黒を潰す世界
ザアアアアアアアア!!
妙なノイズが耳に響き、俺とまあこは耳を塞いでいた。
驚いて閉じてしまった目を開くとそこには虫がわいているかのように黒い点…悪魔が俺達を、トリイも夜も含め囲んでいた。
「邪魔。」
トリイはほぼヤケクソ状態に見えた。
バズーカのような武器を乱射し、近くに居るものは片っ端から捻り潰していく。
それでも寄ってくる悪魔に攻撃を喰らいながらも、トリイは標的を悪魔に変えて戦いだした。
夜の方も同じだったが、俺達を守りながらな為思うように攻撃が出来ないでいた。
俺達が乗っている風船みたいな空間は不安定に揺れた。
「夜ちゃん!トリイさんも!
お兄ちゃん…どうしよう!」
涙を溜めながら妹は今度は俺にしがみついてくる。
俺だってどうするのが1番いいのか分からない。
どうする?こんな足もつかない場所に居たらいつ落ちるかわからない。
夜だって突然現れた悪魔を潰して行くのに必死なようだった。
どこの空だか分からない場所で、奇襲を受けている。
キィィィン!
鋭い音が俺達が乗っている風船を貫くように響く。
悪魔がこちらを一斉に攻撃してきていた。
もしかして?狙われてるのは…?
バリバリバリ…キィィィン!
夜の作った風船のような乗り物が破かれる。
「チッ」
遠くでトリイが舌打ちしたように聞こえた。
その直後、割れた風船から俺とまあこは落とされる事になる。
空中に投げ出された俺と妹を見たトリイはニィと笑ったように見えた。
空間を渡り、トリイは目の前に現れた。
落とされた俺とまあこの距離が開く。
そしてまあこは一瞬にしてトリイの手に掴まれてしまう。
「お兄ちゃん!」
その声を最後にトリイはまあこを抱え、そのまま消え去ってしまう。
落ちて行きながらの瞬間に起きた出来事。
神の巫女と呼ばれた俺の妹。
落ちる感覚に気を失いそうになった次の瞬間に、俺はもう1人の天使、夜に抱えられていた。
その夜は正気ではないように見えた。
トリイは悪魔の狙いが神の巫女であるまあこにあるのに気が付き、結界のような役割だった風船が破れたのに気が付きまあこをさらっていったのだ。
「まあこ!」
叫んでも、時すでに遅し。
用事が済んだかのように消え去ったトリイ。
空に残ったのは空を飛べもしない俺と、再び暴走を始めた夜だった。
黒を目に映し、片手で大きな件をふるう。
薙ぎ払われて行く悪魔は霧となって消えていく。
俺が見た夜の目は、恐ろしすぎて、見ていられなかった。
無機質で、ただ空中を見つめている。
ただ空も飛べず、暴走する夜に何も言えなくなっているのは俺だった。
みるみるうちに夜に薙ぎ払われて黒い悪魔達が消えていく。
そしてその奥大きな翼を持った悪魔に出会う。
「潰す。」
夜は片手に持っていた剣を放り投げ、その悪魔の心臓部を鷲掴みにし…文字通り潰していくのである。
時間をかけて、他の悪魔など小物のように、自らの翼に攻撃が当たっても気にも止めず。
朝言っていたコアというものなのだろうか。
憎しみを込めるようにジワリジワリと、その心臓部を潰して行く。
その悪魔の断末魔が響き、俺は耳を抑えた。
ただ、怖いと思った。
一方的すぎるのだ。
力の違いが俺にもわかる位に。
パァン!
そんな破裂音と共に目の前の大きな障害物が消えると、次に夜は声とは違うような音波を歌うように口から奏でた。
次々に破裂して行く黒い元神の使い達。
見たくない…目を閉じてしまった俺だが、何かが潰れたり、破裂していく音を聞いていた。
そして暫らくして、音が止み、目を開くと黒い霧の中に夜に抱えられた俺が居るだけだった。
そこで見た夜の表情は、ただ泣いている、女の子そのものだった。




