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*第五話 派遣者

授業は誰も聞いてはいなかった。

先生もわかってたらしく、普段は注意するのに今日は注意もしない。

いつの間にか終了のチャイムが鳴っていた。

先生は、『今日は礼しなくていいわ。あっ、あと―――真衣さんは放課後職員室まで着てね。』と言うと、そそくさと教室を出て行った。

途端、女子は真衣のもと、そして大半の男子はぼくのもとに集まった。(流石に、あの、塊の女の中に入っていく勇気のある奴はいなかった。それよりも、俺を咎めたかったって言うほうが当たってるかもしれないが)

『どういうことか説明してもらおうか?』茂信がぼくの前にずんっと立った。

『え?』

『とぼけるなよ。何で真衣ちゃんとお前が知り合いなんだよ』

『そんなの、知らないさ。』

ぼくは正直に答えた。周りの人間がぼくを囲った。

『嘘付け。じゃぁ、なんで真衣ちゃんはお前に挨拶したんだよ』

『知るかよ。』

ぼくは、女子たちの会話に耳を傾けた。茂信がまだなんか言ってたがぼくの耳にはもうその声は届いていなかった。

『ねぇねぇ。夾くんとさ。どんな関係なの?』野次馬根性丸出しで―――恐らく真倉が訊ねた。

『別に。何も無いよ。』

『嘘だぁ〜。じゃぁ、何で挨拶したの?まさか一目ぼれとか?』

『別に。』声が弱くなった、気がした。

『じゃぁ、何で?』

『ううん。特に理由は無いよ。』

なら、何故だろうか?何故ぼくなんかに挨拶したのだろうか?

ぼくの性格は自意識過剰なわけではないけれど、何か期待してしまう自分がいた。

『おい!聞いてんのか?』

『ん?』

『聞いてないようだな。やっぱり、真衣ちゃんお前の幼馴染とか?』

『は?』

延々とぼくは拷問にかけられた。授業の時間までも隣の席の女の子に毎時間問い詰められ、気付いたら昼休みになっていた。ぼくは、桃太を誘って屋上に行こうとしたが、真衣に呼び止められた。

『ねぇ、一緒に食べない?』

ここで期待してしまうのは不可抗力というものだろう。ぼくは承諾し一緒に屋上に向かった。後ろには何故か麻呂と桃太。そして、数々の殺意の混じった視線を感じた。


『あの・・・ご一緒させてもらってもよろしいでしょうか?』

桃太と、麻呂が猫なで声で訊ねた。

『え?』真衣は一瞬嫌そうな顔をしたが、何を思ったかニコッと笑うと『いいよ。』と言った。

『ありがとうございます。』二人はそそくさと彼女の隣に座った。

『あっ、でも―――』彼女は小悪魔っぽく笑うと言った。『その代わり売店で焼き蕎麦パン二つ買ってきて。』

『二つ?』

『そ、私と夾くんのぶん』

二人のギロッとした視線を感じた。ぼくは、『一つでいいですよ。真衣さん。ぼく要りませんので。』と言った。

『そぉ?じゃぁ、一つでいいや。』

また、ギロッとぼくへ殺意の混じった視線を感じた。しかし、彼女が、『ほら、行ってくる。』と言うと二人は犬のように下の階へ降りていった。

焼き蕎麦パンはもう無いだろうと、思いながらぼくは思わず彼らの行動に苦笑してしまった。

『で、貴方は誰なんです?』ぼくは近くに誰もいないことを確認すると彼女に訊ねた。『まさか、ぼくに一目惚れしたわけじゃァ無いでしょう?』

『あら、私は貴方に一目惚れしたのよ。』

『!?』

『嘘。』

この前も同じやり方で騙された気がした。いったいぼくの思考回路には欠陥がいくつあるのだろうか?


依頼人(クライエント)と心理療法カウンセラ―(セラピスト)』


え?彼女はなんと言っただろうか?

『私がセラピストで君が来談者―――依頼人であるクライエント。ここまで言えばもうわかるでしょう?私は、“願望屋”藤沢秋から派遣されたセラピスト“七瀬真衣”それでは改めて宜しくね。クライエント。』

彼女はニッコリ笑いぼくの前に跪くフリをした。

そういうことだったのか。自分が何故か気恥ずかしく感じられた。

『宜しくお願いします。』

『因みに年は二十歳。まだ新人さんなんだ。でも、中学生でもいけるでしょ?ほら、君も見惚れてたし。』

小悪魔的な微笑。風に煽られスカ−トが舞った。またぼくは騙されたような気がした―――。


でもこのヒトになら―――また、騙されてもいいような気がした.

***********************

夢見心地。

はて。どんな気分であろう?

ぼくにとって夢とは悲しく寂しい孤独なもの以外何物でもなかった。

しかし、世間から見ればこの状態はそういうことらしかった。

『真衣さん。焼き蕎麦パンです。』

昼食を食べ終わった頃、丁度屋上に桃太たちが駆け出してきた。手には焼き蕎麦パンを握り締めていて息は荒々しかった。しかし、丁度その頃ぼくと真衣さんは願望屋、藤沢秋について身振り手振りを交えて話している最中で、彼らにとってぼくたちは恋人同志に見えたらしかった。

最初に麻呂が口を開いた。

『てめ。真衣さんといちゃいちゃしてるんじゃネェよ。』

『は?』

ぼくの隣で真衣さんはニコニコ笑っていた。

『とぼけるんじゃねぇよ。』桃太はそれに付け加えた。

『何を?』

『とにかく、真衣さんに近づくな。』

『?、理論的に言えよ。何故ぼく真衣さんに近づいちゃいけないか』

『お前、真衣さんと付き合ってるのか?』

『いや。』ぼくは即座に否定した。『別に。』

『じゃぁ、いいじゃねぇか。』

『ぼくの自由を束縛する権利は君には無いはずだが?』

クラスの一番―――力が強い奴がもっている、言葉には表されない暗黙の権利。彼らは歯向かうものには容赦なく従僕を送り出し、時には自分の力で持って制裁する。

普段のぼくには全く、無関係な世界―――。

でも、今彼は拳を振り上げ、僕を殴ろうとしている。

真衣さんが口を開いた。『どっちでもいいけどさ。来談者の夾君を脅したりして私と会えないようにしたら、許さないよ?』

『・・・・。』ぼくの頭上で振り上げた拳は止まった。『・・・わかったよ』

麻呂はぼくを睨みつけると下に降りていった。

そこには、ぼくと桃太と、真衣さんだけが残された。

僕は真衣さんに訊ねた。『あの、真衣さん?なんと呼んだらいいんですか?ぼくは。』

セラピスト。いや、先生だろうか?

『普通に―――。真衣でいいよ。あっ、堅苦しい敬称つけないでね。』

『え?』

『センセ。とか無しだよ?』

彼女はぼくにウインクした。ともあれ、年上の女のヒトを呼び捨てにするのは呼びづらそうだ。桃太はぼくを羨ましそうに見ていた。


帰り道。ぼくは真衣さんに誘われたが、断って桃太と帰ることにした。麻呂は良いとして、流石に桃太には誤解を解いて欲しかったからだ。最初、誘ったときは断られたが、帰りも後ろについていったら突然桃太が口を開いた。

『お前さ。ぶっちゃけ、真衣さんとどういう関係なの?』

『先生と、来談者。』

『病院みたいだな。でも、それってお前が従僕ってこと?』桃太はこっちを見ようとはしなかった。

『いや。』ぼくは口をつぐんだ。


依頼人(クライエント)と依頼実行者、執行人』


果たして言っていいものかと躊躇う。言ったところで信用してくれるだろうか?

『いや?』桃太がそれに続く何かを求め、訊ねた。

『ぼくは彼女の依頼人(クライエント)なんだ。』

『クライエント?』

『そう。ぼくは彼女にあることを依頼している。それでいいかな?』

正確には。願望屋藤沢秋にぼくが依頼し、彼女――いや彼が“七瀬真衣”心理療法カウンセラ―に依頼した。でも、ぼくが真衣さんに依頼したというのは間違ってはいない。でも、そこまで話す気には――自分の弱みを晒してしまうようで――なれなかった。

『なんの依頼だい?』

最もな質問。どう誤魔化そうか?“教えない”。うん。その一言でもいい。でも、彼女は納得してくれるだろうか?

『いえない。』とりあえず、ぼくはそう答えた。

『なんで?』

『とても、恥かしいことだから。』

間違ってはいないハズだ。決して。

『まさか、もてないからって彼女になって欲しいと言う依頼?』

『違う。』

『じゃぁ、何かの風邪?』桃太はクスッと笑い、『そんなわけないよな。中学生だもん。真衣さんは。』と独り言のように付け足した。

『・・・・』

『じゃぁ、彼女が君を追いかけてきたとか?まぁいいや。ぼくには関係ないことだし』

納得してくれたかわからなかったが、とにかく、桃太あそれ以上突っ込まなかった。

結局、彼はぼくの方を分かれるまで、一度も見なかった。

少し長いと思います。

最初、この題名はセラピストでしたが、急遽変更しました

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