*第十二話 外傷体験
『願望の正体を。・・・ですか?』ぼくは思わず聞き返した。
『うん。願望の正体♪』彼は一呼吸おき、訊ねた。『でも、それには一つ、大事な欠片(ピ―ス)が欠けている。そうこの論理の障害となる大事な大事な欠片(キ―・ピ―ス)が。だからはっきりさせときたいことがあるんだ。一つ聞いてもいぃ?夾くん♪』
『えぇ』
『夾くんってさ、何かトラウマある?』
単刀直入な質問だった。なんて、答えればいいか迷う。
思い出そうとすると、気分が悪くなり悲しくなり、泣き出したくなる。
誰かに聞こうとしても誰も言葉を濁して答えようとしてくれない。
自分でもはっきりと覚えてはいないけれど、昔何かがあった気がする。
もっとも、確証は無いのだけれど。
ぼくの頭はナニを隠しているのだろうか?
それは、謎なのかそれとも単なるトラウマなのか?
誰かに訊いたことがあったが誰もがその話題を語ろうとはしなかった。
だから、とりあえずぼくは『ありません。』と答えた。
『それは、確実?』
『いえ』正直にぼくは答えた。『わかりません』
『そうか。そうだよね』彼は苦笑した。『でもね。夾くん。もしその経験が夾くんを“誰も信用しない性格”に変えた直接の原因なら、その因果は成立し、君が何故悩んでいたかさえも理解することができるんだよ。』
『・・・・・』
『だからね。もし、“誰も信用しない性格”になった直接の原因がトラウマだとしたら、それを治さなきゃ、君の願望には近づけない。すなわち、“誰も信用しない性格”を治さないと前に進めないんだよね。まぁ、先天的なものだったとしても処方は違えど治すことは可能だけどね。』
『仰っている意味がわかりません』ぼくは、俯いた
『う〜ん。とりあえず君の症状?っていうのかな?願望の原因は恐らく先天的なものかもしれないけれど、何らかのトラウマへの“恐れ”によって生じた“誰も信用しない性格”“孤独への恐れ”に思春期特有の“平凡で誰からも必要とされない”っていう平凡な悩みが絡んで生じた偶発的な症状なんだよね。その年ででっかい爆弾抱えちゃってるいる奴には結構多い症状なんだけどさ。君のはその中でも異端。結構な恐れ具合だよ。』
頭の中が混乱する。この人はいったいナニをいっているのだろうか?
彼は尚も続ける。『同じ夢を何回も見ることは無い?』
『何故です?』僕は思わず訊ねてしまった。
『いやね。もし、何らかの“トラウマ”があるのなら、そのことを覚えているいないに関わらず、脳は覚えているからさ。その怖さっていうのかな?恐れは現実世界ではデジャヴぐらいでしか感じれないにしても夢の場合鮮明に現れる場合が良くあるからさ』
夢・・・ね。
記憶を辿ってみる。
すごく暗い場所。
周りには誰もいなくて、ぼくは一人ぼっちで座っている。
けれど、何も見えないわけじゃなくて微かな街灯の光に照らされ住宅街が見えた。
そういえば、来るときに見たあの交差点は夢に出てくるように近かった気がした。
それは単なる空偶然かもしれないが、確かに。あの時は。
『でも、あれは偶然だよな・・・・』
ぼくは呟く。ほかにも、何度も見る夢があっただろうか?
『タスケテタスケテタスケテ』
え?
なんだろうか?一瞬、眼の奥で大量の水が見えたような気がした。少し気分が悪くなる。
『でも、違う・・・よな?』
自分に問いかけて納得する。それはぼく自身が無意識に思い出したくないから信じてないのかもしれないし、唯考えるのが面倒くさかっただけかもしれないのだけれど。
『まぁ、どちらにせよね。夾くん』彼はぼくの首筋に触れた。『ご都合主義のファンタジ―よろしく。ぼく流のやり方ですぐにでも君を救い出してあげよう♪』
それはまるで最初から知っていたような口ぶりだった。
『藤沢さん流の・・・理由ですか?』
『そうだよん♪』願望屋は微笑を浮かべた。『ぼくちゃん流の理由。あっ、あとさ。ぼくちゃんのこと“藤沢さん”なんて堅苦しい名前では呼ばないでね。“秋”とかでいいんだよ?』
『・・・・・・・』
『まぁ、いいや』彼は笑った。『ここから先は真衣が帰ってきたら話すから♪』
*外傷体験〜traumatic experience〜とは、心的外傷、即ちトラウマのことを指します。典型的な心的外傷の原因は、幼児虐待や児童虐待を含む虐待、乱暴者による強姦、心無い戦争、理不尽な犯罪や事故を含む悲惨な出来事、実の親によるDV、大規模な自然災害などであるそうです。【ウィキペディア(Wikipedia)より抜粋】
また、この話もそろそろクライマックス!ご期待ください!