直美はパニックを起こす。
「親戚の叔父さんが酔って見せてくれたんだけど、先っぽを五回くらい回すとコロリンて外れたの」
「え? 絶対嘘!」
邦子がグランドにしゃがみ込み、落ちていた石コロでガリガリと地面を引っ掻いて三角形と長方形を描くと三角形の部分を指差した。
「この部分!」
「絵に描かないで!」
直美が邦子の描いた図形を足の裏で慌てて消す。
「人間の身体がネジで外れる訳が無いじゃ無い!」
「でもほら、お父さんとお風呂に入った事はあるでしょ?」
「うん……」
「あの先っぽって不自然だと思わない?」
赤面する直美は視線を中に彷徨わせ、子供の頃を思い出す。
「不自然よね……」
「親戚の叔父さんがね、昔銭湯に行って気が緩んだせいか、コロリと外れて無くしそうになって凄い焦ったって言ってた」
「スペアって無いの?」
「海外の闇ルートで買えるらしいけど、日本では違法になるらしいのよ。違法臓器売買の約四十パーセントは先っぽなんだって」
「え? そうなの?」
直美は闇の臓器売買ルートの存在にブルリと身体を震わせる。
「結構海外でバックパッカーが安宿に宿泊した時に盗まれるって、よくあるらしいよ」
「ええ! でも他人のでしょう?」
「男の人はネジの切り方が統一されているから誰でも合うらしいの。だから最近はシリコンの先っぽとか売っているらしいわね」
「邦子ちゃんは先っぽ事情に詳しいのね」
「親戚の叔父さんが言ってたのよ」
邦子はついとグランドを走る体育教師に目を移す。
「あたしね、ロケットはシリコンじゃないかと睨んでいるのよ」
「え! 先生が?」
「女の勘ね」
「女の勘を使うんだったらもっと相応しい使い所があると思うの」
立ち上がった邦子はセーラーの襟を翻し、真剣な眼差しで直美を見つめる。
「あたし達で確かめて見ない?」
「た、確かめるって……それは個人の自由であって、それをあたし達がどうこう言うのは間違っているんじゃ?」
「体を育むと書いて体育。その為にあたし達やあたし達の両親は、この学園に授業料を支払い体育教師に一任しているの。そこに誤魔化しや偽装は許されないとあたしは思うのよ」
「う、うん」
「だけどあたしは日頃の行いのせいか、先生達に常にマークされている状態。学園の不正を暴くには説得力が足りないの」
邦子は悔しそうに拳を握りしめた。
「自業自得だと思う」
「そこで! 日頃真面目な直美ちゃんだったら可能なのでは無いかと思われる策があるのよ!」
「なんであたしなの?」
「まあ、まあ、ちょっと耳を貸して」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
下校時刻の近くづく校内を見回る体育教師が、ダラダラといつまでも談笑に耽る女子生徒達を叱りつけながら教室に施錠をして行く。
最近の女子生徒は教師の言うこともどこ吹く風で、放っておくといつまでも校内に残っているので、少しばかり迫力のある体育教師が生徒達を追い返すのが日常となっている。
「まったく、女子高ってのはこれだから……」
ブツブツと愚痴をこぼしながらも教室に施錠をして行く体育教師の背後に、一人の女子生徒が忍び寄った。
「あ、あの!」
勇気を振り絞った様な掛け声に体育教師が振り向くと、顔を耳まで真っ赤に染め上げた女子生徒が一人もじもじと上目遣いで体育教師を見上げている。
「お? 四組の直美じゃないかどうした? もう下校時刻だぞ。さあ帰った帰った」
しっしっと子猫を追い払う様に女子生徒を邪険に扱う。
「先生! お願いがあります!」
「今日は下校時刻だからまた明日な、急用であれば職員室で聞くから先に行って待ってなさい」
女子高に勤務して早十年、女子高生のこの様な態度にはすっかり免疫の出来た体育教師は事務的に直美をあしらった。
「あ、あの先生……」
直美は震える手でガラスのコップを差し出して、勇気を振り絞りこう言った。
「先っぽだけ入れて下さい!」