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*第二十五話 ごめんなさい

ほんとうは。

僕はぼくだってわかっていたはずだ。

けれど、ぼくは認めたくなくて、僕は“ぼく”に歩み寄ろうとしていたのに、突っぱねて否定して、

はじめは嫉妬だった感情を、憎悪に、悔いに増長させて、そこでまたその存在を否定した。

最悪の行為。

最低の行為。

彼は、“僕”は、ぼくの壊れた感情を背負い、ずっと歩んでいてくれたのに。

なんて、滑稽な話であろう。

なんて、酷い話であろう。

なんて、醜い話であろう。


ごめんね。僕――――

謝って済む話ではないけれど、とにかくぼくは今、そう言いたかった・・・   

           *

あれから、何分たっただろうか?

十分?二十分?いや、もっとか。

夾くんは眼を開いた。

すっ、と。

彼はあっけなく瞼を開いた。

今まで起きてました、というように

瞳孔から涙を流して。

『おはよう。』私は起きた彼に訊ねた。『向こうの世界はどうだった?』

今思えば、その答えは聞く必要もなく当然だったのかもしれない。

彼は涙塗れの、けれど晴れやかな顔で

『おはようございます。真衣さん。楽しかったですよ。』

と答えた。

私はそのコトバを聞いたとき

彼が“これが、本来の夾くん”であると確信した。

前の夾くんなど知らないのに

とにかく私はそう感じた。

『恐怖、って感情久しぶりに味わいました。結構いいものですね。』

ジェットコ―スタ―に乗ったときの感情と似ているのかな?、彼はそう揶揄した。

『願望屋さん。』

彼は、私の隣に居た願望屋、秋に訊ねた。

『貴方はいつから、ぼくの二つ目の人格―――僕の存在を気づいていたんですか?』

願望屋は微笑して答えた。

『最初からだよ。』

『そうですか。』彼も微笑んだ。『それにしても、何時からこの一連の“出来事”は仕組まれてたんです?』

『真衣を転校させたときぐらいからかな。』

『え?なにそれ。』

私は彼に訊ねた。仕組まれた?そんなの聞いてない。

『真衣には言ってなかったからね。』彼は笑う。『今更ながらいっときゃぁ良かったって思うよ。まぁ、結果的には成功したけどね。』

『え?、え・・・どういうこと?』

どうやら、私はおいてけぼりを食らってるらしい。ここで、放置プレイですか。

『君が暴走したから、結構大変だったんだよ。後始末。』

『へ?』

『君はいつから気づいてたの?、今までの出来事が全部僕こと藤沢秋が仕組んだってこと。』

秋は尚、私を放置したまま話を続けた。

『たった、今ですよ。』彼は言った。『そこで隠れてる男を視認した瞬間です。』

『あ〜、あの子か。隠れるの下手だなぁ。』秋は後ろに眼をやり、柱の陰に隠れている不器用な男の子に眼をやった。『でてきていいよ。もう、ばれちゃってるみたいだから』

赤面した少年が現れた。

よくみると、その少年は見たことのある顔だった。

『まさか、桃太が仕組みに加担してたとは思いませんでしたよ。』

『彼は少し前、君と似た理由・・・・彼は“生きた心地がしない”という理由でここを訪れていたからね。彼に君の容姿や性格は色々聞いていたから来たときは吃驚したよ。ホント。』

『まさか、夾くんが願望屋さんに来てるなんて思いもしなかったよ。クライアントってこのことだったんだね。それに、あの真衣さんが願望屋さんの知り合いだってことに凄く吃驚。』

と桃太。

『え?・・ああ・・・秋。何で私に知らせてくれないのよ。仕組みのこととか』

桃太の突然の私への振りに私は少し戸惑った。

『だから、後悔したって言ってるでしょ?でも、まさか学校で麻呂くんを殴るとは思わなかったよ。っていうか徹の存在すっかり忘れてたし。夾くんの動機とか結構不明な点があったからさ、シナリオどおりに進まないところは結構あったよ。特に―――』

秋は続けた。

『真衣、じゃなくて徹が麻呂君たちに喧嘩売ったトコは。っていうか神楽坂で倒れた辺りから予定外。あっ、因みに麻呂君はこちらの、エキストラじゃないから。桃太くんだけだから。』

まるで、何事もなかったかのように

いままでのことが嘘だったかのように

彼は語る。

もしかしたら夾くんが出て行ったときの彼の必死に探す姿は偽りだったのかもしれない、と私は思った。

それとも、あの時だけは本当に心配していたのだろうか?

『・・・』

『まぁ、その失敗も結果的には上手く働いたけどね。麻呂くんたちとの友情は、依頼成功のための犠牲ってことで。』

いや、私が、悪いのだ。

秋は口に出さないが夾くんが麻呂くんやかけがえのない友達を失ったのも全て私が未熟だったせいだ。

成功のための犠牲なんかではなく・・・。

秋は更に続ける。

『しかし、そうはいうもののこちらの管理不行届きだったせい。麻呂君たちを失ったことは謝るよ。ごめんなさい。

でも―――こいつは攻めないでやってね。こいつはこいつなりに頑張ったんだから』

彼は私の頭を撫ぜた。

涙が私の眼から溢れそうになり必死に我慢する。

なんで。なんでよ。

なんで、貴方は私を攻めないの?

貴方が謝るの?

なんで貴方はそんなに優しく私にするの?

攻めてくれたっていいのに。怒ってくれたっていいのに・・・・

『真衣さん?』秋の言葉に聞き入り沈黙していた夾くんが私を呼ぶ声が聞こえた。『ぼくは気にしてませんから。大丈夫です。』

夾くんの言葉が、優しさが私の心に突き刺さった。

涙腺が緩み、私の眼から涙が決壊した―――。

私は未熟だった。

本当に未熟だった。

さっきそれを知ったつもりだったけど、それでも・・・

『ごべんだざい。ぎょぶぐん・・・・・』

私は初めて彼に謝った。

彼は許してくれるといったけれど

私はとにかく彼に謝りたかった。

   

もうすぐ、完結!

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