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*第二話 平凡からの脱出法

ぼくが再び願望屋を訪れたのはそれから六日後のことだった。

前来た時よりは緊張しなかったが、それでも願望屋の前で数歩踏みとどまり、数分の間願望屋と隣に聳える大きな医療施設の間を行ったりきたりしていた。暫くして、ぼくは決心し中に入るとまるでぼくを待っていたかのように、願望屋の主人藤沢秋が姿を見せた。

『お、この前きた疑り深いヒトじゃないか?どうしたんだい?』

願望屋の主人は驚きもせず、まるでまえまえから友達だったようにぼくに訊ねた。

『ぼくの記憶が正しければ願望屋さんが明日の放課後来いと仰ったはずですが?』

『あぁ、そうだってね。』秋は悪びれる様子も無く続けた。『ごめんよ。まぁ、奥に入ってくれよ。』

彼は奥の部屋に入ると一番豪華そうな椅子に座った。そして、『何してるの?』と訊ねるような眼をすると、足元から赤いファイルを取り出した。

ぼくは、彼の目の前の椅子に座った。

『あの・・・・』

ぼくは口を開こうとしたが、彼に遮られた。

『礼儀がなってない』

『え?』ぼくは耳を疑った。

『礼儀がなってないね〜。ぼ―や。何も言わずに席に着くとは。礼儀作法は家で習わなかったのかい?』

『あの、願望屋さんは何歳でしょうか?』どう見ても―――多少誇張したとしてもぼくのほうが多少年下なだけだろう。ぼ―や、と呼ばれるのは心外だ。

『何歳だと思う?』彼はシニカルに微笑んだ。

『さぁ。』

『還暦―――』

『え?』

聞き間違いかな。って思ってぼくは聞き返した。

『嘘。』なんともシリアスな顔でこの人は冗談をいうらしい。ぼくの頭の中にある危険センサ―部位の要注意事項に書き加えられた。『でもぼくが何歳かは夾くんが知る必要は無いよね。この場合、重要じゃないし。君はそんなこと聞きに来たわけじゃないでしょ?』

上手いこと流された気がしたが、確かにそうなのでぼくは改めて、願望屋と向き合った。

『なんだっけ?君の依頼。あ〜、そうだ。ガンボウを見つけることだったね。願望を叶えてくれって客は五万といるけれど、無気力。無関心の自分をどうにかして欲しいって客は初めてだよ。』

『そんなんじゃ・・・・』

ぼくは否定しようと思った。無気力で無関心を治して欲しいわけじゃない。

『あっ、いや違ったね。』彼は面倒くさそうに言い直した。『何もかも平凡すぎて、突出していることも無ければ劣っているところも無い。誰にも必要とされてないような気もする。そんな自分に生きる理由―――を見つけさせてだっけ?心の虚無を生めて欲しいっと。疑心暗鬼も甚だしい、独り善がり、贅沢だ。本来なら自分で解決しなきゃいけない悩みごとだしねぇ』

ぼくは腹が立ってきてやっぱり断ろうかと思ったが彼にまた遮られた。

『まぁ、待ちなよ。ぼくだって久しぶりに請けた仕事なんだ。君は大切なお客さんなんだ。望みは叶えてあげないとね。』彼は続けた。『まぁ、いいや。この計画――願望達成までの道筋を君に説いとこうか。』


願望屋がいうには、どうやらぼくにガンボウを備え付けるには、心の虚無を埋めるには、然り平凡から抜け出すには“好きなこと”を発見する(つまり、熱中することを見つける)か“平凡”ではなくなるのが一番らしい(つまりは非凡、悪く言えば変なやつ)。欲を言わなければ友達捨てて、現在まで確立してきた地位も捨てて、ひたすら黙るか喧嘩ぶっかけるか皆の前で露出するか、何かしらのセクハラ行為を女子にするかすればもうそれだけで非凡(即ち、変態―――変な奴)であるから、ぼくの望む平凡脱却になるのだけれど、それはぼくが却下した。だから、方法は自ずと一つに決まってくる。“熱中すること”を見つけて、詰まらない生活から脱却し、心の虚無を埋める、だ。でも、ぼくには“好きなこと”があった経験が過去に無かった。

何かしててもすぐ飽きる。必ず三日坊主。スポ―ツは全部平均並みにできるだけで魅力を感じられない。これではあまりにも可笑しいと中一の頃思い数あるスポ―ツを試してみたが全部試みる前に止めてしまった覚えがあった。

そのことを願望屋に話すと彼は、『我侭だな。まぁ、願望屋なんかに願望を叶えて欲しいなんて強請りに来る奴は大抵我侭かぼくを便利屋だと思っているからいいんだけどさ。』と呟いた。

恐らく、あと一二回ここにくれば願望屋に対する興味も失せるような気がする。

そんな、気がした。

『じゃぁ、好きなことを作ろうか。夾くん!!』

彼は元気よく言うと部屋の奥のほうから埃塗れの古びた水晶球を取り出した。まさか、ぼくは紛い物の―――決して信じてはいけない、占い師。いや宗教法人に捕まったんのではないかと刹那、危惧した。しかし、彼はぼくの心を見透かしたように微笑し、

『大丈夫だよ。占いはできるけどするわけじゃない。』と言って、水晶球を元に戻した。と、同時に他の物を腕の中に滑り込ませたようだったが見えなかった。

『そういえばさ。君のことについてあんまりぼくは知らないね。』

彼はぼくの前の椅子に再びどかっと座り偉そうな格好をしながら訊ねた。まるでロリ崎みたいだ。とぼくは心の中で呟いた。が、彼が再び微笑したところを見るとまた見透かされたようだ。ぼく脳内にある彼の要注意事項には無意識のうちに“読唇術”又は“読心術”の気配あり。という記述が加えられたようだった。

『願望屋さんなら言わずともわかるんじゃないんですか?』とぼくは訊ねた。

『いや、わからないよ。』

『え?何故です?』

『唇の動きを見たり、仕草を見たりして読唇や読心する心得はあるけど相手の心の中の扉を開錠する術は生憎のところ持ってないからね。』驚いたことに彼は読唇や読心する心得があることを否定しなかった。『まぁ、考えてくれればわかると思うけどね。流石に考えてもいない深層心理を理解するのはぼくにはできないよ。』

ぼくは馬鹿にされたような気がしたが、納得し、話そうとしたが最初何を答えていいのかわからずたじろいてしまい、また訊ねた。

『えっと、何から?』

『全く。本当に飲み込みが遅いなぁ。入学式や始業式のあと一度や二度は学校で自己紹介しただろ?アレでいいんだよ。』

『わかりました。でも―――』

『はい。でもじゃない。始めて。』

ぼくは渋々承諾し、自己紹介を始めた

本当はこの話のサブタイトルは、*第二話 還暦でしたが、不可解だったので変更してみました。

あと、サブタイトルは、いいのが見つかり次第変更するかもしれません


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