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参拾漆

鷹たち三人が訪れたのは以前鷹が千波と訪れたバーだった。

ここは鷹の行きつけの店ということと、マスターと鷹の仲が良いので少しぐらいはわがままを聞いてもらえるのだ。

そのわがままということで今日は貸しきりにしてもらった。

寡黙なマスターと鷹がどうやって仲良くなったかは誰も知らない。鷹すらも知らない。

席につくとおもむろに鷹は話を切り出した。

「それで、何であんなところにいたんだい? 君の外出許可は降りてなかったはずだけど」

「私の力を使えば監視の目を誤魔化すことぐらい余裕。それにこれも訓練だって言えば怒られないだろうし」

「いや、さすがに怒るだろ」

少女の発想は安直の一言につきる。子供じみていると言い換えても良い。

監視カメラを誤魔化したのは誉めるに値する。が、無断外出は叱られるだろう。

「てか、フードとれって言ったろ」

「嫌」

「何で」

「これ見せたら誰も私に近づいてこなくなるから・・・」

少女は顔を隠すようによりいっそう深くフードを被った。これでは顔もほとんど見えない。

「別に俺は気にせんよ。俺はお前なんかとは比べ物にならないほどの化け物だしな」

鷹はその手に劔を出現させる。

マスターはなれているのか無反応だが、普通の人間ならこれを見ただけで逃げていくことだろう。

「それに可愛いんだし隠す必要もないだろっての」

「か、可愛いとか言うな!!」

頬を染めながら声をあげる。その対応からしてすでに可愛いことに少女は気づいていないらしい。

「てか、俺お前の名前知らんから教えてくんない? 俺は劔之 鷹、知ってるよな。そっちはブリュキエルだ」

ブリュキエルはマスターが出してくれた飲み物に気をとられていて、紹介されていることにすら気づけていない。

ブリュキエルには前後不覚の気があるらしい。・・・こんなのに殺されかけていたのかと思うと少しゲンナリしてくる。

「私はキツネです。それ以上の呼び名はありません」

少女、キツネはフードの裾を押さえながらそう言った。

彼女に名前がないのも無理はない。異能者は作戦区に買われた人間なので名前がないときがある。そういう場合は鷹がてきとうに思い付きで名付けているのだ。

「フードの下はどうなってるんですか?」

さっきまでカクテルを飲んでいたブリュキエルが思い出したかのように口を開いた。

頑なにフードをかぶり続けるその下に興味を持ったのだろう。隠されているものが気になるのは人間の性だろう。

「見〜せ〜て〜」

「い〜や〜」

キツネのフードに手をかけて剥ぎ取ろうとするブリュキエル。それに必死に抵抗するキツネ。それを微笑ましく眺めながらノンアルコールカクテルを口に運び喉を潤す鷹。

「見てないで助けてよ!!」

「俺はどっちの味方でもないからね。ほれ、中立ってやつよ」

キツネは助けを求めるが、暖簾に腕押し糠に釘と全く助けようとはしない。

引っ張りあいは拮抗していたが、やはり元天使には敵わなかったらしくフードがキツネの頭から離れる。

フードが落ちたことで現れたのは目が眩むような金髪とフワフワのキツネ耳である。

これがキツネがフードをとらなかった理由。キツネは異能を手にいれたのは良いが、その異能に体が引っ張られたせいで人間には存在し得ない獣耳と尻尾が生えてしまったのだ。すごく愛らしいものだと鷹は思うが本人は気にくわないらしい。

「・・・これは一般的に人間についているものですか?」

「ついていないものですね。耳はあるけど頭の上にはついていないね」

鷹とブリュキエルがキツネの耳を話題にあげているとキツネは恥ずかしそうに身を縮めている。

その体は恥ずかしさからなのか何なのかわからないがプルプルと震えている。その姿が小動物を彷彿とさせて、愛らしさを際立てていた。

「ま、何はともあれ作戦区に戻りますか。ブリュキエルもキツネもそれで良いね?」

「「え〜?」」

二人揃って声をあげる。

「もっと美味しいもの食べたいです」

「そのうちまた連れてきてやるよ」

「なら、良いです」

ブリュキエルは食い気だったのであっさりと陥落できた。

キツネに関しては何を言おうと拒否権は与えない。勝手に出てきたのはキツネなのでこれも一つの自業自得だろう。

「んじゃ、作戦区に帰るかー」

「おー」

「嫌ー!!」

鷹は会計を端末ですぐに済ませるとブリュキエルを伴って店から出る。キツネは逃げる恐れがあったので首根っこをつかんで引きずっていくことにした。


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