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時代は省エネ

 いろんな科目の勉強は、結構テンポ良く進んだ。気楽にやっていたつもりだけど、気がついたら魔法系は大抵読み終えたし、古代語とかも大体済ませた。今のわたしなら、どんと来い、ロゼッタ・ストーン。


 でも、武術は、あまり気が向かなくて、進めていない。天使のお兄さん教官はいい人なんだけど、修行がつらい。本を開くのが億劫になる。その代わり、「察知・隠密」とか「緊急回避」とか、近接戦闘から逃げられそうに対策はしておいた。


 とはいえ、いい加減飽きてきた。そろそろこの小屋を出て、生活してみたいなと思う。


 この世界がいくら危険だとはいっても、火魔法の極致みたいなのが撃てるっぽいし、大丈夫でしょう。練習で撃ったけど、とんでもない威力だったよ。誰に撃つためにあるの、あれ。


 魔法系の担当のお爺ちゃん先生も、ぽりぽりと頬をかきかき、ちょっと困り顔で教えてくれた。一応教えるがのう、みたいな。



 役立ちそうな武器とか、食糧とかを、「空間魔法Ⅰ」で学んだ【インベントリ】に放り込む。インベントリは、わたし専用の空間の倉庫だ。無限に入るようだし、出し入れ自由で、とっても便利だ。これは必須の技能だったね。


 書斎の山のような本も、持って行きたかったけど、小屋の外で開いてみたら、何も出てこなかったので、やめた。この小屋限定なんだろう。


 武器は、本の入門編を修了すると、もらえた。一応全部の入門編を終わらせておいたので、剣やら弓やら、いろんな武器がわたしのインベントリの中にひしめいている。


 「火魔法Ⅴ」はさっきのお爺さんが一応教えてくれた超強力広範囲魔法のやつで、火魔法の最高レベルだけど、これも修了すると、「魔法概論」でもらった、いかにも初心者向けな杖じゃなくて、ごつくて凄い杖をもらえた。たぶん、火魔法の威力、底上げされるんじゃないかしら、これでさっきのアレ、撃ったらどうなるかな、と暗い笑みを浮かべてみる。


 食糧は、もちろんMENUから適当にピックアップして出した。保存食になりそうなパンとか干し肉を中心に、適当に詰めていく。この小屋から最寄りの街まで、どれぐらい離れているか、教えてもらえていないので、何日分用意すればいいかわからないけれど、とりあえず1ヶ月分ぐらいあればいいだろうと思って、インベントリに放り込んだ。


 放り込んでから気づいたけれど、インベントリの中は時間操作も出来て、止められるので、別に保存性を意識しなくて良かったんだ。MENUのボタンを連打するの、意外と面倒くさかったのに。追加で、気に入った料理をさらに放り込んでおいた。これで、野宿も安心だろう。


 お世話になりました、って心のなかで呟いて、外から小屋を見る。

 少し進むと、女神様登場。チュートリアル以来だ。いや、チュートリアルのは幻影……だったから、初日以来だね。



「もう行くのですか?」

「ええ。武闘系は後半諦めたけれど、大丈夫かなと思って」

 女神様は軽くうなずいて、どこかから何かを取り出す。

「それは?」

「ひとつは、ナビくんですね」

「ナビ?くん?」


 ナビくんと呼ばれたのは、手のひらサイズの妖精さんだ。全体に薄い緑色をしている謎生物だ。突然現れたのも謎だし、何故か空中でクルクルと楽しげに回転していて、謎。



「「……あなたの異世界ライフを強力にサポート!」」

「ナビです。よろしくねッ!」

 2人揃って、こちらに謎のグーサインを決めてくる。

「よろしく」と怪訝な顔をしながら気のない返事をしておく。



「えー……もうひとつは、身分証。神官。修行中、所属する教会はない。そんなところですね」

 薄い青の小さな板を受け取る。職業:神官、本籍:クーロン(廃)となっている。

「名前が空欄ですけど」

「そうそう。名前、どうしますか?」


 そういえば、決めてなかった。急に言われてもな。



「モホロビチッチ・フレン・ゾクメン」

「貴族じゃないほうがいいですね、家の設定とか面倒なので」


 食い気味に言われた。

 グーサインに反応しなかったから、拗ねている。



「じゃあ、ハル」

「ハル? ……そう。わかりました」


 そう言って手を一振りすると、身分証のところに名前:ハルと追加された。日本での名前は、捨ててしまっていいだろう。新天地で、新しい気持ちで、やっていきたい。まずは、形から、なんてね。



「あと、お金と、キャンプの設備を用意してなかったみたいなので、あなたのインベントリに入れておきます。ナビに言えば、出来る範囲で、入れておきますから、言ってくださいね」

「ありがとうございます」


 なんて親切対応。万全のバックアップ体制だ。お金をちらっと確認すると、銀貨20枚ぐらいだった。銀貨1枚、1万円相当らしいから、20万円。当座はしのげるだろうけど、生活基盤の構築が急務だな。



「お世話になりました」

「ではお気をつけて」と一言残して、神様は消えた。


 女神様が消えた後、一陣の風が吹いた。



「ねえ、そこの謎生物くん」

「誰が謎生物ですか! 妖精だっつーの、ようせい!」


 やっぱり妖精なんだ。



「ついてきてくれるの?」

「当たり前でしょう? あなたのナビくんですよ。存分に使い倒してつかあさい」

「そう。よろしくね。何ができるのかな」

「地図、索敵、貴重な薬草・人探し、何でもござれってよ」


 思いの外便利なやつだ。性別が、わからないけど。雌雄同体かもね。



「じゃあ、一番近くの街まで、案内してくれるかしら」

「もちろん。ハルは、歩いて行くの?」

「歩いて、って?」

「ほら、空飛んだり、ワープしたりとか、ハルは出来るでしょ?」


 確かにそうだけど、風情がない。久しぶりに外の空気も吸いたい。幻影じゃない人と話すのが久々だから、歩きがてら、ナビと練習もしたい。ナビがまともな練習台かどうかは、微妙。



「最初は歩く」


 そう、じゃあこっちだよ、と言って、わたしの目の前をふらふらと飛んで、森の中に入っていく。



「ハルは、これからどうするの」

「流れの神官らしく、街に行って、お金を稼ぐよ。治療とか、魔獣駆除とか。神様たちにいろいろ教えてもらったけど、この世界のことが実感できてないから、いくつかの街に行きたいね」

「ふわっとしてるね。いいと思う。今のところ大きな争いはないから、平和に過ごせると思うよ、ある程度はね」


 ある程度、ね、と思いながら、その辺に生えていた野いちごをつまむ。



「妖精はごはんを食べるの?」

「その野いちごみたいな、魔力のないものは、食べてもいいけど、ムダになる。魔力で生きてるからね。ごはんはなくても、時々指先から吸わせてくれたらそれでいい。維持にはそれほど使わないから」


 時代は省エネなんだよ、とちょっと自慢気に言いながら、ナビは何故かわたしにならって野いちごをつまんでいる。ツッコミを入れるのが面倒なので、スルーする。きっと妖精にもうるおいが必要なんだよ、ハルは野いちごを独占するのかい!? とか言って絡まれるから。



「ところで、ここはどこなの?」

「今はシアという小さな街を目指してる。ヤーブラ王国の北部にある。シアの南には、北部で一番大きなレスという街がある。シアとレスを結ぶ北街道は、そのまま南にずっと行くと王都スターリだ」


 シアまではそれほど遠くないらしいけれど、さっきの小屋とその周りの安全ゾーンはもう撤去されているらしい。オーバーテクノロジーっぽいもんね。でもしばらく生活してたところに戻れないと思うと、少しさみしい。



 森の中のいい感じの空気を吸って、森林浴をしていると、【察知】で近づいてくるものが感じられた。ハル、と声を掛けられ、

「わかってる」

 と一言返して、その方向を向く。クローリという兎型の魔物だ。2体。小学校で飼っていたのよりも3回りぐらい大きい。森の中だから、火はまずいよね、と思って、水の弾丸みたいなのを放つ。


 パシュっという音がして、2体の兎はコテンと倒れた。インベントリに収納しておく。



「危なげがない。チュートリアルの成果だね」

「時代は省エネなんでしょう?」


 こんな調子で、省エネで魔物をあしらいつつ、ナビと雑談しつつ、森を抜けて、街道に出る。これがさっきの北街道。一応街道と言うだけあって、そこそこの幅はある。街道に出てからは、人とは会わなかったけれど、魔物との遭遇率は減った。ここから少し南に行けば、シアに着くようだ。異世界の町並みに、少し心が躍る。やっぱり中世風なのかしら。



 シアの街が近づく。

 ハルとナビの旅は始まる。


ナビさんからひとこと:

ハル、よろしくね。

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