参拾弐
「・・・眠い」
作戦区の廊下を歩きながら呟く。眠いところを無理に起こされたり、起床と同時に喧嘩の仲裁をさせられたりしたので眠気は覚めきっていなかった。
その少し後ろを無卯とブリュキエルがにらみ合いながら追従してくる。
その事には特別なんの感情も抱かないが、背中にピリピリとした気配がぶつかるので少しやめてほしい。
フラフラと特に目的地もなく歩いていると前から見知った女性がこちらに歩いてきている。
「おは・・・」
挨拶をしようとしたら女性の手に持っていた書類でひっぱたかれた。そんなことをするのはこの作戦区のなかで千波しかいない。
後ろの二人は気づいていないようだが、気づいていたらきっと酷いことになっていただろう。主に千波が。
「朝から酷いな」
「酷いじゃありません。昨日は何をしてたんですか? あの後軽い地震が起きたのですが、それと無関係ではありませんね?」
無言で千波から視線をそらす。その行動を質問を肯定しているのと同じだ。
鷹は足に力を込める。無論、目の前にいる秘書(笑)から逃げるために。
「しーゆ・・・」
「どこに行く気ですか」
「・・・嘘だろ」
動き出そうとした瞬間に出そうとした右足のつま先を踏みつけられる。
鷹の行動を先読みして止めるなんてそれこそ想像の範囲外だ。千波が異能を持っているのではないかと疑いたくなってくる。
「どこに行こうと構いませんが、今日は何をするのかだけお教え願います。これでも便宜上は秘書ですので」
「違うよ。お前は秘書じゃなくてツッコミだよ」
「・・・その現実は気づかなかったことにします」
千波は嫌そうに表情を変えた。昨日した会話を思い出したのだろう。
「え〜と、今日の予定だったよね? いつも通りなにもないよ。頼まれたらそれを優先するし、することがなかったら昨日の報告書でも書くと思うけど」
「報告書の優先順位をあげてください。・・・それと気になっていたのですがそちらの女性はどなたなのですか? 私は見たことがないのですが、異能者の方ですか?」
「異能者と言えば異能者なんだろうね」
千波は鷹の後ろで睨みあっているブリュキエルを指差しながら言った。
一般人である千波にとって髪の色が淡い水色というのはあまり見たことがないものなのだろう。その髪の色だけで異能者だと思ってしまっても不思議ではない。
だからと言って鷹が千波に答える義務はないし、答える気もない。ブリュキエルの正体を伝えても無駄に千波を混乱させるだけだろう。
「ま、これ以上の説明は御免被る。安直に伝えて良い情報でもないし、お前に伝えることにさほどメリットがあるわけでもないしね」
この発言は大分ヒントになっているはずなのだが、それに関して千波が気づいた様子はない。寧ろ隠されたと感じたようで不服そうな表情をしている。
ブリュキエルが元天使だという情報は軽々しく口に出せるようなものではない。この情報は最悪この世界の今後を変える程度の重要性を誇っている。
鷹がそこまで考えていたのかいなかったのかは知らないが、これ以上は鷹の口からは語れない。
「んじゃ、俺は司令部でも行きますかね」
鷹は千波に何か聞かれる前に歩き出した。その後ろをいまだにメンチ切りあっているブリュキエルと無卯が続き、その後ろに千波が続く。徐々に人が増えるその様はなんというか・・・え〜と、例えが思い浮かばなかった。




