参拾鉢
実に四ヶ月ぶりに書いたので書き方とかも成長したかな?
まぁ、楽しんでいただければ幸いです
商業区から戻ってきて司令部に向かう廊下を通ると何か口論をしている声が聞こえてくる。
方向転換をしてその口論が聞こえてきた方に歩みを進める。
キツネを司令部に運ぶ方が先決だと言われるかもしれないが、鷹に正論を説いても全くの無駄だ。そんな無駄なことを考えるよりは世界の在り方について考えた方が建設的である。
「ていうか、私歩けるし!!」
「逃げられたら堪らないからね」
いまだに引きずられているキツネが悲鳴をあげた。異能のおかげで力に関するステータスが振りきっている鷹にとって人一人を引きずることなど造作もない。
声が近くなったので気配を消しながら進む。
「だから、あんたらは雑魚だって言われんだよ」
「ガキのくせに息巻いてんじゃねぇよ」
「そのガキに助けられたくせに先輩風吹かせんなよ」
「んだと!?」
片方はアクセルか。あいつの喧嘩っ早さは異常である。
その相手の冷静な方の声にも聞き覚えはあった。物陰から覗き見た顔にも見覚えがある。顔立ちの整った少……女か。確かキツネと一緒にいるところを何度か見た気がする。
「死にてぇのか!?」
「たぶん私と殺しあったら死ぬのはあんただよ」
冷静な少年の声に触れたアクセルのまとう気配が変質した。肌を刺すような殺気が辺りに立ち込める。
少女はそれに気づいてか、こちらも殺気を体から放出し始める。
一触即発の雰囲気が二人の間に漂う。どちらか片方でも怪しい動きを少しでもしたら、ここは即席の戦場に早変わりするだろう。
ピリピリとした空気の中、先に動いたのはアクセルだ。睨みあっているのが我慢できなくなったのだろう。足元にお得意のダッシュボードを発生させると少女に向かって駆け出す。
「遅すぎだよ。バカが」
少女はアクセルのスピードにも全く物怖じせずにアクセルに回し蹴りを放つ。
アクセルの悪いところは直情径行で直線的な移動しかしないところだ。どれだけ早くてもどこに来るのかわかっていれば対処するのは容易い。
少女の回し蹴りはアクセルの顔面に突き刺さり、アクセルは壁に叩きつけられて、動かなくなった。
「こんなんで私に戦いを挑むとかバカじゃん」
少女はアクセルに向かって吐き捨てる。
そこでようやっと鷹たちの存在に気づいたらしい。鷹たちに、正確には鷹と一緒にいるキツネに視線を向けている。
「おい、キツネ。何でそんなおっさんたちと一緒にいるんだよ」
キツネは体を震わせるだけで答えない。
その代わりに鷹が少女に答えた。
「おっさんとは酷いなぁ」
鷹は少女の言いぐさにため息を漏らす。
鷹はたまに老成しているとか言われるがさすがにおっさんと言われるのは傷つく。鷹は二十五歳。年齢のネタにはナイーブな時期なのだ。
それに鷹のことを少しでも知っている人間は鷹にこんな無礼なことは絶対に言わないだろう。
もしも仮にそれを言ったときに鷹の機嫌が悪かったら、最悪この地下都市が壊滅することだろう。
今回は鷹の機嫌がよかったからこの程度ですんだが、次もこの程度ですむかはわからないのが鷹の怖いところである。
「今日も元気だな、オロチちゃん」
「ちゃんづけで呼ぶなよ、おっさん。死にたいのか?」
「元気だねぇ」
少女、オロチは鷹を睨み付けながら殺気を発しているが、鷹はどこ吹く風と受け流している。
少しも苛立ったようすがないのは、今日は特別機嫌が良いのか、子供の言うことだからと気にしていないのか判断に困るところである。
「まぁ、俺を殺したいってんなら挑戦しても良いかもね」
鷹はそう言うと楽しそうに笑う。
その表情はオロチには挑発してきているようにしか見えなかった。
実際に鷹は挑発しようと思ってこんな表情をしているので鷹の作戦はとりあえずのところで成功したといっても良いだろう。
もうオロチは頭に血が上ってしまって正常な思考ができていないでいる。
「舐めるなよ! おっさん!!」
オロチは鷹に向かって一直線に突っ込んでくる。
鷹は性格が悪いのでさっきオロチがアクセルをのしたことと全く同じことをしてやる。要するに回し蹴りを放ったのだ。
「クソッ!」
オロチはそこでやっと自分の失策に気づき、左腕でガードしようとする。
まぁ、攻撃最特化型の鷹の蹴りの前にはそんなガードなど紙切れと同程度の意味しかもたないが。この場合の正解は少ない可能性に賭けて回避しようとすることだけである。
鷹の蹴りをまともに受けてしまったオロチはアクセルと同じように壁に頭を叩きつけられた。アクセルとオロチの違いはオロチの方が耐久性が高かったようでオロチの意識が飛ばなかったぐらいだろう。
オロチはあっさりと立ち上がる。
体からはさっきとは比べ物にならないほどの怒気と殺気が漏れ出ている。
「……おっさん。覚悟はいいか?」
その声は驚くほどに冷徹なものだ。オロチほどの幼いと言っても過言ではない少女がこんなものを出せるのははっきり言って異常だ。
鷹はオロチの問いに何も返さずにただ微笑むだけである。
それをどう受け取ったのかオロチも笑う。オロチの笑いは酷く凄惨なものだ。
「後悔すんなよ。でろ……」
「何をやっているんだ?」
オロチが何かを出そうとした瞬間にオロチの背後からオロチに声がかけられた。
その声は他でもない真金のものだった。
「ふむ……」
真金は一目見ただけで状況を理解すると鷹に声をかけた。
「鷹、説明してもらうからちょっとこい。鷹以外のやつらは指示があるまで自室で待機。この命令を破った奴は……わかるな?」
真金がそう言いながら睨み付けるとキツネは首がとれそうなほど首を縦に降った。
オロチは舌打ちをしたあとその場を後にした。
「さて、行くか」
真金が一人で来た道を戻っていく。
そのあとを追って、鷹とブリュキエルは廊下を進んでいった。




