3 異変
100匹近いヘルハウンドを倒したところで、ウィンドウには新しいアイテムの獲得が表示されていた。
Rヘルハウンドの牙
重量 10
攻撃 10
◇クリティカル10%
アイテムにはノーマル、レア、スーパーレア、ユニークの三種類がある。ノーマルはなんのオプションもついておらず、レアはオプションが一つ、スーパーレアは二つ以上がつくことになっている。それぞれ、基本的なスペックも向上している。
そしてユニークは特別な性能を持つアイテムで、様々な効果がついているが、強いものもあれば使えないものもある。
俺は早速装備を変更すると、ヘルハウンドへと飛び込んでいった。
これまた変わらぬ戦法で敵を仕留める。だが、今度は二発で倒すことができるようになっていた。
よし!
たった一発の違いだが、これにて効率がうんと上がることになる。
俺は浮かれ気味に、次の敵へと狙いを定めるのだった。
そしてレベルが4になった頃、他のプレイヤーたちが狩場にやってきた。まだ1時間くらいしか経過していないため、思った以上に速くレベルが上がったことになる。
やはり武器が新調できたのは大きい。
とはいえ、やはり武器らしい武器がほしい。これは素材でしかないのだから。そしてこの狩場も適正から外れてしまったことから、次のエリアに行くべきだろう。なにより、このAWOでは横殴りがマナー違反ということもない。だからプレイヤーが増えると、まともに狩りができなくなるのだ。
俺は一旦街に戻ることを決めた。
狩りに来たパーティのプレイヤーたちとすれ違いながら街へ続く移動用ポータルに入ると、すぐさま周囲の風景が変わった。
すでにプレイヤーたちの姿はあまりない。どうやら情報収集、あるいは狩りに向かったようだ。もしかすると、別のマップもあるのかもしれない。先ほどのプレイヤーたちは十人ほどしかしなかったから。
とりあえず俺は、鍛冶屋を探す。人々はたくさんいるが、ノンプレイヤーキャラクターだろう。しかし、最近では高度な人工知能を搭載しているから侮れない。
俺は花に水をやっている綺麗なお姉さんに話しかけることにした。相手がNPCだとわかっていれば、緊張することだってない。
「あの、すみません。この辺で鍛冶屋はありませんか?」
「鍛冶屋ですか?」
お姉さんはうーん、と首を傾げる。
どうやら緊張しないというのは、俺の思い込みにすぎなかったらしい。お姉さん近くで見るとますます美人だし、こんな仕草をされたら、女性経験のない俺には刺激が強すぎる。
「ああ、そう言えば、街外れにありますよ。ここから北に行ったところの。なにか武器でも作ってもらうんですか?」
「ええ。モンスターから素材を取ってきたので、これを売ってからなにか買おうかと」
「それならすぐ西にある商店に直接いったほうがいいかもしれませんねー。鍛冶屋さんは、そういうことはすべて丸投げしていますから」
「ではそうしますね。ありがとうございました」
「いえいえ」
お姉さんはにこやかに笑う。
あー、うん。なんというか、現実の女性に興味をなくしてしまう人たちがいるっていうのも、納得できてしまう。
俺はこの場から去ろうというのに、彼女はまだ手を振ってくれている。こういうのでいいんだよ、こう、平凡な幸せというか。
しかし、いかにVRMMOがエレクトロニックスポーツとして人気になっても、プロゲーマーはやはり女性受けは悪い。彼女なんて、夢のまた夢だろう。
急に現実感がやってきたので、俺は頭を振って歩き出した。お姉さんが言った通りの場所に行くと、そこには武器や防具が飾られているのが見えてきた。
値段がどの程度なのかも判別がつかなかったので、とりあえず店員に訪ねてみることにした。慌ただしく働いている彼らの一人に声をかける。
「すみません。素材の買取はできますか?」
「はい、こちらへどうぞ」
促されてカウンターまで行くと、俺はインベントリから次々と素材を取り出していく。どれもヘルハウンドから取れたものか、そこらに生えていた素材なので、大したものはない。
が、彼らはこの様子を見て驚いていた。
「アルマの使徒の方ですよね? 先ほど来られたばかりだと思っていたのですが、前からいらっしゃったのですか?」
「いえ、先ほど来たばかりです。ところでアルマの使徒とは?」
「アルマというのは、この世界の神々のことを指します。なんでも、ときおり世界の命運を分ける選択をするときに、この世界に使徒を遣わし、彼らの戦いによって決定するということを行っているそうです。百年に一回ほどあるそうですよ」
どうやら、このインベントリなどのシステム周りはアルマの使徒限定の能力、ということになっているらしい。いろいろと回りくどい設定だなあ、と思いながら、俺はしばし待つ。勘定が済むまで、やることがないのだ。
と、そこで思い出したので、メニューウィンドウを開く。そして曜日を確認。今日は木曜になっている。たしか、金曜にPvPが行われると言っていた。ならば、本戦は明日ということになる。
しかし、どうにもおかしい。
大会の予定表には、4時間程度の試合が想定されていたはずだ。しかし、すでに1時間が経過している。
だというのに、日が暮れる気配はない。すなわち、ゲーム内時間が通常の時間と同様に経過していることになる。
いよいよ、俺もこの異変には気付かずにはいられなかった。もしかすると、ここがゲーム内ではないのではないか、と。
疲労や痛み、外傷といったゲームでは禁止されていたはずの内容。そして一向に始まらないPvP。さらに、男の台詞も、盛り上げるために言ったのではないとすれば――。
「お客様、この素材でしたら、数千ゴールドと引き換えにこちらの武器と交換することができますよ」
と、声がかけられた。
慌ててそちらに目を向けると、一振りの剣があった。鋭く、全体のバランスがいい代物だ。
しばし見ていると、これまたウィンドウが開く。
Uハウンドソード
重量120
攻撃68
◇クリティカル15%
◇HP+60
◇移動+10
本戦と予選で設定が違わない限り、全体的に使い勝手は良さそうだ。他の代物も見せてもらうが、ノーマルの品では高くても攻撃が20代なので、随分と違うことになる。
序盤にしてはかなりよい武器ではなかろうか。
このレベル帯で得られる武器を訪ねてみるも、
「こちらが最高の品ではないかと思います。乗り換えるとなると、第三エリアで取れる武器ですかね」
「ええと第三エリア、ですか?」
「ええ。このヘルハウンドのいた東の草原とは反対側、西にもエリアがあるのですが、そこが第一エリア。更に離れると第二、第三と続いていきます。開拓が進んでいるのは第五エリアまでで、第三エリアにはこことは違う町もありますよ」
「なるほど、ではこれにしますね」
第三エリアでは西は沼で亀のモンスターが存在し、防具などが得られやすく、東では森林地帯で樹木のモンスターからアクセサリの類が得られやすいとのことだった。
防具などもそろえる予定だったが諦めて、ほぼ全額をつぎ込んでハウンドソードを入手する。すぐに乗り換えることはできるからだ。乳白色の剣はずっしりと重い。
西のほうも見ておきたい、ということで俺は西に向かうことにした。しかし、その前にやることがある。まだまだ日が落ちる気配はなかった。




