壱
久しぶりの投稿なので読みづらいかもしれませんが、ご容赦ください
一人の男がそこにはいた。
足下に突き立てた劔に手を置き、何かが積み上がって山のようになったところの上に腰を下ろしている。
その男の見た目にこれといった特徴はなく、強いて特徴をあげるとすれば左目を閉じていた。
「あ〜、つまらん」
彼はそう呟くと立ち上がり、山から飛び下りる。
彼が山から下りた事でわかったが、その山とは死体が積み上がったものだった。
その死体は人と同じ姿をしているのに、いずれにも血にまみれた羽がついている。そのことがその死体が人間ではないことを何よりも雄弁に語っている。
彼が劔を払って劔についていた血を払うと劔は虚空に溶けるようにして消える。
彼は劔が手元から消失したのを実感すると辺りを見渡した。
そこは過去、それなりに発展した土地だったらしい。
高層ビルが立ち並び、人の流れが止まらないような町。そんなことを彼は知人から聞いていた。
だが、今はどこにもそんな面影は存在しない。ビルは中ほどから折られ、辺りには瓦礫と死体が積み上がっている。
一言でそこを言い表すとするならば、世紀末。若しくは終焉。そんなところだろう。
「寂しい世界だな」
彼は誰に聞かせるためでもなく呟いた。だからこそ、今の発言は分かりやすく彼の心のうちを表しているのだろう。
人が作り上げた町。だが、そこには人どころか生き物の気配など全くない。
静まり返った空気。破砕された建物。無惨にも殺されている背中に羽が生えた生き物。
彼はそんな世界を観測しながら死体の上を歩く。
「お勤めご苦労様です」
彼は背後から声をかけられ、そちらを振り替える。
そこには一人の女が立っていた。
その女性は整った顔立ちをしているが、表情が機械のように固定されてしまっているため人間らしさは感じられない。
その女性はなぜか右目を閉じている。
「なんだ、いたのかよ夕菜」
「私は鷹があるところに存在しているのです。私の存在は鷹によって確定され、鷹がいない場所では不確かに揺らいでしまうのです」
「ふむ。意味がわからん」
彼は女性を夕菜と呼んだ。
彼女は男性を鷹と呼んだ。
それが相対している二人の名前だった。
劔之 鷹と盾宮 夕菜。
それが二人の名だった。
鷹が先行して歩き、その後ろを夕菜が影のように一定の距離を保ちながら追従する。
さながらその姿は主人と侍従のようであった。
「帰りますか。もうやることもないし」
「そうですね」
鷹と夕菜は特にこれといった会話をすることもなく静かに歩いている。かと思いきや夕菜が鷹に話しかけた。
「今回の相手の階級はなんだったのですか?」
「ん? 権天使だよ。別に俺が出る必要もないんだけどね。数が数だったし」
鷹は倒した相手のことを権天使と、天使と呼んだ。
気づいていたものも多いかもしれないが、先程山のように積み上げられていた死体は天使のものである。
この世界に天使が現れたのは今から三十四年前。何の前触れもなく突如として現れた。
その天使たちは人間を害せず、それどころか多大な利益を人間に与えた。
だが、その天使との平和は突然崩れた。
天使が現れてから十三年後。今から二十一年前、天使は人間に宣戦布告を行い、攻撃を始めた。
人間は天使たちが突然攻撃を始めたことに驚愕しながらも迎撃する。
だが、それはさほど意味がなかった。人間が造った兵器はもうすでに天使たちに解析され、対策を講じられていたのだ。
兵器すら効かない天使たちを前に人々は逃げ惑いながら殺された。
そんななか生き残った人々は地下に身を隠し、反撃のための兵器を造った。
そして今はその兵器と天使との間で殺しあいが行われている。
これが現在生き残っている人間の知っている歴史だ。
「どうでしたか? 権天使の強さは」
「話にならね。数揃えてもゴミはゴミだね」
鷹はつまらなそうに答えた。それを見た夕菜は嘆息した。
「やっぱりですか」
「早くあいつらには育ってもらいたいね。そうしなきゃおじいさんたちは引退できんから。そう思わんかね? 婆さんや」
「そうですね、お爺さん」
そんな下らない会話をしているうちに鷹たちは足を止めた。
そこは何のへんてつもない廃墟同然のビルである。そのビルの受け付けには不自然に小綺麗なタロットが置いてある。
鷹はそこから吊るされた男のアルカナを抜き出し、握りつぶす。
その後、皇帝のアルカナを取りだし握りつぶす。
すると二人の姿は瞬時に消えた。