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弐拾伍

「範囲は広げずに、一点集中!!」

その人影が手を前につき出すと、炎でできた槍が生まれ、光の槍とぶつかる。炎の槍が若干下から掬い上げるようにあたったので光の槍の軌道が逸れた。

その人影はノースリーブのシャツとジーパンを着ている。そのむき出しの左肩に入っているタトゥーは淡く赤に発光している。

「ほぅ、私の槍を逸らすとは。人のくせにやりますね」

「お父さんが耐えている間は私が相手です!!」

その人影は無卯だった。

さっき司令部では真金におとなしくしていろと言われていたが、戦っている鷹の姿を見ていて、いてもたってもいられなくなった。

無卯の足は軽く震えていた。天使の体から発せられる殺気だけで心のそこから止めどなく恐怖が湧き出てくる。

だが引くわけにはいかなかった。後ろには自分の大事な父がいる。自分達を救うために苦しんでいる鷹を護るためにここに来たのだから。「そのいきがいつまで持ちますか・・・ね!!」

天使は大量の光球を生み出し、一斉に放った。

さっきの槍を逸らすだけで無卯は一杯一杯だった。これだけの量の光球を弾くのは無卯の技量では逆立ちしたって不可能だ。

だから、無卯はここに死ぬつもりできた。正確に言うと死ぬ覚悟はもうすでにすんでいる。

無卯は左肩に入っている逆巻く炎のタトゥーに触れる。

「私は炎。万物を溶かし精錬する者。私は焔。この命を燃やしながら我の背後に控える者の盾となり守護する者。我が魂よ。大事な人を護るため、最後の一滴まで燃え盛れ!!」

無卯の肩のタトゥーが燃え上がる。その炎は瞬く間に無卯の左腕を包み込んだ。

その左腕を前につきだし、無卯は叫ぶ。

「『焔の龍帝』!!」

左腕の炎が腕を離れ、巨大な龍となる。その龍は無卯と鷹を庇うようにとぐろを巻く。普段の無卯の力ではまず不可能な芸当だ。

これがさっきの言葉の効果。あれは鷹が劔を抜くときに発したのと同じ言霊を込めた呪言だ。

異能と言うのは先述したように人にはないものだ。鷹ほどではないにしろ無卯たちも人間から離れていく。それを抑止するために無卯たちのタトゥーにはリミッターが取り付けられている。さっきの呪言はそのリミッターを強制的に取り払うものだ。

天使の放った光球は炎龍にぶつかると爆散する。だが、炎龍は少しも揺るがない。

「これを受けてもビクともしませんか。なら、これはどうですか?」

天使はさっきよりも大きく、密度の高い光球を先程よりも大量に生み出し、放つ。

「がふっ!!」

炎龍のつくるとぐろの中にいる無卯が吐血した。炎龍のダメージが無卯にフィードバックしているのだ。無卯は自分の生み出した炎とシンクロすることで炎の威力をあげている。それは一個の生命が宿った炎龍のダメージを全て無卯が肩代わりしていることに他ならない。

その後も何度も何度も執拗な攻撃が続く。

それを無卯は炎龍のとぐろの中で必死に歯を食いしばりながら耐える。

だが、ある時炎龍が消えた。

「な、何で?」

疑問を口にするが全身から力が抜け、しりもちをついてしまう。

いくらリミッターを外して一度に使える力が増えたからと言って、無卯の力の総量は変化していない。そして、リミッターを外した分力の減りが早いのは自明だろう。

「あらら、もう終わってしまいましたか。もう少し持つかと思ったのですが残念です」

天使は光の槍を生み出し、遠くから無卯に突きつける。

「そこを退きなさい。退けばあなたはあとで楽に殺してあげましょう」

そのかけられる言葉は優しい。だが、その奥に潜んでいる殺気が自分に向けられていないとわかって心臓が止まってしまいそうだった。

それでも無卯は震えるからだを叱咤し、立ち上がる。

「あなたにお父さんは殺らせない。お父さんは私が護る!!」

「その忠義は聞き届けました。せめてもの慈悲です。あなたの尊敬する父と共に眠りなさい」

天使が光の槍を振りかぶるのを見て無卯はまぶたを閉じた。もうこのまぶたが空くことはないだろうと思いながら。


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