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双倭学園恋愛奇憚

お約束的な展開に挑戦してみました。

作者: 藤堂阿弥

少しは、華苗を幸せにしなきゃと思いまして書いてみました。彼女のシリーズも一段落、です。

「転生者だろう?」

 にっこり笑顔のイケメンに言われて…私、どう返せばいいのでしょう?






 全寮制の双倭学園では、原則として土日であっても、学園の敷地外に出るときは、申請制になっています。

 まぁ、『良家の子女』が多く学ぶ場所ですので、警備上の問題等があるのですが、この申請、出るは易し、入るは難しというお決まりのパターンになっているため、余り利用する人は少ないのですが、最近高等部生徒会長がたびたび同伴者をつれて「外」に出かける、というのが噂になっている。と、いうのはさておき。


 学園側の措置として、春、夏、冬の長期休暇とは別に、授業に当てた祝日と試験後の採点日を兼ねて、年に2回ほど1週間の長期休暇があります。

 勿論、学園内に留まるもよし、実家に帰るのも良し、の期間ではありますが、今回、大学部に在籍している下の姉(華澄、といいます。上の姉は華蓮です)に捕獲…基、連れられて、何故か系列、というか上の姉の半ば趣味でやっているトータルサロンに連れて行かれ、そのまま、ホテルのレストランの個室に…となればおのずと目的がわかりますが、「後はお若い方で」と、少なくともお相手より若い姉に言われ、苦笑しながら名乗ったお相手に思わず固まった私に、その苦笑を一層困ったものにされて冒頭の一言をおっしゃいました。






 鼻をくすぐる紅茶の香りに、はっと我に返ると、いつの間にか用意されていたティーセットのカップを目の前に置いた青年が、どこか慈愛を含んだ眼差しで「兎に角、座って」とおっしゃる言葉に、力が抜けたように座り込んでしまった私は…マナーに問題はあるでしょうが、この場では許されると思います。


 余り関係ございませんが、今回の外出は姉が手配して学園側に書類を提出したそうです…何時の間に、というか寮の許可書も要るので、莉沙紀も一枚噛んでいるんでしょうね。うふふ、休み明けが怖いですわ。なんちゃって。


「ごめんね。流石に驚いただろう?」

 良く通る柔らかい声。でも、記憶にある声優さんとは違う声に思わず顔を上げると、それでもゲームのキャラクターの面影を宿した青年がそこにいる。


「申し訳ございません」

 立ち上がって非礼をわびる。少なくとも二人の姉が紹介する相手だ、御子柴 華苗としての面識は無くてもそれなりの相手なのだろう。

「構わないよ。驚かせたのはこっちだから…それにしても、うん、本当に『華苗ちゃん』なんだね」

 再び座るように促されて、腰を下ろすと紅茶を勧められる。良質なダージリンの香りと味が心を落ち着かせてくれる。

「君が転生者だって分かったのは、私…俺の名前に反応したから、かな?」



 時田 一也。



 小説のシリーズのファンなら知らぬものは居ないその存在。

 とはいえ、彼自身が主人公の、もしくはサブキャラとして小説に登場したことは、少なくとも私が知る限りでは一度も無い。しかし、彼の名前が出てこない作品も無い。


 例えば、友人同士の会話で。第三者の回想で。何かの例え話で…全く関係の無い場面で。


 一作一回と言われるほど、彼の名前は登場する。そして、かのゲームで隠しキャラとして…それでも、その設定は最後まで謎の人物のまま、エンディングを迎えるのだ。


 ゲームでその存在に物議をかもし出した彼は、某絵本のボーダー柄の青年の様に、「何処で見つけたか」ラインが立ち上がるほどの存在だった。



 この世界で、不思議に思ったことのひとつに、彼の存在が全く感じられなかった、ということだ。学園の名簿を見ても彼の名前は存在しない…では、目の前の青年は誰なんだろう。

「ですが、姉たちとはお知り合いでいらっしゃるんですよね」

「華蓮さんとは学園の同級生だったからね。ちなみに今はイエール大学の大学院に在籍している」

 イエール大学って…なんつーハイスペックなお方を連れてらっしゃったんです、姉さまっ。

「双倭の大学部や院を外部から入るよりはよっぽど楽だと思うけどね」

 え、と口の出していましたか、私。

 ゆるく首を振って時田さんは楽しそうに笑った。

「いや、結構顔に出るんだね、華苗ちゃんって。下馬評とは大分違う」

「すみません」

 普段は、もう少し落ち着いています。少なくとも初対面のお相手にこんな醜態は晒しません。


「いいや、そもそも俺が最初に爆弾を落としたからね」

「それじゃあ、時田様も」

「様はいらないよ、俺だってさいしょから『華苗ちゃん』って呼ばせてもらっているから」

 不快だった?といわれて首を振る。全くそんなことこれっぽっちも感じていませんでした。



「ありがとう。そうだね、君が思っているように俺も転生者だ」

 くすり、と笑って時田さんは本日二度目の爆弾を落としてくださった。

「向こう…転生前の世界では作者のイトコでゲーム会社の企画部門に在籍していたんだ」


 かの小説をゲーム化された会社名を出されたのは言うまでもないと思います。




 何から話そうか。


 そう言って、彼はソファに身を沈めた。君も楽にして、との言葉に甘えさせてもらう。

「あの作品をゲーム化するに当たっての条件は2つ。一つは君…華苗嬢をライバルキャラとして設定しない。もう一つは隠しキャラとしての俺の存在」


 最初は隠しキャラって義弟くんだったんだけどね。

 その言葉に思わず笑ってしまう。

 あはははは、「お手軽ルート」の義弟クンが隠しキャラって…言っちゃあなんだけど、ありえない。


 人気小説のゲーム化の発案は、彼らが身内だと知っている時田さんの上司の方からだった。

 企画書と共に訪れたイトコに作者さんは、二つ返事で快諾し、先程の条件を挙げたのだ。

「俺がゲーム会社に就職した時点で、自分の作品が企画されるかもしれない、っていうのは想定していたみたいでね」

 ただし、『時田 一也』が何者かは最後まで出さない、ってね。それは製作側も小説のイメージがあるから反対はされなかったと彼は肩を竦めた。ただ、華苗をライバルキャラに、という声は最後まで製作サイトから上がったそうだが、それをするならこの話は無かったことに、いや、他の会社で条件をのんでくれる所にやってもらう、といわれてはどうにもならなかったらしい。

 愛されてるねぇ、と笑う時田さんに思わず俯いてしまった。



「ぶっちゃけ…名前を借りられた俺は知っているんだけど『時田 一也』って、完全に作者のお遊びの存在だったんだよ」

「お遊び、ですか?」

「そう、名前だけが常に出る、どこの誰ともしらぬ存在…その証拠に『この世界』にはどこにも『時田 一也』というのは存在しないだろう?」

 同姓同名はいるかもしれないけどね。


 喉を潤すために含んだお茶は冷めていたけど、いいものは冷めても充分に美味しい。


「その上、作者の脳内設定では『時田 一也』はとんでもない存在になっていてね」

 淹れなおそうか、とカップを掲げられ首を振る。充分美味しいお茶だもの、勿体無いです。と返せば嬉しそうに微笑んだ。

「よかった、俺が支援している茶畑の葉なんだ。気に入ってくれたのなら、今度送るよ」

「ありがとうございます。嬉しいです」




「時田 一也…ここでの名前は違うけどね。それでも『時田 一也』という存在の俺は、言ってみれば『権力』と『人脈』の象徴なんだ。しかも、決して表には出ない」

 名乗った、この世界での彼の名前は、私も良く知っている。小説にはでてこない、この現実社会で存在する人物。八島の傍系で、上総の後を引き継ぐ第一候補といわれている存在。しかし、今まで彼とは何故か出会った事がなかった。

「それも、小説補正か何かかな?君の姉上たちには、学校外でもパーティとかで会うことはあっても、どちらかに事情ができて会うことがなかったからね。上総の隣の君には会えないって事だったんだろうって今回の事を思うと分かるよ」

 一応、この先はどうあれ、小説上での八島 上総とは縁が切れた。この場を設けるにあたっての家族や友人たちの思惑はどうあれ、小説補正とは関係ない新しい出会いではあるのだろう。




「それで、だ」

 立ち上がって、彼は優雅に一礼する。

「御子柴 華苗さん。私とお付き合いいただけますか?」

 この場において「どこへおいきになられますの?」と呆けるのも面白いけど…彼の言葉使いを聞いてそう言うのは流石に御子柴としては問題発言になる。


「傷物といわれております。よろしいのでしょうか?」

 にっこりと、時田さんはこの日一番ともいえる笑顔を私に向ける。

「どちらの君も私は望みます」

 視界がぼやける中、慌てる時田さんが写る。きっと彼は、作者かみ様が用意してくださった私への救い、なのだろう。



精一杯の笑顔を浮かべて、立ち上がると彼の手を取った。






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― 新着の感想 ―
[良い点] 傍観的でしたが 愛はなくとも被害者であり、周りの言葉や色々と傷ついてるだろう事は確かなので華苗が幸せになれそうのは心底嬉しいです!! 上総&ヒロインサイドは予定されてますか?できれば二人の…
[一言] この世界の人間として、キチンと恋愛して、少しづつ絆を深めて、そうして幸せになって欲しかった。 転生者だとかそういう人と、いきなり突然に、じゃなくって。
[一言] 元婚約者殿には、一度痛い目にあって欲しいと思ってしまいます。(苦笑)
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