参拾伍
鷹が司令部から出ていった後に向かったのは食堂だ。自分の腹が減っていたというのもここに来た理由の一つだが、もう一つはブリュキエルの腹からかわいい音がなったのが理由だった。
「この感じはなんなのでしょうか? 体に力が入りません」
「それは空腹ってものだね」
ブリュキエルは元が天使なので人間のことを何も知らない。だから、逐一鷹が説明しなければならなかった。正直面倒だがブリュキエルを人間にしたのは鷹なので自業自得と言えば自業自得かもしれない。
券売機を見もせずにてきとうにボタンを二ヶ所押す。基本的に胃に入れば皆同じという精神なのであまり食い物には頓着しない。だが、不味いものを食うとキレるという理不尽さであった。
落ちてきた食券はカツ丼とカレーだった。最近カレーを食った気もするのでカレーの食券をブリュキエルに渡す。
「それ食い物じゃないよ?」
食券を口にいれようとしていたブリュキエルは慌ててそれを口から離す。
「・・・知ってましたよ?」
「なら、良いんだがな」
二人は厨房に向かう。
「おばちゃーん」
いつもと同じように呼ぶとパタパタと奥から人が出てきた。
「はいはい。あらあら、今日も新しい娘を連れてるのね」
「俺を女ったらしみたいに言うの止めてくれない?」
鷹が嫌そうな顔をおばちゃんに向けるとおばちゃんは豪快に笑いながら鷹の肩をバシバシと叩く。
「若いうちはそれでも良いよ。でもこの人って心に決めた人ができたら止めるんだよ? それを守るんなら私は何も言わないさ」
「へーへー。わかったからこれお願いね」
鷹が食券をおばちゃんに渡すのを見て、慌てながらブリュキエルは鷹の真似をして食券を渡す。
ブリュキエルの姿を見て、顔の笑顔をいっそう濃くしながらおばちゃんは厨房の中に戻っていった。最後に鷹に頑張りなよと伝えてから。
すぐに戻ってきたおばちゃんからカツドゥンとカレーを受けとるとてきとうに空いている席につく。
「いただきます」
「い、いただきます」
手を合わせていただきますするとブリュキエルがおっかなびっくりそれに追従する。
「この挨拶に何か意味はあるんですか?」
「さぁ、知らね」
実際には知っていたが知らないということにした。そんなことを説明していたらカツ丼が冷めてします。
箸を手に取り、ガツガツとカツ丼を口に運ぶ。ブリュキエルも箸でカレーを食べようとしているが食べづらいだろう。
「ん」
その様を憐れに思った鷹はスプーンを差し出した。スプーンは箸よりも扱いやすいし、何よりカレーはスプーンだろう。
ブリュキエルはスプーンでカレーを掬うと鼻先に近づけて臭いを嗅ぐ。
「ヤバイものは入って無ぇから」
その言葉を信用したのかしていないのか目をつむって口にスプーンを運ぶ。
幾度かの咀嚼のあと目を開くと、だらしなくその頬を垂らした。
「こういうときは何と言うべきなのでしょうか?」
「旨い、もしくは美味しいだな」
「・・・これはとても美味しいですね」
そう呟くとカレーを口に運ぶ運ぶ運ぶ。あっという間に皿にあったカレーはその姿を消していた。
ブリュキエルは食後の緑茶を飲んでなごなごしている。この顔を見て、昨日まで血にまみれた殺しあいをしていたと信じる人間はなかなかにいないだろう。
「ホッとしますね」
「そりゃ良かったよ」
鷹は和んでいるブリュキエルの分も盆ごと返却してくる。
「んじゃ行くか」
「どこにですか?」
そう応えるブリュキエルの顔にはもう動きたくないという言葉がありありと浮かんでいる。
それに気づかないフリをしながら鷹は口を開く。
「商業区を案内してやる。あっちにも旨いものはあると思うぜ?」
旨いものという言葉を聞いたブリュキエルは一も二もなくその言葉に頷いた。こうなったらただの腹ペコキャラである。
・・・それはそれで良いかもしれない。




