拾鉢
「もう、無理でござるの巻・・・」
あのあとは特に何もなかった。
普通に三人で風呂に入っただけだ。
・・・それを普通と言うのにはいささか抵抗がないでもないが普通ということにしておこう。その方が楽だから。
そんなことを考えながら廊下でぶっ倒れた。
「・・・これは昨日よりも疲れてるかも知れない。クソゥ、あいつら俺を過労死させる気かよ」
「・・・何一人で廊下でブツブツ呟いてるんですか? しかも倒れながら」
「あ、おぱよ」
「おはようございます」
鷹に冷ややかな声をかけてきたのは千波だ。
昨日の私服姿とはうってかわってピシッとしたスーツを着こなしている。しかも眼鏡までつけていてやり手のキャリアウーマンのようだ。
この姿を見たら誰も昨日までは無職のひったくりだったなんて信じないだろう。
「馬子にも衣装だねぇ。よく似合ってるよ」
「ありがとうございます。ところで一つお聞きしてもよろしいですか?」
昨日とは大分態度が変わっているので鷹は戸惑っているが、態度には出さない。因みにまだ地面に倒れたままである。
「何でもどーぞ。答えられることには答えます」
「それでは失礼して」
千波は一拍置く。
「私の仕事とは何なのでしょうか?」
「え? 無いよ」
「・・・はい?」
訳がわからないといったようすで聞き返す。
「だから、無ぇよ。俺は基本的に地上に出て戦ってるからね。一般人に手伝えることなんて数えるほども無いよ」
「なら私は何をすれば?」
「さぁね? 俺に聞かれても。あ、でも安心して。俺の傍にいるだけでも給料入ると思うし。ダメだとしても俺の方で給金は出すから」
よくよく考えると鷹の傍に秘書のような部下ができてもほぼ仕事がない。
月なんかは書類製作から何から全部やらせてるようだが、鷹の場合は書類や報告書はトップシークレットなのでそう簡単に他人に任せることも出来ない。
身の回りのことを侍従のようにしてもらうかと思うとそれも必要ない。部屋には掃除が必要なほどものがないし、洗濯は夕菜と無卯がしてくれている。
結論、鷹には部下が要らない。
「・・・何したい?」
「てきとうな職場だな!!」
千波が耐えきれずにツッコんでしまった。
「千波の仕事はツッコミに決定」
「それ仕事か!?」
「俺が仕事と言えばそれが仕事です」
「とんだ暴君!!」
「千波うるさーい」
「お前がツッコメっつったんだろ!?」
二人が打てば響くような掛け合いをしている。二人は息があっているのかもしれない。
千波は肩を怒らせながら息をハアハアとしている。
息を整えると鷹の前に手を出す。
「何? おこづかいでも欲しいの?」
「起きてください。みっともないです」
「あ〜、君がスカートだったなら〜」
千波のパンツスーツ姿を見ながらのんびりとした口調でぼやく。
千波は鷹の視線の向きを見て、何が言いたいのか気づき頬を染める。
「変態!!」
千波のつま先が鷹の鼻先にめり込む。
「ありがとうございます!!」
叫んだあとに痛みを逃すためか顔に手を当ててゴロゴロと転がる。
少し相手の緊張を緩めようと発した冗談だったのに相手に思いっきり蹴られるとは思っていなかった。実に痛い。
「・・・もう仕事しない」
「はい?」
「俺は! 当分! 働かない!」
「何を言ってるんですか?」
手足をジタバタとしている。その姿は欲しいものを親に買ってもらえなかった子供のようだ。
「と言うか働くも何もほとんど仕事無いって言ってませんでしたか?」
「それもそうですね」
千波が指摘すると鷹はあっさりと立ち上がる。
「何しましょうかね?」
「本当にすることないんですか?」
「無いですねぇ。あ、そう言えばあれ今日でしたかねぇ」
そう告げると鷹はフラフラと歩き出した。
「あ、待ってくださいよ」
それに慌てて千波が追従した。




