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*第二十二話 崩壊

コポコポコポコポ・・・・


コポコポコポコポ・・・・


コポコポコポコポ・・・・


ここは―――何処?

ぼくは、自問自答した。必死に今何をしているか思い出そうとして、止めた。

不意に自分が今どのような状況にいるか理解したからだ。

水の中だ。

そう、ここは水の中。大雨が降ってきて、ぼくは落雷に打たれ―――川に落ちた。気絶したぼくは急流に飲み込まれた。

ぼくは死んでしまうのだろうか?

不意にそんな不安がこみ上げた。

死んだら何処に行くのだろう?そういえば、父さんが言ってたっけ。


『ヒトは皆何れ死ぬんだ。夾―――。善いヒトは天国へ。悪いヒトは地獄へ連れて行かれてしまうんだ。夾、悪い子になってちゃ駄目だよ?』

『いやだよ。ぼく、悪い子になっちゃうもんね――。』

『駄目だよ。夾。死んだら閻魔大王様のもとに行くんだ。閻魔大王様はどんな嘘でも見抜いちゃうんだから。』

『え―――!?』


コポコポコポコポ・・・・

ぼくの体は急流に飲み込まれ深く深く沈んでゆく。

『!?』

急に苦しくなって、我にかえって眼を開く。ぼくの体のいたるところから血が出ていた。

『ボガッッッッ!!』

水を大量に飲み込み吐き出した。手元の岩に捕まろうとしたが、滑った。

ぼくはぐんぐんぐんぐん流されていく。

冷たっっっ!!我に返った拍子に感覚が戻ったようだ。

草を掴もう。小学校に入る前の幼稚な手で岸辺に生い茂る草を掴んだ。また、手が滑って掴み損ねる。しかも、今度は性質の悪いことに腕が折れた。

あまりの痛さに涙が溢れてきた。

『ボガッッッッっ!!』

また、水が大量に押し寄せてきた。手を傷めないように、顔を、水の上から出そうとしたが、うまくできない。幾ら水を吐き出してもどんどん体の中に入っていった。

また、岩にぶつかった。あまりの痛さと、五月とはいえ水の寒さに体が麻痺しているようだ。

不意に大量の泥水が押し寄せてきた。

おぼれる――――!!!

『タスケテ。タスケテヨ―――ママ・パパ―――誰でもいいから。お願い・・・・!!!』

辛うじて酸素を吸うために口を上げた瞬間、横に父さんが見えた。

『と・・・・・・とぉさん・・んふぁ・・・ぼはっっっ・・・・たす・・・・ケテ・・・』

彼はぼくを見下ろした。何も言わなかった。

『たすけて。たすけてよ。たすけてってば!!!!お父さん!!!!』

彼の睨みつけるような視線を最後にして、ぼくは記憶を失った。


あれが本当に父さんだったかなんてぼくは聞かなかった。

聞くのが怖かったから。本当のことを聞きたくなかったから。

次の日、母さんがぼくの看病をしている間に父は失踪した。

            *   

ふと、我に返る。 

そうだよ。思い出した。裏切ったのはボクじゃない。

父さんが――――親父が裏切ったんだ。

ぼくのことを。美菜のことを。母さん―――お袋のことを。

あいつは俺のことを助けなかった。

ぼくに何も言わず、それどころかお袋にだって何も言わず、あいつは、あいつは―――自殺したんだ!!

不意に、怒りがこみ上げた。

『どうだった?』もう一人の僕。名前すら与えてられていないと自称する“彼”が言った。『過去へのたびは。懐かしかったでしょ?』

彼はクスクス笑い、ぼくに近づいた。

『てめぇ!!』

ぼくの腕を間一髪で、彼はゆらりとかわすと『危ないなぁ。もう・・・』とまた笑った。

『で、裏切った自覚はもどった?』

『裏切ったのはぼくじゃない。親父だ!』

自殺したあいつが悪い。あいつが悪い。あいつが悪い。あいつが悪い・・・・

心の中で唱える。何回も頭の中を埋め尽くすようにぼくは唱えた。

冷静になれ。夾。こいつに騙されるな。まるめこまれるな。考えろ。

今のシ―ンに、父親が裏切った事象は確かにあった。しかし、この“自称”、ぼくの二重人格が生み出された理由はなかったぞ。

『ぼくは、お前なんて生み出した覚えはないぞ。』思ったことが口をついて出た。

『覚えてない?ほんとに?』彼はクスクス笑った。『あの後、大変だったんだよ?お前の―――つまり僕のお母さんは何もなかったなんていってるけど、実は二日三日お前は喚いたんだよ。父さんがぼくを裏切ったっっってヒステリックにね。』

『そんなことしてない!!!』

『おっとっっ、怒らない怒らない。』彼はぼくの目の前に手を平を向けた。『そこだよ。“夾くん”?キミは、そこで“僕”という強い人格を作り出したんだよ。自身の精神を守るためにね。所謂、二重人格の誕生だよ。ところが―――問題が起こった。』

『――――そんなこと・・・』

『そう、問題だよ。夾くん。』彼は構わず続けた。『“僕”という存在と“父親の裏切り”っていう事象を認めたくないキミは僕と“裏切り”の摘出を図った。キミはまさに天才だよ。精神力で言えばね。まぁ、二重人格として現れた僕の人格も“キミと同い年”で幼かったし、君自身もはっきりと、裏切りの事象を覚えていなかったから僕たちは心の奥深くへと閉じ込められた。』

沈黙が流れた。やがて、彼が再び口を開いた。

『長い間待ったよ。裏切りの記憶しかない僕は。キミのことをね。信じてたから。ほとぼりが冷めたらいつか救済してくれるって。けれど、キミは僕の存在を記憶から抹消した。僕は何度も君にエ―ル送ったの気付いてたよね?あれから、キミは岳山に行っていないみたいだからキミの一番身近な通学路で、僕は泣いてみたり、救済のエ―ルを文字で表したりした。』

不意に、願望屋へ来たとき、見覚えのある感じがした瞬間があったのを思い出した。

『ぼくは、きみを裏切ったつもりはないんだ。』

本当は薄々勘付いていたのかもしれない。

自分の中に何かがあるって。

自分でない何か。

懐かしい何かが。

足りない何かが。

けれどもぼくは追及することを恐れた。

彼の正体を。

知ることを恐れた。

認めることを恐れた。

でもそれはわざとじゃない。

意図したわけではない。

『それ、言い訳?』彼は少し悲しそうな顔をした。『ずっと前から気付いてたくせに』

『そんな・・・政治家じゃないんだから・・・』

『ううん』彼は首を振った。『キミは政治家と一緒。あの醜く、この世で一番糞ったれの政治家たちと一緒だよ。見てみないふりをしてた。』

彼の言葉に、ぼくは何も言い返せない。

論理を打ち崩せない。全てが図星。全てが正論だった。

ぼくのセイシンは狼狽した。


自殺したあいつが悪い。あいつが悪い。あいつが悪い。あいつが悪い・・・・

ぼくは悪くない、悪くない。悪くない。


ぼくは混沌の淵へと追いやられる。

ぼくのひ弱な硝子の精神が、崩壊する―――カウントが始まった。

一番長かった回かもしれません。

次は予期せぬ展開になりそうです!

また*第二十二話 予期せぬ裏切り→崩壊にした理由は、父親の裏切りのシ−ンが殆どかかれていなかったからです。

ところで、ずいぶん前から後数話後数話と公言しているのですが、色々と不具合が生じまして、今のところ第二十三〜二十五話までが決まっています。(二十五話はエピロ−グです。)タイトルもネタバレになってしまうので明かせませんが、出来上がっています。

また、二十四話のタイトルは、第二〜三話辺りから“最後には出すぞ”と決めていたものでその辺は変動はないと思います。

それでは、読んでくださっている皆さん。

物語はいよいよ佳境に差し掛かってまいりました。

果たして、夾君の運命は?

だいどんでんがえし(死語)はあるのか?

鬱陶しいかもしれませんがもう暫し、夾くんたちを見守っていてください。><

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