拾陸
朝。間違うことなき朝。時間的には朝のはずだが、この地下都市ではその実感が薄い。なぜなら、太陽がないからだ。
人工太陽が照らしてはいるが天然の太陽ほどには人を起こす効果はないらしい。
特に作戦区には窓すらないから余計にそうだ。
ゆっくりと鷹は目を開けた。ひさしぶりにぐっすりと眠れた気がする。気のせいか体も軽い。
体を起こそうとするが右手に違和感があり起き上がれない。腕を誰かに組まれているようだ。
億劫そうに右を見ると自分の右腕に自身の手を絡めながら安らかな寝息をたてている無卯がいた。
「んむ? なぜ無卯が俺の部屋に? はて、昨日何かあったかね」
ゆっくりと昨日の出来事を思い起こしていき、昨夜の出来事に思い至った。
「あ〜、通りでぐっすり眠れたわけだ」
得心いった鷹は優しい手つきで無卯の頭を撫でる。
無卯はくすぐったそうに笑う。
「むにゃむにゃ・・・おとうさ〜ん、だいすきれふよ〜」
「俺も大好きだよ。だから離してくれないかい? これじゃあおちおちトイレにも行けない」
「いやれふ〜。おとうさんも寝ましょうよ〜」
寝ぼけているのか返事は帰ってくるが呂律はあやふやだ。
「いやね、そうも言ってられないじゃん? 一応仕事ってほど仕事らしい仕事でもないけどさ? 昨日の報告とかありますし? それに何より昨日風呂入ってないから入りたいのよね」
「なら〜、一緒に入りますか〜」
ダメだー。この娘ダメだー。
鷹は無卯の寝起きが最悪なことを思い出した。
どうしたものかと考えていると部屋のドアがノックもなしに開けられた。
そんなことをするやつを鷹は一人しか知らない。
「鷹さん朝ですよ。起きてますか?」
「起きてはいるけど起きられないかな」
鷹が首だけ起こして答えると夕菜は頬を膨らませた。
「・・・ズルイです」
「どっちが?」
鷹が? 無卯が?
「どっちもです!! 私もまぜてください!!」
「はぁ、無卯。寝たフリやめて起きなさい」
「ど、どこからバレてたんですか?」
無卯が目をパッチリ開けて鷹に問う。
「いや、気づいていたわけではないよ。ただ、釜かけてみただけ」
「・・・お父さんは卑怯です」
「はっはっは、まだまだ甘いね。人を疑うことを覚えなさい」
ジト目で睨んでくる無卯の頭を撫でながら、鷹は立ち上がる。
無卯の失策はすぐに寝たフリをしていることを肯定してしまったことだろう。相手が気づいているから止める。その行為の前にワンクッションしらを切る動作をするべきだっただろう。
鷹は立ち上がると腰を幾度か回す。その度に小気味いい音が聞こえてきた。ぐっすり眠ったせいで腰がこってしまったのだろう。
「んじゃ、俺は風呂に入ってきますんで。覗かないでよ?」
「え〜、一緒に入りましょうよ」
「んー、そうしたいのは山々だけど世間体がねぇ。さすがに不味いでしょ」
「ここにいる誰もバラさなければ問題なくないですか」
夕菜も無卯も一緒に入りたいらしい。
鷹はうんうんと頷くとドアまで移動し、
「しー、ゆー!!」
脱兎のごとく逃げ出す。
「あ、待ってくださいよ!!」
「逃げないでよ!!」
「あっはっは、お断りですよ」
瞬く間に部屋は遠くなり二人の声も届かなくなった。




