表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/38

「ふむ、今日は何を食べようかな?」

鷹は食堂の券売機の前で呟く。

人間の居住空間は地下へと移ったが、それでも食料事情や金銭事情はあまり変わっていない。

仕事をして報酬を得、それで物を買うというルーチンはこんな世紀末な世界でも変わってはいない。

地下とは言っても広大なのと人工太陽の開発とが合わさった結果、野菜も育つし、家畜を放牧することも可能だ。

「無卯は何を食べる?」

「いえ、今私金欠なので・・・」

鷹が聞くと無卯は恥ずかしそうに俯きながら答えた。

無卯も一応給料というものを貰ってはいるが、如何せんまだ前線には出れないので少ない。

それに比べて常時前線で天使と喧嘩をしている鷹は無趣味なこととも合わさって金はあり余っていた。

「無卯は何を言っているんだ? 俺がいるのに無卯に支払いなんてさせるわけないでしょ。好きなのを選びなさいよ」

「え!? そんな・・・悪いですし」

無卯は鷹の発言に恐縮してしまっている。

「子供が親に甘えて何が悪いんだよ。無卯が俺をお父さんって呼んでくれんなら、俺はお前の親代わりだぜ? ま、夕菜に嫌々言わされてんだろうけどな」

鷹は恐縮する無卯に苦笑混じりに言う。

鷹にとっても、夕菜と同じように第一世代は子供同然だ。

鷹は夕菜ほどではないが子煩悩であったらしい。

「それじゃあ、カレーを」

「ホイホイっと。俺もそれにすっかね」

鷹はボタンを押したあと、ポケットから電子端末を取り出し券売機に押し当てた。すると券売機から二枚食券が出てきた。

今の世界では電子端末による電子マネーが主流だ。寧ろそれしかない。

居住空間が地下に移ったことの弊害で昔のように貨幣を作る技術が失われてしまったからだ。

鷹は食券を厨房に持っていった。

「おばちゃ〜ん」

「はいはい、何だい?」

厨房の奥から人の良さそうな中年の女性が出てきた。

「あら、鷹くんじゃない。こっちに来るのは久しぶりね」

「ま、ここに来てる暇がなかったからね〜」

「あら? そっちにいるのは無卯ちゃん?」

「は、はい」

無卯が声をかけられて、礼儀正しくペコリと頭を下げる。

「いつもかわいいわね〜」

おばちゃんのトークはとどまることを知らない。

いい加減に腹が減って面倒臭くなってきた鷹が食券を見せながらおばちゃんに告げる。

「おばちゃん、カレー二つ」

「あ、ごめんね。ここに来たってことは食事するってことよね。ちょっと待っててね。急いで作ってくるから」

そう言うとおばちゃんは厨房のなかに小走りで入っていってしまった。

鷹はその後ろ姿を見ながら苦笑する。

「あの人はいつになっても変わらんな」

「・・・ですね」

程なくして戻ってきたおばちゃんからカレーを受けとると二人で席に向かう。

席につくと無卯がまた頭を下げてきた。

「ありがとうございます。この恩はいつか返します」

「だから良いっての。子供に見返りを求めるほど落ちぶれちゃいないよ」

鷹はハハッと乾いた笑いを漏らした。

今の発言は鷹の心からの言葉だった。

自分を父と慕ってくれる子供のために金を使うことに鷹は一欠片の疑念も抱かない。劔之 鷹という男は敵にはとことんまで厳しいが味方には甘いのだった。

鷹の言葉を聞いた無卯はもう一度お礼を言うと、照れたようで俯きながら一心不乱にカレーを頬張った。

鷹はその姿を少しの間微笑ましく眺めたあとゆっくりと自分のカレーを口に運んだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ