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拾玖

鷹たちが来たのは作戦区の一角にある訓練場のような場所だった。

訓練場とは言ってもここはもっぱら異能者の力試しとストレス解消のために使われている学校の体育館ほどの広さの場所だった。

入り口の扉を開けてなかにはいると、信じられないような熱気の中で無卯と夕菜が訓練をしていた。さながら部屋の中はサウナのようだった。

無卯は手ぶらだが、夕菜は大きなタワーシールドを左手に持ちながら戦っている。

無卯が手のひらの上に拳位の大きさの炎球を作り出して夕菜を狙うが、夕菜は手にしているタワーシールドの重さを感じさせないような動きで回避している。

パッと見ただけで無卯の技術が拙いのがよくわかる。炎球は一度無卯の手から離れてしまうとまともに操れてすらいない。それどころか夕菜にたどり着く前に消えてしまうものすらある。

「ほらほらその程度の攻めでは天使には通用しませんよ?」

「う、うるさいです!!」

無卯は夕菜にからかわれて焦ったのか広範囲に向けて炎を絨毯のように広げる。

これは悪手だろう。広範囲に弱い攻撃をするよりは狭い範囲に強い攻撃をする方が効果的だ。

これは天使との戦闘においても言えることだ。広範囲に攻撃するのはせいぜい目眩まし程度にしかならない。

夕菜は盾に身を隠すことであっさりと炎をやり過ごす。

夕菜の持ち物が盾ということもあって夕菜は攻められていないが無卯の不利に代わりはない。このままでは近いうちに無卯がガス欠を起こして負けるだろう。

「ここに来て何がしたかったんですか?」

「別に何も。そういや今日二人で訓練するっつってたなと思って」

「あなたは本当に計画性がありませんね」

「予定は未定ってね」

鷹と千波が身のない会話をしているうちに無卯が座り込んでしまった。スタミナが切れたのだろう。

夕菜が涼しい顔をしながら無卯の近くに行く。

鷹は近くにある空調のスイッチをいれる。すると空調から涼しい風が出てきて、部屋の空気を一気に変えていく。

無卯が驚いたように目を丸くしている。

風が流れてきたことによってやっと無卯は鷹たちの存在に気づいたらしい。それほどまでに集中していたのだろう。

夕菜はさっきから気づいていたらしく、特に驚いてもいない。

「無卯はまだまだだね」

「ごめんなさい・・・」

「いやいや、別に謝ることでもないでしょ。無卯は異能を持ったのが他のやつらより遅いからね。おいおい馴れていけばいいさ」

鷹は無卯の頭を軽く撫でながら無卯を慰めた。最初は申し訳なさそうにしていた無卯だったが、途中からは頬を緩ませていた。

「それで? 鷹さんは何をしに来たのですか?」

「ここに来てすることなんて一つしかないでしょ」

鷹が答えると夕菜は驚いたように目を丸くした。

「・・・あなたがそんなことを言うなんて珍しいですね。熱でもあるんですか?」

「いや、ねぇ。たまには娘の訓練に付き合うのも一興かなと思ってよ」

鷹は無卯の訓練に付き合うつもりでここに来たらしい。

そこで無卯の頭から手を離すと壁にかけてある剣の中から精巧な意匠が彫られているものを手に取る。

「それじゃ無卯。やろっか?」

「無理です〜。もう限界です〜」

「なら、夕菜でいいや。やるか?」

「結構です」

無卯と夕菜にフラれてしまった鷹はショボンとしている。

そのまま放置すること数分。

鷹はわざわざ訓練場の隅まで移動すると体育座りをしながらいじけてしまった。

「・・・鷹さんっていつもあんな感じ何ですか?」

「はい・・・。私とかお母さんがそっけない態度を取るとああなってしまうんです」

「あの人は私たちのことが大好きだからね」

女三人で話していると鷹のどんよりオーラに拍車がかかった。

自分を無視して楽しんでいるように見えるのだろう。もうキノコでも生えそうだ。

どうしようかと三人で頭を悩ませていると夕菜と無卯のポケットから音楽が鳴り出した。鷹のところからも音楽がなっている。

「もしもし。・・・え〜? マジですか〜? わかりました。すぐ行きます」

無卯は端末から聞こえてきた言葉を聞いてげんなりした。夕菜も同じような表情をしている。

鷹はというと端末から聞こえた音楽がうざかったのか、即座に電源を落としてしまっていた。

無卯はため息をつくと鷹のところに向かって話をしている。

「なんの連絡だったんですか?」

「司令部からです。何でもすぐに司令部に来るようにとのことでした」


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