2 Dr.side
会議室を後にした僕は呼吸器科の病棟へ挨拶へ向かった。
病棟は本館の3階にある。元は違う場所にあったみたいだけど、去年の病棟編成で今の場所に移動したのだとか。
本館の3階には呼吸器科の他に小児科も混じっている。元々3階は小児科、眼科、耳鼻科、皮膚科が入る混合病棟だったらしい。
階段を登り3階のナースステーションへ向かう途中、廊下で話している医師と看護師がいた。
近づいてみると看護師は速水咲夜で、医師の方は小児科部長の町田先生だった。
町田先生と話している速水は営業スマイルとは比べ物にならないとても自然な笑顔で、不覚にも僕は彼女の笑顔に目を奪われた。
彼女、あんな風に笑うんだ…
「ー、でも、本当に3病棟にこられてよかったです!先生と一緒にお仕事できる日がくるなんて、」
「咲夜ちゃんは本当に立派になったね、体調も良さそうだし」
「はい、全部先生のおかげです!あっ、そろそろ行かないと、私、ナースステーションに挨拶に行く途中だったんです!」
聞こえてきた会話。速水が町田先生に見せる表情は嘘偽りのないもので、何故か僕を苛立たせた。
速水と町田先生って一体どんな関係なんだろう?
色々なことを考えながら、僕もナースステーションへ向かった。
ナースステーションでは速水ともう一人、こちらも新人と思われる娘が師長と主任に挨拶をしていた。
師長と主任の顔と名前は一応覚えている。
挨拶が終わったのか、速水ともう一人の娘が主任の後についてナースステーションを出て行く。
それと入れ替わりで僕は師長のもとへ挨拶へ。
「おはようございます」
まずは、爽やかに挨拶。
「あら、あなたは、」
「今日からこちらでお世話になります。呼吸器科の清水伊織です。父がいつもお世話になっております」
「まぁ、ご丁寧に。病棟師長の鶴崎です。よろしくお願いしますね」
「はい、こちらこそよろしくお願いします」
3病棟の師長、鶴崎さんは、おっとりした雰囲気の40代後半の女性だ。父曰く、見た目に反し頭の回転が速く相当なやり手らしい。
しばらく鶴崎師長と会話していると、速水たちが戻って来た。
「宮川さん、ちょっといいかしら。新人さん二人も」
「「「はい」」」
「こちら、今日から来られた呼吸器科の清水先生です」
「主任の宮川です。よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
「新人さんも挨拶してもらおうかしら」
「あっ、はい、池本美智香です。よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
この池本って娘は、速水に比べると全体的に小さく、童顔で、動きとか、なんとなく小動物の様な感じだ。
「速水咲夜です。よろしくお願いします」
凛とした声。腰から折れる流れる様な動作の完璧なお辞儀。そして、あげられた顔には素晴らしいほどの営業スマイル。
「よろしくお願いします…」
他に何か言おうと思ったが、言葉が出てこなかった。
出勤初日を終え、僕はベッドに横になって速水咲夜について考えていた。
こんなに、一人の女の子に執着したのは初めてだ。しかも、出逢った初日にだ。
一目惚れ?
いや、僕に限ってそれはない。
なら、なぜ?
まぁいい、とりあえず今日は眠ろう。明日から2泊3日の新人研修だ。速水とも、きっと一緒になる。
明日、話しかけてみるか。
そんなことを考えながら、僕は眠りに落ちた。




