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苦労性の女神様

 上がっていいぞ、と上司が言うのを聞いて、わたしは素早くお疲れ様でした、と返す。

 心待ちにしていました、という気持ちが顔に出ないようにしながらも、たぶん、返事が早かったからバレているだろう。

 上司の顔が、少し呆れているような気もする。


 別に急いで帰って、何かハマっているゲームに没頭したいとか、そういうことじゃない。

 単に職場に居たくないだけ。

 なんでって言われても、説明は難しいけど、仕事って、つらいから。



 とっぷり暮れた駅前から、うちを目指して歩いて行く。

 変わらない駅、店、街角、街路樹、交差点、そして、わたし。

 何をおセンチになってんだか、って、自分でもちょっと不思議に思う。



 それはいつもの帰り道をぼおっと歩いているときだった。

 黒いアスファルトを離れた右足は、次の瞬間、白い大理石を踏んでいた。

 びっくりして周りを見渡すと、真っ白な世界。

 わたし、トンネルも抜けてないのに、なんで?



「こんにちは」

「こ、こんにちは」


 突然声を掛けられて、わたしはびくっとする。

 とりあえず、挨拶は返さないと。仕事場でも、いつも言われてるし。

 ふと見ると、わたしよりずっと身長が高くて、長い金髪の、女の人が立っている。



「女神です」

「めがみ?」

「女神」


 女神様がいる。まあ、たぶん、角の出会い頭に頭を打ったんだろう。



「夢のなかじゃないですよ」


 心の中を読まれたかのように言われた。



「解説ビデオをご用意しております」

「解説ビデオ?」


 混乱するわたしを置き去りに、自称女神様は少し申し訳無さそうな顔をしていた。

 その前に幻のようなものが現れ、周りはゆっくりと暗くなっていった。


 よくよく見ると、その幻は女神様そっくりだ。その幻は、さっきの女神様と同じような声で、解説とやらを始めた。



 曰く、女神様はわたしの世界の空間を管理している。空間はその成り立ち上、時々ほころびるので、適宜ほころびを調整するプログラムを作っている。でも女神様の担当している世界はかなりたくさんあり、どうしても抜けが出る。ほころびが出来てしまっても、すぐに修復できるようにしているが、僅かな時間はほころびが残ってしまう。


 そのほころびは空間と空間を繋いでしまう。空間同士にも“気圧”みたいなのがあって、繋がれると“高い気圧”の方から“低い気圧”の方へ物質が流れてしまう。空気とか水とか、どこにでもあるものならどうとでもなるけれど、低い方の世界にないものが入りこんだ時に困ったことになる。大きな影響を与えかねない。だから、妙なものが紛れ込んだら、“網”を掛けて女神の管理する別の空間に拾い上げるようにしている。

 

 この辺りの説明は、とても丁寧に図解されていて、まるで飛行機離陸前の注意事項を説明するビデオを見ているような気分になっていた。

ちなみに、網の拾い上げはいつも成功するわけじゃなくて、わたしは幸運だったらしい。


 そして問題はここからで、 “高い気圧“の世界にいたわたしは、ほころびを通ってしまったことでそのポテンシャルを失っていて、元の世界に戻すにはかなりのエネルギーが必要になってしまうらしい。

というわけで、もし可能であれば、ほころびの作った流れ通りに他の世界に流れていって頂きたい。つきましては、あなたが別世界で生きるための充分な支援を提供させて頂きます。とのこと。



 音声ガイドがこのあたりまで話すと、幻は消えて、周りも明るくなった。



「この度はわたしどもの不手際で、申し訳ないことです」

「いえいえいえいえ」


 別に信仰とかはないけれど、女神様に謝られるのは、むず痒い。



「きっとお仕事大変なんでしょう」

「分かりますか!?」


 女神が食い付いた。しばらく、世界管理社畜トークを聞き流す。話の途中で、どこからかテーブルやら机やら、クッキーやら紅茶やらが登場してきた。わたしと女神様、どちらからともなく座って、クッキーを食べ始める。



「そもそも基本的なシステムの問題であって……」

「はあ」

「わたしはほとんど異常のない定期点検作業みたいなものですと聞いてこの職に応募したのに、蓋を開けたら……」

「それはおつらいですね」

「でしょう!? いい加減ストライキでもしてやろうかと、……」

「でも、女神様の献身的なお仕事によって、世界は支えられている訳ですし」

「ありがとうございます、いやね、わたしも仕事にやりがいは感じているのですよ、しかし雇用条件が余りにも……」

「しかしいきなりストライキというのは、適切な労使関係に影響が」

「ふむ、まずは話し合いの場を設けて……」


 世界を管理する女神様にストをされたら、世界の終末が相当近そうなので、適当にフォローしておく。この調子で暫く愚痴は続いていった。



「はっ、すみません、わたしとしたことが」

「いえいえいえ」

「ところで、別の世界に移って頂くとのことですが、ご了承頂けるでしょうか」

「それは構いません」


 実際、前の世界に未練はないのだ。両親は早くに亡くなって、親戚はいない。友達もいないし、何か熱意を持って打ち込んでいて、おじゃんになって困るようなこともない。大好きな場所とかもない。やっぱり、何の未練もないのだ。



「ですがいくつか質問をさせていただきたく」

「どうぞどうぞ」

すっかり機嫌が良くなった女神様がわたしをうながす。



Q. どんなところなのか?

A. 地球と変わらない人間がいる。他種族もいる。

 地球風に言えば、中世ぐらいの文明がある。

 地球との違いは、魔法がある。


Q. 魔法が使えるのか?

A. 使える。地球側から異世界に降りる時のポテンシャルを、魔力に変換できるので、充分な魔力を確保できる。存分にお楽しみください。


Q. いきなり放り出されるのか? ことばはどうするのか?

A. 日本語が大陸共通語なのでご安心ください。その他の諸言語も教えます。

 何故日本語なのかは、世界形成にかかわる禁則事項に抵触するため、説明できないが、コピーしたようなものだと考えて頂ければよい。

 その他の有形無形の支援に関しても、充分な期間を設けて提供する。

 不足があれば適宜申し出て頂ければ、対処できる範囲で対処する。


Q. 何をしたら良いのか?

A. 好きなように暮らしてもらえばいい。特にやらなければならないことはない。

 可能であれば、神への信仰を高めてもらえば嬉しい。

 これは、完全に別件なので、もし成果が出たら、出来高で報酬を払う。

 逆に、人間を絶滅させたり、星を真っ二つにしたりすることは、あまりやってほしくない。

 そういうことをすると、世界の存続に影響が出るかもしれない。

 よっぽどでなければ、大丈夫。緊急性がなければ、こちらからアクションを取る前に少なくとも連絡は入れるので、その際は適宜対応してほしい。


Q. 神への信仰を高めるとはどういうことか?

A. 知的生命体が神を敬う気持ちの総量が、その世界において重要な役割を果たしている。どのような役割を果たしているかは、申し訳ないが、説明することは出来ない。


Q. 同様の斡旋は、良く実施されているのか?

A. 稀というほどではないが、それは女神が管理する膨大な世界の数を勘案した場合の評価であって、地球に住む人間が、偶然に出現して、なおかつ可及的速やかに閉鎖する対策が実施されているほころびに入り込むというのは、有史以来それほど多かった訳ではない。


Q. これから向かう世界にも、わたしのような存在はいるのか?

A. 物質としては豊富にあるが、完全な知的生命体の形ではいない。あなたが最初。


Q. 地球の方のわたしの存在はどうなっているのか?

A. ただ存在しないというだけで、神隠しのような状況になっている。今のところはまだ1時間程度しか経っていないので、周りに動揺は広がっていない。ほころびは消滅させてあるので、物質の移動は止まっている。



 質問すべきことがなくなったので、口をつぐんで紅茶を飲む。



「そんなところでしょうか?」

「ええ、お時間を取らせてすみません」

「いえいえ、必要なことですから」

「毎度毎度こんなやり取りをしているのですか?」

「そうなんですよ、苦肉の策が、最初のビデオって訳です」


 苦肉の策の割には、結構、微に入り細に入り、力入れて作ってた気がするけど。

 女神様、結構この仕事、好きなんじゃない?




テンプレものを、ゆるく書いてみようと思って、はじめました。

気楽に読んでもらえたら、うれしいです。

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