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拾参

「お〜、やってるやってる」

五分ほど歩いたところは少し空気がひんやりとしている。それもそのはず。辺りには氷柱がいくつもならんでいる。その氷柱の中には二対、計四枚の羽を生やした天使が入っていた。

「・・・すごいですね。これが天使ですか」

「これが第六位、能天使ですな。そんであそこで戦っているのが、第一世代の凍氷 月さんになりま〜す」

鷹が指差した先ではパジャマ姿の少女があくびをしている。

空には何体もの天使がいる。その天使たちは月に光弾を放っているが、全て月の足元から出てくる氷柱によって防がれている。

「あれが異能者ですか」

「そうさね。この調子でいけばあと五分もかからずに決着かな? この調子でいけばいいのだけれど」

鷹は目を細めながら戦いを眺めている。鷹の見る限り特に危なげもない。さっきの予想通りすぐに終わることだろう。

そして、五分後。予想通りに戦いは終わった。

空を小蝿のように飛んでいた天使は一体残らず氷の像になってしまっていた。

その氷像の中心で一人ボケッと佇んでいる月に鷹が近づく。

「よ、お疲れさん」

「あ〜、来てたんなら手伝ってくださいよ〜」

月は小さく涙の浮かんだ目尻を擦りながら鷹に苦情を言った。

「あれ〜? そっちの人は誰ですか〜? 彼女さんですか〜?」

「彼女!?」

「あっはっはっ。月は面白いこと言うなぁ。そんなわけねぇだろ。ふざけたこと口走んな。夕菜に聞かれたらどうすんだ」

前半は笑顔で、後半は真剣な表情で月に言う。千波は彼女という言葉に反応して頭から湯気をたてている。

「そうですね〜。そんなこと佑奈さんにバレたら殺されちゃいますもんね〜」

「あぁ。だから、冗談でも口にすんじゃねぇよ」

ホワホワとした口調の月とは反対に鷹の表情は真剣そのものだ。

鷹にとってそれほどヤバイ話なのだろう。

「それじゃあ〜、そっちの人は何なんですか〜?」

「端的に言えば俺の直属の部下って感じ?」

「良かったじゃないですか〜。部下の人たちは面倒くさいこと大体やってくれますからね〜」

「お前の部下の苦労が伺えるよ」

第一世代全員に直属の部下がいる。どう見分けるかというとその部下は主人のタトゥーがついた道具を使うからすぐわかる。

「ま、いいから帰ろーぜ。千波がキョトンとしてる」

千波は夕菜の下りからキョトンとしている。

「別にいいですよ〜」

「ほら、千波もキョトンとしてんで帰るよ」

「あ、はい」

辛うじて鷹に返事をした千波と眠そうな月が歩き出す。鷹は立ち止まっている。

「あれ? 帰るんじゃないんですか?」

千波が振り返る。

「いや、真金からの頼まれ事思い出した。先、帰っててくれ」

「え? そんなこと言われてました?」

「ま、いいじゃん。先帰ってなさいよ。月は千波の警護よろしくな」

「それはいいですけど〜。見返りを要求します〜」

月はちゃっかり見返りを求めてくる。

鷹としてはそちらの方が関係としては楽だった。利害関係は切りやすいからだ。

「ふむ。ならば有り余る財力にものを言わせて、安眠できる枕を買ってやろう」

「それで手を打ちます〜」

月は了承するとフラフラと歩き出した。その月を心配そうに見ながら千波がついていく。どっちが警護対象だかわかったものじゃない。

千波たちの姿が見えなくなると鷹は首をならす。

「やっと行ったか。後片付けは老人の仕事ですよな」

鷹は千波たちが立ち去ったのとは反対を見る。

そこにはさっき月が戦っていたのとは比べ物にならないほど荘厳な空気をまとった五対、十枚の翼を生やした天使がいた。

「よぅ、天使さまが何のようだい?」

「用もなにもない。我々天使の目的は唯一つ、貴様ら低俗な生き物を絶滅させることだ」

「はっはっは。いつも思うが穏やかじゃねぇなぁ」

鷹は乾いた笑いを漏らしながら、天使の能力を分析する。

天使の大まかな戦力の判断方法は背中の翼の数を見ることだ。背中の翼が多ければ多いほど強い。

目の前の天使の翼は五対十枚。と言うことは必然的に目の前の天使は、最低でも上位に名を連ねる天使な訳だ。

「お前らは絶滅させたい。俺らは絶滅したくない。目的が正反対なら手を取り合うのは難しいよね」

「貴様ら下等生物と手を取り合うなど、考えるのすら不快だ」

「はっはっは。天使ってのは口が悪いねぇ」

鷹はゆっくりとずっと閉じていた左目を開いた。その左目には人間らしい角膜がなかった。その代わりに普通の人間の角膜がある位置には下向きの剣の刻印がある。

「地獄を見せてやるよ。腐れ天使共」

鷹の手にはいつのまにか光を纏った劔が握られていた。

「下等な人間ごときが調子に乗るな!!」

天使は光弾を放つ。

さっき月が相手していた天使の光弾とは明らかに格の違うものだった。

だが、それは無造作に鷹が劔を一払いすると全て凪ぎ払われた。

「なっ!?」

「はっはっは。おやすみ」

鷹が乾いた笑いを漏らすと、天使の眼前に移動していた。

鷹が劔を薙ぐ。その劔の軌跡は一切の抵抗を感じさせない滑らかなものだった。

地面に着地すると鷹は左目を閉じ、劔を払う。すると劔は虚空に溶けるようにして消える。

「・・・つまらん」

そう呟くとドサッという音が二つ続いたかと思うと、上下に分断された天使が落ちてきた。

「あれは智天使ではないかな。となると座天使か」

鷹は特に何の感慨も抱いていないようで、ポケットから端末を取り出す。

「うぇい、真金? 座天使が来てたぜ。・・・あ? 大丈夫大丈夫。月にも千波にもバレてんから。俺はそんなヘマしませんって。・・・昔の事とか覚えてへんな〜。・・・へいへい、報告は帰ってからまとめて出すよ。報酬よろしく」

鷹は通話を終えると無造作に端末をポケットにねじ込んだ。

「あれが上位最下位の第三階位座天使かよ。・・・弱すぎる」

そう呟くと鷹の足がふらつく。

「あ〜、クッソ。この感じは慣れねぇな」

鷹はフラフラとした足取りで来た道を一人引き返す。


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