呪われし、その島
呪われた民の子らよ。
祖先から背負いし不運を嘆くがいい。
太古、我らはもともとひとつであったのだ。
しかし、我らと袂を分かち、人の世の理から外れる道を選択したのはお主ら一族。
お主ら自身が選んだことである。
お主らは苦しみ足掻き、血反吐を吐きながら、それでも生き続けてきた。
その軌跡を我らは冷ややかに傍らで見守り続けてきた。
今更ながら、図々しくも我らと共に生きられると思うな。
呪われた地に縛られたお前らはこの神聖な地では生きられぬ。
身体が腐れ落ちよう。出て行くがよい。
あの穢れた大地にへと還り、未来永劫、捕縛される苦痛に喘ぐがいい。
ここは呪われた島だ。
過去の者たちの呪詛が聴こえるであろう。
我らの選択が間違っていたとは我らは思わぬ。
例え、我らの未来がないとしても。
決して後悔などせぬ。
我らは誇り高く生きてきたのだから。
お主らのような恥ずべき生き方は我らには到底出来ぬゆえ。
さあ、足掻け。
泣き叫べ。
お主らがこの先、悔恨の念に打ちひしがれるのを心待ちにしている。
お主らへの侮蔑を込め、声を高らかにして我らはここに叫ぼう。
――我等はかつてここにありき、と――
* * * * *
神明暦零年。
九つの神靈がマスカダイン島に降り立つたとされる此の年以前のことは、どの記録に置いても記されてはゐない。
地方の口伝に於ても伝へられるのは、此の神靈が島に降りた年より以降のことのみである。
数々の伝説も。神靈と民の物語も。
神靈が此のマスカダイン島に降臨する先の代については全くの空白である。
その頃、民はどのやうに生きてゐたのか。
いや、そもそも民はこの島に存在してゐたのだらうか。
神靈と共に民もこの島に降り立つたのではないか。
その謎を解明することが出來るのかは分からないが、可能性を信じ、私はこの神殿を出ようと思ふ。
神靈と民の起源、それを知らんがために。――
神明暦六六三年 ネマ・ルア
ロウレンティア 紫神殿
上級神官イサァクの日誌より




