弐拾鉢
そして、新たな生命の時計が動き出す。
「・・・どういうことですか?」
「いや〜、昔から気になってたんだよね」
ブリュキエルは疑問に満ち満ちた声を出す。彼女の体はどこも切られてはいない。ただ、彼女の背後には根本から綺麗に切り落とされた翼が十二枚落ちている。
「パッと見た感じ人と天使の違いってその翼だけじゃん? だから、それを切り落としたらどうなんのかなって」
鷹がこんなことをしたのは純粋な好奇心からだ。さっき自分で言ったような疑問が鷹の中で沸き上がった。ちょうどチャンスが来たのでその好奇心にしたがって実験してみた。言葉にするとそれだけのことである。
その実験はこれまでの人間の考えを正面から打破するようなものだった。
これまで人間は天使を超常的な生き物と認識してきた。自分達とは違うのだと。
その認識は今日をもって改められそうだ。
「ふむ。感想が欲しいかな。翼切り落とされてどんな感じ?」
興味の赴くままに質問する。
「え〜っと・・・そうですね。背中から力が抜けていく感じがします。私たちを天使足らしめる力が」
ブリュキエルも自分の状況を掴むために言語化した。
翼がなくなったブリュキエルはどこからどう見てもただの人間だった。髪の色が淡い水色だったり、着ている服装が若干奇抜だったりするがそれ以外は普通の人間と何ら変わらない。
鷹は座ったままのブリュキエルの後ろに回った。
「な、何をするつもりなんですか?」
「ん? ちょっとね。痛いかもしれんが、動くなよ」
それに返事をする前に背中に軽い痛みが走る。その痛みは謎の法則にしたがって進んでいるようだ。
「出来た。これでどうだい?」
「どうって・・・何がですか?」
「力の流出は止まった?」
「・・・あ」
背中から溢れていたはずの力の流出が止まった。
「どうやったんですか?」
「簡単なことだよ。俺たちが施すタトゥーみたいなものを背中に入れただけ。ま、あんま上手くないかもしれんが、勘弁してくれ」
鷹は劔でブリュキエルの背中に白い翼の形に傷を入れていた。
鷹がしたのは応急処置。これでは流出する力を塞き止めることしかできない。
「ま、そんなことで・・・どうする?」
「どうする・・・とは?」
「だから、お前はどうすんのってよ。お前は天使じゃなくなったんなら人と同じ生活をしなきゃだろ?」
天使は人間が行うような栄養の摂取も老廃物の排泄もしない。だが、ブリュキエルは人となった。正確には人ではないかもしれないが、少なくとも天使ではない。
ならば栄養が必要だろう。
そこまで考えたところで鷹は深く深くため息をついた。
「こうなったのも俺のせいだし、しゃあないかな」
鷹は無卯を抱き上げると一人で歩き出す。
見捨てられたのかな。これからどうしようかな。そんなことを考えていると鷹が振り返った。
「? こんのか?」
「え、どこにですか?」
「どこって・・・俺たちの拠点。お前の新しいねぐらだ」




