*第三話 願望ファイル
藤沢秋はファイルを再び開いた―――。
【願望書 No.000091
一.依頼内容 何もかも平凡すぎて、突出していることも無ければ劣っているところも無い。誰にも必要とされてないような気もする。そんな自分に生きる理由を見つけさせて欲しい。
二.理由 恐らく、思春期による思い違いや、受験のストレスによるもの
三.名前 新堂 夾
四.概要 中三・♂
五.住所 南野郡砂嘴川市北野地区四丁目八番地ルネサンス砂嘴川八〇五号室
六.趣味 特になし
七.好きなもの 特になし
八.嫌いなもの 特になし
九.一番好きな本 リアル鬼ごっこ
十.成績 体育が4で音楽が2.その他は全て3。前回行われた実力テストは中の中。
十一.性格 悪くない。
十二.例えた動物 うさぎ
十三.考えられる対処法 平凡から脱出させ、心の虚無を埋める。又は好きなこと(熱中すること)を見つけさせる。思春期だということを伝える
十四.処方箋 好きなことを見つけさせ、心の虚無を埋める。
十五.予想される願望達成率 100%
十六.備考 父親は仲原大学出身で春無物産に勤務していたが、バブル崩壊の煽りからリストラ。新堂夾が六歳の頃、自殺。母の紀美子は、薬剤師で現在、砂嘴薬局に勤務。妹の美菜は砂嘴第三小学校四年。
十八.彼の全体の印象 イキルシカバネ。いいかえれば人形使い(ダラン)に操られた糸繰り人形。人形師に作られた自動人形(オ―トマ―タ)。喜怒哀楽の感情が欠落し、生きることに無気力で、無関心。】
成程。秋は頷き、ファイルを閉じた。
『この願望を叶えるには少し骨が折れるね。あいつにでも頼むか』
ぼくは、家にいた。
願望屋とわかれると又不意に不安がこみ上げてきて、腕を切りたくなった。ぼくは眼を閉じて我慢し、暫くして落ち着くと一目散に家へ向かって走った。
『何が原因なんだろう?』
病院に行ったとき、ぼくは『わかりませんね。』と精神科の先生に言われた。脳波は異常が無かったし、原因となる何かしらの出来事も見当たらなかったからだ。だから、精神科の先生は『きっと、受験のストレスか思春期によくある疑心暗鬼の症状でしょう。もしかしたら無意識のうちの恋患いかもしれませんね。いずれにせよ思春期は誰でも悩む時期です。』
そんなんじゃない。そんな簡単に片付けられてたまるものか。と、ぼくは反論したが、精神科の先生は、『思春期の子供は皆同じようなことを言うんだよ。』と嘲笑された。
『どうします?念の為、精神安定剤を処方しましょうか?』
先生は僕の親に言ったが、親は、結構です。と断り、ぼくは精神科を後にした。
あの先生の言う通りなのだろうか?
ぼくは自問自答してみた。“何かが違う。”少なくとも、受験のストレスや思春期の思い違いなのだったら、絶対わかるとぼくは自負している。
そんな簡単に片付けられないような気がする。
ぼくは、いつの間にか深い眠りについていた。
またあの夢だった。
ぼくは十字路に一人ぼって座っていて、また車のヘッドライトがぼくを照らした。
『誰・・・?』
人影を見かけてぼくはまた訊ねた。
『誰でしょうか?』
彼もぼくにまた同じ言葉で問い返した。
『ぼく・・・・?』
『ぼくでしょうか?』彼はそう答え、『君だよ』と言った。
『じゃぁ君はぼく?』
『ううん。君はぼくであって、ぼくは君じゃない、ぼくは―――』風が吹き、声が聞こえなくなった。『だから。ずぅと君を待ってるんだよ。』
え?彼は今なんと言っただろうか?大事なことを言っていたような気がする。
また風が吹き、彼の顔が揺れて消えた。夢が変わった。
砂嵐が目の前に降り注ぎ青と黒の線が横に走った。
『・・・・・・』
砂嵐の奥で白い文字が見えた―――。
文字が消えた後、遠くのほうでヒトが見えたがそれは誰だかわからなかった。
本来の題名。。。*第三話 白でした
それと、機種依存文字になってしまったので、訂正しました