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拾漆

「今日は朝から疲れますねぇ。普段の朝はもう少し平和だった気もしますが」

大浴場前の脱衣所で服を脱ぎ脱ぎしながらぼやく。

作戦区には大浴場が完備されている。作戦区で住み込みで働く鷹のような人間のためにあるのだ。

服を脱いだ鷹は意外に引き締まった体をしている。寧ろ弛んだ体なんてしているわけがない。戦闘という天然のダイエットをしているのだから。

腰に大きめのバスタオルを巻く。

「あ〜さ風呂っと」

横開きのドアを開けると温泉特有の硫黄の香りが鼻孔を刺激する。

体を洗うのもそれなりに風呂に入り思いっきり息を吐く。

「ふ〜、やっぱり朝風呂は良きものですね」

頭の上にタオルをのせるいっそテンプレートとも言える格好だ。このまま寝てしまいそうなほどに脱力している。

そんな鷹の耳に声が届く。

「げぇっ!!」

「んむ?」

入り口に目をやると苦虫を噛み潰したような顔をしたアクセルがいる。

「何で朝っぱらからてめぇの顔なんざ見にゃならんのだ」

「ぐっども〜にんぐ。挨拶ぐらいしなさいよ」

「ていうか何でこんな時間に風呂入ってんだよ。お前普段は夜入ってんだろ? 理由をのべよ」

アクセルにとっては朝から鷹に会うのは気分が最低になるらしく、明らかに苛立っている。

「ほれ、吐けよ」

「え〜? 特に話すようなこともないよ? 昨日疲れてて風呂に入れなかったとか〜、さすがに汗くさいとか〜。色々ありました」

鷹は大事な部分を隠すことにした。具体的には無卯と寝たとか夕菜に一緒に風呂に入ろうと言われたこととかだ。

たぶん正直に言うと面倒なことになるであろうことが予想される。

「本当だろうな?」

「嘘ではないよ」

アクセルの疑わしげな視線も受け流す。そんなことでは鷹のポーカーフェイスは崩せない。

彼のポーカーフェイスを崩せるのなんて夕菜ぐらいのものであろう。

その鷹のポーカーフェイスが崩される。

入り口のドアを開いて、誰かが入ってきた。

「鷹さ〜ん? 来ちゃいました」

「え?」

アクセルの表情が凍った。

「私もでーす。お父さん一緒に入りましょうよ」

入り口からバスタオルを巻いた二人の女性が入ってきた。

女性的な肉感のある肉体をした女性とまだ子供らしさを残した肉感の薄い、だが確かに女であることがわかる少女の二人だ。その二人を見間違うことなどあるはずがなく、無卯と夕菜だった。

鷹の額からだらだらと汗が流れ落ちてくる。さっきまでは軽く額に汗をかく程度だったのにすごい発汗量だ。心なしか背中が寒くなってきた気すらする。

「な、な、なな何で夕菜さんと無卯が」

「あれ? アクセル、鷹さんと入っているのですか?」

「・・・何でアクセルさんがいるんですか!?」

三者三様の反応を見せる。

アクセルは面白いぐらいにキョドっている。夕菜は特に気にもしていないようだ。無卯は夕菜の後ろに恥ずかしそうに隠れている。

ちなみに鷹はもう気にしないことにしたらしく、鼻唄を歌いながら虚空を眺めている。その目は虚ろだ。

「アクセルさん出ていってください!!」

無卯はヒステリックに声をあげる。

この場合はあとに入ってきた無卯が出ていくべきだと思ったが鷹は口にしない。喋ると矛先が自分に向くことは経験から理解ができていた。

何でこんな鉢合わせが起こるかというと純粋に夕菜と無卯が悪い。もっと言ってしまえば夕菜が悪い。

一応この大浴場の入り口には男子入浴中の札はかかっている。

夕菜はどうせ鷹しかいないだろうとたかをくくって入ってきたのだろう。こいつの貞操感覚がわからん。

「し、失礼します!!」

アクセルの足下にダッシュボードが生み出される。アクセルは足に力を入れると爆発的なスタートダッシュで逃げ出した。

あれがアクセルの異能。単純にダッシュボードを造り出して、自分の推進力をあげる。昔懐かしのレーシングゲームにあったダッシュボードをそのまま現実に持ってきたような異能だ。

そんなことはどうでもいい。

「退路が立たれましたねぇ・・・」

アクセルが消えたので自分に注意が向く気がした。

「邪魔物は消えましたね。さぁ、一緒に入りましょう」

「そ、そうですよ!! 三人で入りましょうよ!!」

「ハッキリと邪魔物って言わないであげてよ・・・」

鷹はゲンナリとしながら呟く。

アクセルをハッキリと邪魔物と言いきる二人が怖い。アクセルの恋心を理解していない夕菜の感性が怖い。

「ゆっくりと入らせてください・・・」

「大丈夫です。三人で入ってもゆっくりできます」

「そうですよ!! 三人の方がゆっくり出来ますよ!!」

「話聞かねぇ・・・」

無卯と夕菜は鷹の話しも聞かずに体を洗い始めた。いくら戦場で強くても鷹なんて夕菜と無卯には逆らえないのだ。

夕菜には二人きりであれば口答えできないわけではないが、無卯には逆らえない。娘に逆らえる男親はいないのだ。鷹は独り身で子供などいないわけだが、子供のいるお父さんの気持ちがわかった気がする。

「はぁ、諦める癖がつきそうです」

鷹がぼやく。ちなみに逃げようともしていない。ここまで来たら諦めようかなと思っている。

ついでに逃げれないだろう。夕菜の異能は守りに特化しているから鷹を逃がさないことぐらい容易いだろう。

「誰か助けの手をさしのべて・・・」

他力本願万歳。自分で頑張る気なんてないのです。


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