*第二十話(前) 対峙
何度目になるのだろう?
自分に訊ね、答えを得ようとしたのは。
あるときは、ここは何処?
あるときは、きみは誰?
またあるときは、ただぼくは何故?と訊ねた。
今回はそれのどれとでもあった。
何故であり何処でありいつであり誰なのか
彼に問いたかった。ぼくの目の前にたっている彼に。
今目の前にあるのは荒地。荒涼と形容すべき乾燥した地平線の果てまで何も見えない砂漠。
上にあるのは空。青くは、ない。けれでも黒でも鼠色でもなくて赤でも橙色でもなかった。
その中にポツンと一人ぼっちでたつ少年。ぼくと同じ背丈の、毎度ぼくの夢に出てくる少年。
何処か懐かしい感じがして、けれども触れることは彼に近づくことはなんだか怖くて躊躇してしまう。
彼とぼくは対峙していた。手を伸ばせば、届きそうな距離に彼はいた。
『こんにちは。』彼はペコリ、とお辞儀する。『ようこそ。“僕の元へ”』
ぼくは返事をしなかった。彼は迷わず続ける。『僕が誰だかわかった?』
ぼくは口を開いた。『ううん。全然。見当もつかないや。本当にぼくは君のことを知っているのかい?』
『・・・・・・』彼は少し躊躇した。そして、静かに澄んだ声で言う。『本当にわからないの?僕は君のことをこんなにも知っているのに』
『うん。ごめん・・・』
『君にね。僕は裏切られたんだ。君はもう覚えてないらしいけど。君にとって僕はそんなもんだったんだね。』
『きみの口からはきみの名前教えてくれないの?』ぼくは訊ねた。
『それは、嫌だな。できれば君の力でわかって欲しい。』彼は笑う。『そうじゃないと、僕の気がすまないから。』
『じゃぁ、ここは何時か、何処かは―――そして、ここはいつだか教えてくれるよね?ぼくの棲む町とは随分違うようだけど。』
『そうだね。夾くん。君の言うとおりだよ。ここが何処だかは前にも言ったよね?“墓場”である、君の荒んだ心の中さ。』彼は言った。『いつ、かって?強いて言えば過去だろうな。君にとって僕の存在は“過去”でこそあって“未来”でも“現在”でもないんだから。』
ぼくは、頭をフル回転させた。誰だろうか?
幼馴染。幼稚園の友達。小学校の友達。中学校の友達。親類のお兄さん。従兄弟。近くに住むお兄さん・・・・
誰だだろう?ぼくが昔裏切ったひと。心に刻まれるほどひどい裏切りをしたひとは。
『まだ、気付かないの?ぼくはこんなにもヒントを言ってあげているのに。まだ、わからないの?僕が“なにもの”なのか。君の“何”であるのか。』彼の声は次第に大きくなり、眼は見えなかったけど泣いているようにも感じた。
『やっぱり、きみにはぼくの声は届かないんだね。哀しいな。』彼は続ける。『ぼくは、君が思っているような人じゃない。君が最も身近に感じている人よりも更に身近にいて君のお母さんよりも君の親友よりも君の
ことをよく知っているのにな。』
ぼくはハッと自分の間違いにようやく気付いた。彼はぼくの何かじゃないだろうか?
『ぼくの・・・こころ?』
『ううん。だいぶ近くなったけどちょっと違うな。でも―――もう、いいや。うん。夾くんも焦れったいよね。』彼は一呼吸おく。『―――僕は。ぼくは―――。君自身。君が捨てた―――君に裏切られた感情。“恐れ”を背負わされ、その感情ごと君に埋められた―――君の心にしまい込まれた第二の人格さ。』
非常に短いですが、僕個人としては最後の部分で一度切ってから次の部分に進みたかったので一話を二部に分けました。後半部分は予定通りサブタイトルは“暴走”でいくつもりです。
→変更します。次の話はアイデンティティ―か――――の予定。話数は二十三で完結すると思います。12/13蓮宮志奈多