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ゴウテツヤマクマゴロウ組(下)

「ホンマ、組の恥ずかしい醜態を見せてしもぉたなあ。ウチとしたことが。情けない。ずいぶんと昔から、娘に男を取られとったなんてな」


 苦笑しながら言うギョヒョンの顔はどこか疲労がにじんで弱々しかった。


「……あねさん。兄さんたちの絆に免じて、どうかご温情を」


 投げかけたヨシュアの言葉に、く、とギョヒョンは笑った。


「ようゆうわ、ヨシュア。われも、わしの娘に一杯、食わされてしもぅたくせに」


 はあ、とため息をつき、ギョヒョンはヨシュアを見つめた。


「まだ……姐さんと呼んでくれるんじゃな」

「それ以外に呼び方がありますか」

「そうじゃの。……昔のわれをつい思い出してまったわ。わりゃぁホンマにめっちゃくちゃ可愛かったなあ」


 ギョヒョンの声に媚びるような艶が加わった。


「でもやっぱし、男は三十くらいの男が一番ええなあ、わしゃぁ。……あのときゃぁ若ゆわれに無体なこゆぅたかもな……今やったら、どうや? わりゃぁあのときより更にようなった」


 また、自分の存在は忘れられているのでは、とスーゴは感じ始めた。


「あがぁなデカいことするような男になったたぁな……ザヤの邑の話を聞いたとき、すぐにわれだと分かった」


 だが次には突然変わった話の流れに拍子抜けする。


「われが身代わりになったチェミナは前にダフォディル南部に居った子じゃ。あの娘を知っとった。エエ娘じゃった。ええ人が見つかったけぇ、て言ぅてその男の故郷のアマランスに行ってしもぉたんじゃ。優しゅうて気の弱そうな男じゃったがの。……そがぁなことするような男にゃぁ見えんかったが。まあ、自分のガキと嫁を守るためやったら、それくらいのことするじゃろう」


 ギョヒョンの目がよく切れる刃のような鋭さを帯びた。


「やってしもぉたな、われ。背負しょわんでもええごう背負しょってしもぉてからに」


 束の間、緊迫感を持った時間が流れる。


「業の恐ろしさを分かっとるんか。ありゃぁ何処までもまとわりついて離れん。世の中で一番いびせぇなぁ何よりも人間様じゃ。われがザヤの邑でやらかした一番はそれや。神霊様がどうとかぬかした事よりの。いつかその業はわれを追いかけて燃やし尽くすで」

「……チェミナの夫のエッスィルの身体を借りたのは私です。彼には申し訳ないことをしました」


 表情を微動だにせず答えたヨシュアに、ふ、とギョヒョンは唇を歪めた。


「まあ、ええ。もうやってしもぉたもんはしょうがなぃんじゃ。せいぜい、焼かれんように逃げ回るこっちゃ……チェミナのこたぁ、ありがとうの。もしいつか、われにおぉたら、礼をゆわんとな、ゆぅて思うとったんじゃ。あの子と子供を守ってくれてすまんかった。ほいで……」


 ギョヒョンは手を伸ばし、ヨシュアの頰に触れた。


「われ……よう、あがぁな状況を生き延びた。えかったわ……よう頑張ったなぁ……」


 慈しむような母の声でギョヒョンはヨシュアの顔を見つめると、彼を引き寄せ、彼の唇を自らの唇をふさいだ。

 それからは唇を貪り合う男女が始まる。


 美男美女はやはり絵になるな、などとスーゴが眺めながら考えていたとき、騒々しい足音が近づいて来た。

 部屋に飛び込んで来たのはアティファだった。


「おばあちゃん! なんべんもゆうが、やっぱしリュ、おとんちゃんを許しちゃ…………うわぁお」


 勢い込んで入ってきたアティファは、目の前に繰り広げられている光景に目を丸くして立ち尽くす。


「アティファ! ちゃっちゃと出て行きんさい! おばあちゃん、これからエエところなんじゃ!」


 孫に顔を向けることなく、ギョヒョンは背中で言い放つ。


「他のもんにも、しばらくこっち来んな、てゆっとけ!」

「……はぁい」


 アティファは素直におとなしく部屋を去っていった。どうやら祖母のこのパターンには慣れているらしい。


「あの、私も出来れば失礼させていただきたいのですが」


 この機会を逃してたまるか、とあわてて口を切ったスーゴに、すでにヨシュアの膝の上に跨っていたギョヒョンは、あれ? と声をあげた。


「ヨシュア、あの男、われの『手土産』とちがうんか?」


 確認するようにスーゴと彼の顔を順に見る。

 はい、とヨシュアが彼女に答えた。


 手土産?

 とはどういうことだ。


 スーゴは疑問と共に視線をヨシュアに投げかけた。

 先のヨシュアは柔らかな微笑みをたたえている。


 悪いな、スーゴ。だから君を連れてきた。


 ヨシュアの目がそう言っていた。


 スーゴはおりてきた考えに雷に打たれたかのようになった。


 そういうこと、か。


 自分のような男を対象にする女がこの世には存在することをスーゴは最近、知ったばかりだった。醜い姿だからこそ、求めるという情動があることを。

 世の中には様々な需要があるらしい。

 ギョヒョン、彼女もそういう特殊な女だったのか。


 最初から。

 これがヨシュア様のお考えになった算段。


 自分を連れて来たヨシュアの真の目的にスーゴはひたすら驚き、呆れた。


「わしの好みをよう覚えとったなあ、ヨシュア。あの男を見た時から分かっとったんじゃ。われ、ウチになにかして欲しい下心があるんじゃろう?」

「ここに来たのはそれが理由です。今言うのも野暮ですので、それは後ほどお話させていただきたい。……というわけでスーゴ、君に問題はないな?」


 微笑みながらも有無を言わさない彼の目つきと言葉に、スーゴは首を縦に振るしかなかった。


「はい……ただ、先程から私は小用を我慢しておりまして。ヨシュア様の次を私は務めさせていただきますので、先に私はこちらを失礼させていただき」

「何を言ぅとるんじゃ。ションベンくらい待っちゃるから、はよぉ戻ってきんさい」

「……は?」


 困惑するスーゴに、こんなぁ(こいつ)、わかっとらんみたいやわ、とギョヒョンはヨシュアと目を合わせて笑い、彼に抱きついた。


「あのなあ。同時や」


 ヨシュアの胸に頰を押し当て、含み笑いの表情で彼女は告げる。

 再びスーゴが視線を投げかけた先のヨシュアは、ゆっくりと片眉と口の片端を上げて目で応えるところだった。


 すまないな、スーゴ。

 付き合ってくれ。

 これがギョヒョンさまだ。


 その時、稲妻に打たれたかのように辻褄が合った。

 先程の「奇形と美形」は同じだと言ったヨシュアの意味が。

 そして、ヨシュアという人物がどのようにして出来上がったのかということが。


 この厳しいダフォディルの乾いた自然と。

 貧しく過酷な生活環境と。

 過去に彼と関わった人物たちが、このヨシュアという人間を生み出したのだ。


 人間が一番恐ろしい。


 スーゴはヨシュアの黒い瞳を見つめながら、心の中でギョヒョンが言った言葉を噛みしめた。



 * * * * *



『はあ? ウチの組のもんを、マスカダイン島の全土に派遣しろ、じゃって? なんでまた。……ナトギの伝令の要領を各地に教えちゃれ? ああ、そりゃぁエエの。エエ考えじゃ。悪霊退治に至るまでの仕事が早よ済むから。ほんで……教育をしろ? ヤキ入れろ、てことか? ……真っ先にサンセベリアって ……ふーん、スーゴちゃんのふるさとに勘違いしたそがぁなアホがおるんじゃの。よっしゃ分かった。そんなぁシメちゃる。任せんさい。……チム=レサ様の欠片をもつワノトギをメインに? 確かにあんなぁらぁフラサオ様やシャンケル様のワノトギみたいに生活にゃぁ役立たんが、悪霊退治向けのワノトギじゃぁあるんじゃなあ。ウチもそう思うわ。今とちがって昔、チム=レサ様が御健在の時代は、ワノトギゆぅたらチム=レサ様の欠片持ちが最強じゃった、と話に聞いたこともあるんじゃわ……へえ、あんなぁらを称号つきにしてえらい身分にしちゃりてくれるんか……うーん、ゆう通りチム=レサ様は民に侮られとる節があるけぇなあ。あんま生活にゃぁ役立たん能力やゆぅて思われとるけぇの。ん? 悪霊退治で各地の信仰も得られりゃぁ、お力が増すかもしれんだって? ……なんや、信仰がお力を左右しとるんか。ほぉー、今まで知らんかったわ。ああ、じゃけぇ、ネママイア様は消えたんじゃのぉ。なるほど。……まあ、エエ。ウチもあの神霊様は要らんゆぅて思うとったんじゃ。大人しゅう漂ってもろぉてた方がええ、いびせぇお力やよってに。われのようなワノトギが増えたら災いの元じゃ……ああ、そういえば、そろそろ神霊ミュナ様も代替わりやがの。ウチはあの神霊様も実は要らんゆぅて思うとる。……ああ、われもスーゴちゃんも同じこゆぅて思うとる? そうじゃろう。そうねえ、なんちゅーか、ウチにゆわせるとあの癒しの能力はズルじゃ。せんでもええ領域に手を出しとる。死人を生き返らせたり、死にかけの人間を引き戻したり……それに、あの能力持っとるワノトギの行く末がいっつもどうなるか知っとるか? この前までおった唯一のワノトギもそうじゃったが。毎回、殉死するんじゃわ。耐えきれんらしぃんじゃ。救う命と救えん命を選択する難儀さに。どうして救ってくれんかったんか、って死んだ人間の家族からの責め苦にの。神経やられるらしいわ。あと、霊力が低いワノトギは能力使う代わりに自身に返ってくる苦痛がとんでもないらしいの。ヨシュア、われら蝸牛アデロと似たようなもんじゃの。カワイソに。あのワノトギはよほどの霊力を持った天然ちゃんしか務まらん、て聞いたの。絶対になりとぉないワノトギNo. 1、じゃっての……ふふ、わりゃぁホンマにワガママじゃのぉ、ヨシュア。好き嫌いで神霊様を選択すなんての。われ、一体何様なんじゃ。ほんで、ダフォディルのチム=レサ様びいきゃぁ、われの故郷の神霊様じゃけぇか? まあ、そがぁなもんじゃのぉ人間なんて、勝手で……ふふ。……そんで当然ながら、ウチらにゃぁなんか見返りをくれるんじゃろう。……出世払いじゃって? あほ、踏み倒すなや……スーゴちゃんは賢いなあ。よう、考えとる。そうや。いっぺん、ワノトギがこの島に何人居て、どがぁな奴らが何処にあるかは調べといたほうがええ。隠れとるやつも中にゃぁおるからの。ダフォディルのワノトギやったらみんな分かっとる。後で、タツに聞いたらええ。教えてくれる……今までそがぁなことしようとする奴がおらんかったけぇ。そりゃ、エエ。……スーゴちゃん、ヨシュアを頼むわ。コイツ、行き当たりばったりのとこがあるけぇね、あんたみとぉなんがそばにおってくれたらエエわ。……は? ロウレンティア神殿に? 一回? ウチがか?……わかった。組がちぃと落ち着いたら……そっちに行くわ……ふふ、それにしてもこがぁに楽しんじゃのぉ何年振りかのぉ。若い時を思い出すわぁ……なんかもう、われとスーゴちゃんのおかげでアホな娘とリュウのことなぞ、どうでもようなってしもぉたわ。ウンビも死んでしもぉたし……済んだ昔のことじゃけぇ、水に流すわ……わしの娘に傷つけられたわれに免じての、ヨシュア……』



 * * * * *



 鳥が空を輪を描いて飛んでいる。

 晴れやかな空だった。

 砂漠の空は目が痛いほど青く、スーゴは目を細めた。

 早朝は冷える。日中は灼熱の大地になるのに、だ。

 砂色のフード付き上衣のフードを被って、フィキーの街をスーゴはもう一度眺めわたした。ゆるゆると朝靄が立ち上っている。自身の息も肺から白く吐き出される。


「……ゴ」


 物思いにふけっていたスーゴは自分の名前を呼ばれるのに気付き、は、とした。


「スーゴ」


 どうやら呼ばれるのは何度目かのようだ。


「待たせてすまない、スーゴ」


 スーゴが振り返ると自分と同じく砂色の衣服に身を包んだ背の高い男がそこに居た。


「おはようございます、ヨシュア様」

「これからまた長旅だが。よろしく」

「できるだけ急いでロウレンティア神殿に戻りましょう」


 二人はフィキーの街を去るところだった。


「さっきは何を考えていた?」

「いえ、すみません……なんといいますか」


 歩き出したヨシュアにスーゴは続いた。


「……今回、寝所で重要な話をする、ということが初めての経験で、私にとっては想像もつかないことでしたので……貴方様といると新しい世界が広がるものだと。感慨にふけっておりました」

「そんな大それたことじゃないだろう」

「私にとっては天変地異と同じです」

「ちぃと! 待って!」


 後ろから子供の声が聞こえ、二人は歩みを止めて振り返った。

 見ると、アティファが懸命にこちらに駆けてくる姿があった。

 彼女は息を切らし、ようやく二人の前で立ち止まった。


「えかった……お弁当……作ったけぇ……持ってって……つかぁさい」


 ぴょんぴょん跳ねた茶色の髪と晴れた空色の瞳のその顔は、なかなかの美少女だ。

 二人にアティファは布で包んだ塊を渡し、くしゃりと顔中で笑った。


「これはありがとうございます、アティファ様」

「あと、ゆい忘れたことがあったけぇ、追いかけてきたんじゃ」


 アティファは、きらきらと輝く瞳でヨシュアを見上げた。


「ヨシュアさん、ウチ、ヨシュアさんがおとんちゃんやのぉて、えかったゆぅて思うとるんじゃ。おとんちゃんじゃったら結婚出来んけえね……ウチ、年頃になりゃぁ、ヨシュアさんを迎えに行くけぇ、そのとき、ヨシュアさん、ウチの旦那さんになってつかぁさい」

「……」

「な、お願い。ウチ、おかんちゃんより絶対に美人になるけぇ」

「……はい。ギョヒョン様が許してくださるなら」

「やった! 絶対じゃね! 約束じゃけえの!」


 アティファは飛び跳ねて喜んだ。


「スーゴのおっちゃんもまだ独りもんじゃゆぅて思うから、そのときゃぁウチの愛人にしちゃる」

「……面白いこと言いますな」

「はあ? からかってんよ。 失礼じゃねぇ、素直に喜びんさいよ! ボケ!」


 カッとした様子でアティファはスーゴを怒鳴りつける。


「ほんだらね、そんだけ。気ぃつけて、いにんさい(お帰りなさい)」


 あっさりと言い捨てると、アティファは踵を返して元来た道を去って行った。

 その後ろすがたを眺めながら、スーゴは隣のヨシュアを見上げる。


「よろしいのですか? 子供とはいえ、口約束など」

「ああ。多分、彼女が年頃になる頃には私は神殿には居ないだろうから」


 どういう意味だろうか。

 首を捻りかけたスーゴをよそに再びヨシュアは歩き出した。


「君は満更でもなかったんじゃないか?」

「……はい、まあ、なんと言いますか。少しどきりとして可能性を考えました。異性の好み、といいますか……性癖は親から子へ遺伝するものなのか、と」


 ヨシュアは片眉と口の片端をあげる。


「君の言葉を借りていうなら……その方がストーリーに夢があるな」


 街を出るなり、さくさくとした地面から深く足が沈み込む柔らかな砂の大地へと変わる。


「アティファ様は十歳だったか……年相応の十歳の子供はあんなものなんだな」


 ヨシュアが言った言葉に、スーゴはヨシュアが誰とアティファを比べているのかに気付く。

 眷属のあの少女は、アティファのような年頃に器候補として神殿に来、失敗したのか。

 なんとも哀れな話である。


「ところで。スーゴ」


 隣を歩くヨシュアがスーゴに呼びかけた。


「はい」

「君が……あの時(・・・・)、意外に慣れていたことに驚いた。……まさかとは思うが。ミラルディ様が君の部屋に来たのか?」


 ぎくり、とスーゴは思わず動揺して立ち止まった。

 おそるおそる隣のヨシュアを見上げると。

 いつも常に小バカにしたように笑っている彼の目が……その時だけは笑っていなかった。


 スーゴの心臓が恐怖に凍りつく。

 あの夜のことがスーゴの脳裏に蘇った。


 * * * * *


 ミラルディがスーゴの部屋に来た最初の夜、スーゴは何が起きたのかわからなかった。

 深夜に重苦しさを感じて目がさめると、紫の髪の少女が自分の上に馬乗りになって見下ろしていた。


「……貴方の書いた本を読んだら、試してみたくなっちゃって」


 ミラルディがスーゴに顔を近づけた。

 彼女の長い髪がスーゴの頰をくすぐる。同時に漂う甘やかな香りにスーゴの胸が波打つ。

 ランプの灯りで浮かび上がるミラルディは、妖しいほど美しかった。

 色気づいたただのガキ、だとしか思っていなかったのに。

 その表情は濃艶な大人の女性のそれだ。

 情欲で濡れたような金目が艶かしい。

 息を飲んで身を固まらせていたスーゴだったが、何か言おうと口を開きかけた。

 しぃー、とミラルディは、微笑んでその口に指を押し当てる。


「……ふふ。緊張してる。……貴方、初めてよね、きっと」


 感じた吐息と柔らかな指の感触が生々しく、スーゴは口を閉じた。


 ミラルディはスーゴの両手首を掴み上げ、スーゴの頭の上で合わせて紐で縛り始めた。

 少女のなすがままにされている自分にスーゴは驚いた。

 そしてこれから始まるであろう行為に期待で大いに胸を膨らませている自分にも。


 まさか、自分の机上の妄想が現実になる日が来るとは思いもよらなかった。


「貴方には刺激が強すぎるかしら。今日は目隠しした方が良いかも」


 布で視界を覆われる直前に言われたのはそれだった。


「大丈夫だから。今日は私に任せて」


 耳元で最後に囁かれた声にスーゴは頷くしかなかった。


 ……その後は、温かな嵐が身体の上を通り過ぎていった。



 ――後日、ミラルディはスーゴの部屋を何回か訪れ、二人は交互に配役を代えた――


 * * *



「……なんといいますか、私が醜いがために、異常に醜いが故に、かえってミラルディ様の気をひいたといいますか」


 スーゴはおずおずと口を開いた。


「ミラルディ様によりますと、私のような男の相手をするのは、かつてない嫌悪感と屈辱感が味わえてたまら……」

「続きは言わなくていい」


 鋭く遮るヨシュアにスーゴは口をつぐむ。

 さっさとヨシュアはスーゴの先を早足で歩き始めた。

 あの女、と吐き捨てる声が小さく聞こえる。


 お怒りでいらっしゃる。


 スーゴはその後を少し離れてついていった。


 ……私は今、この方の弱点に気付いてしまったかもしれない。


 スーゴは思った。


 この方でも懐柔不可能な難攻不落の唯一の女性。


 まったく、この方はなんと難儀な女性ばかりに惹かれる方であることか。


 呆れながらも、初めてヨシュアの鼻を明かしてやったような爽快感に、スーゴは思わず口元に笑みを浮かべ、離れ始めた彼との距離を詰めようとあわてて砂の大地を蹴り走った。


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