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神様の居ない世界  作者: 御神楽しおん
世界少年編
2/11

壊れていく世界

目を醒ます。

そこは最早瓦礫の海でしか無かった。

俺の日常の世界が、崩れ去っている。

窓ガラスは粉々に吹き飛び、起き上がろうと力を入れた手に突き刺さり痛んだ。

外は真っ暗闇で、さっきまでのいつも通りの朝は変わってしまっていた。


俺の平和で適当な世界は、消え去ってしまっていた。


目が暗闇に慣れ始めた頃、妹が血の海に沈んでいるのを見た。

「○○!?」

言葉は闇に消えて行った。

さっきまでは朝だった筈だ、さっきまでは、何も無かった筈だ。

妹の側に駆け寄り、抱き起こす、雨に濡れた直後のように、血まみれで息をして居ない妹の体を揺らすも、その目はどこか虚空を見つめていた。


あれからどれ位経った?

時計という時計を見るも、全てがデジタルだった世界の時計は沈黙していた。

どれもこれも何もかもが時間を失っているように感じた。

怖くなった。何も音のない世界で俺は1人叫んでいるつもりだった、声さえも出ていないのか、耳が聞こえていないのか、分からない。

全てが闇に飲まれて消えて行っているように感じる。


くそ。なんだこの世界。

これこそどこのファンタジーだ。


望んでもないファンタジーを叩きつけられ、俺は1人叫んでいる。

妹の名前を呼んでも音にもなっていないような世界、自分以外が滅んだような真っ暗闇で。

さっきの光は何だった?

妹はこんなに血まみれなのに、何で俺は動ける?


なあ、神様、こんな世界望んでねーよ。

都合良く俺は神様に願った。


それでもこの世界は変わらない。

何も動かない。


瓦礫の山を退かし、妹の体を無事そうなソファに横たえると俺は誰かを探しに行くことにした。

お隣の…誰だ?

名前さえも出てこない。

毎朝おはようと挨拶していたのは誰だ?

思い出そうとしても、思い出せない。

記憶にもモヤがかかっているようだった。


人間…誰か、誰か!


靴も履かずに素足で飛び出した俺は、この世界を目にする。

吹き飛んできたであろう誰か達が折り重なって、絶命している。

血生臭かった。


誰か、誰か。


死体の山が作られて、人々はそこに集まって死んでいた。


生きてる人間が居ない、無の世界。


あの光の後何があった?

俺以外の人に何があった?


誰か!と叫ぶ俺の声は声になっているのか?

誰かが居たとしたらまず何を話すんだ?

何を言えばいい?

いきなり書き換えられた日常を、可笑しいとでも言えば良いのか?

神様に助けてくれと叫べばいいのか?


神なんて、そもそもいるのか?


…そこで俺は思い出す。

神は居ないと。


もし、こんな世界を望むとしたら、最後の神様がやったに違いない、それで、何も信じなかった俺に見せしめとして見せつけているんだ。


それ以外に、何がある?


天使の墜落?


テレビで言ってたアレか?


天使なら救うんだろ?

神様と戦うんだろ?

なら、守れよ、俺の世界なんだよ!


真っ暗の世界を裸足であても無く走った。


行き着いた先にあったのは、めくれ上がった地面と、その中心に何かが居ること。


もう嫌だ、そもそも俺は生きて居るのか?

俺が死んで彷徨ってるだけじゃないのか?

日常は、平和は、どこへ行ってしまった?

俺だけ何で、動いて叫んでる?

何故俺は無事なんだ?

窓に近い場所にいた自分と、離れていた妹の怪我の違いが可笑しい。


可笑しい世界の終わりに、めくれ上がった地面、そして何かが倒れている。

人間じゃないのはもう分かってる。


クレーターなのだ、隕石が落ちてきた跡のような。

街がこれのせいで消し飛んだのだ。

俺は気付く。


コレが、人間で無く、ただし人の形をした、純白の天使だということが。


性別はわからない。

無いのかもしれない。

意識を失っているのか、それともこれさえも死んでいるのか。

仰向けに倒れて、クレーターの中心にいた。


初めて見る物だった。

色素の薄い肌、髪、睫毛。

そして背中に生えた翼。


『天使』


口に出たその言葉と共に、天使は目を見開き、人の言葉でないものを繰り返し呟き始めた。


超音波?それとも他の国の言葉?

高速で紡がれるその言葉を、俺はただ聞いていた。

天使の目の前で。


そして機械が停止したように、一旦天使は目を閉じ、ゆっくりと人のように目を開いた。


おい、天使、お前が天使ならなんでこんなことになってんだ、救えよ、俺の日常返せよ!

みんな死んでるじゃねーかよ、お前が落っこちてこなければこんなこと無かったんだよ!

なんなんだよ!

神様が居ないならお前が助けろよ!

天使の癖に世界滅ぼしてんじゃねーぞ!


声として届くのかも、何もかもが謎だ。

だけど、俺にはこれくらい言いたかった。

壊された世界をただ返せと。

なんだか、無駄な気もした。

だけど、ぶつけたかった。


天使は俺の顔を見上げ、薄く開いていた目を、見開いた。


「シキベツ、人間、ト、断定、契約者…該当ナシ、対暴走神用武器、発動申請、…認証ナシ。」


地面にめり込んでいた背中を起こし、座り込んでいる俺の目を見る天使。


「契約者トシテ、申請、…了解、通称名ヲ、名乗リマス。」


なんだ、わけわかんねーことばっか言って…ロボットかよ。


「通称名ミカエル、式別名、夜。無言ニシテ我ニ応エヨ。」


何言ってんだかわけがわかんねーよ。

俺は口を動かす事を既に忘れていた。

声って、誰かと話せるから声って認識があるだけで、返事してくれる人が居ないなら、口を開いて言葉を話す理由も無いと思った。


そもそも、人間と話して居ない。

目の前にいるのは白い天使だ。


壊れたロボットみたいな、ノイズの混ざった声の天使だ。

無機質な、天使の声だ。


「無言にて、契約を完了する。

神を討つ者、通称名ミカエル、世界を主とし再構築する。」


声が、少女のような声に聞こえた後、俺は再び、強い光に飲み込まれていった。


あー、もうどうにでもしてくれ。

神様、アンタはそもそも、なんで…。

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