拾伍
夕菜と別れた鷹は真っ先に自室に向かった。一日に二度も能力を使うとさすがの鷹でも疲労度が尋常ではない。
普通の異能者はこんなことにはならない。鷹の異能が特別なのだ。鷹の異能が異質なのだ。
「さすがに・・・限界かな」
鷹の足取りはフラフラとしていて危険そのものだった。
自分の部屋の前にたどり着くと体当たりのような形で入り口の扉を開ける。そのままベッドに倒れ混む。
「ん?」
疲れでベッドの状態も確認せずに倒れ混んだ鷹はベッドが少し暖かいことに気づく。
それは電気的な暖かさではなく生物的な暖かさとでも言おうか。じんわりと暖かかった。
「・・・誰?」
その暖かさを人間の体温だと認識しても鷹は動けなかった。
体は鉛のように重く、皮膚の上から針金でも巻かれたように体は固まってしまっている。
「私です。お父さん」
「・・・あ〜、無卯か」
当人の返事を受けてやっと誰が寝ているのかを理解した。
「何で・・・無卯が・・・俺の部屋で・・・寝てんの?」
もう口を開くのが億劫になるぐらい疲れていたが聞かずには入られない。これは信用の有無ではなく鷹の癖のようなものだった。
「何となくお父さんと一緒に寝たかったんです。駄目ですか?」
「すまん。今日はいつも以上に色々あって疲れてんだ。今日は夕菜のとこにでも行ってくれ」
「嫌です」
「はぁ、なら勝手にしてくれ。今日は話し相手にもなってやれん」
そう告げるとすぐに寝息が聞こえてきた。
無卯がこんなことをしたのにはもちろん理由がある。
無卯は人の機微に敏感だ。何故なら、そうしないと殴られたからだ。
無卯は第一世代の中では珍しく生まれた瞬間にタトゥーを入れたわけではない。
九歳の時、借金を払えなかった親に借金のかたとして売られたのだ。
その後、国に買われ適性検査を受けさせられた。その検査で適性が出たから今ここにいるというわけだ。
だが、その検査で適性が出たからと言って普通はやらない。なぜなら生後二週間以上たった人間に呪的タトゥーを入れると死亡率が跳ね上がるからだ。
具体的に死亡率60%だったのが95%まで上がる。こんなのを行うのは正気の沙汰ではない。売られた無卯には拒否権がなかったが。
そうして異能を得た後も昔の癖で人の顔色を伺ってしまうのだ。
鷹が相当辛そうにしているであろうことは夕菜の態度でわかった。
普段通り帰ってくる鷹を待っていたらそれを止められたことからも明らかだ。
鷹が無卯になにかをしてくれることはあっても、無卯が鷹にできることは少ない。ほぼ無いと言い換えてもいい。
だから、こういうときに無卯は鷹と一緒に寝るのだ。自分はなにも気づいていないフリをしながら。鷹は人に気を使われるのを嫌うから。自分が隣にいることが少しでも鷹の救いになることを願いながら。
「おやすみなさい、お父さん。私はどんなお父さんも大好きです」
自分を絶望の暗闇から救ってくれた人の温もりを感じながら無卯はゆっくりと目を閉じた。
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すいません。




