特訓中
「ユーリ、調子はどう?」
「あ、ニース教官。」
特訓開始から3日目、ニース教官がロイ将軍の屋敷に訪ねてきた。
「ロイとうまくやってる?」
「…そ、そうですね。まぁ。」
「何、今の間…ロイにセクハラでも、されてるの?」
「あ、いえ、それはないです。ニース教官は、どうして?」
あの夜以降ロイ将軍はセクハラをしてこない、というよりお互い少しギクシャクしている。それがばれたくなくて、話をそらす。
「どうせ将軍の事だから、そろそろユーリに襲いかかってる頃かと思ってね〜。」
「それは流石にないんじゃ…」
「いやいやーあの人、結構手出すの早いよ〜?」
「ニース。そんなに私は野蛮ですか?」
ニース教官の背後から声がかかる。
「あぁ、ロイ。まぁ、年頃の可愛い女の子とずっと一緒だし〜?ユーリには前持って教えとかないと?」
ニース教官に微笑みかけるロイ将軍の目は笑ってない…
「それにロイってば、ただでさえ…」
口の止まらないニースに対して
「ニ、ニース教官っ…怒ら、」
れますよ、と続ける前にロイ将軍が分厚い本をニースの足元に落とした。
「いっ!!」
「あぁ、すみません。ちょっとうっかり手が滑ってしまいましたねぇ。痛いでしょう?」
「っっっく〜〜〜!」
足の甲に落とされた分厚い本の角が直撃した様で、ニース教官はしゃがみ込んだまま動かない…
「ニース、その本を明日までに要約しておいてください。他国の文化と、特徴が載っています。私はこれからユーリと、出かけます。さ、ユーリ。」
ぐっと腕を引かれ、動かないニース教官を廊下に残したまま去る。
「ロイ将軍、出掛けるって、どこへ?」
スタスタと、歩くロイ将軍に早足でついていきながら質問する。
「着いてからのお楽しみです。」
荷物を馬に取り付け、さぁ、あなたも、と手を差し出すと抱き上げられた。
後ろにロイが座る形になり、背中からは体温が、耳元からは吐息が感じられる。
「少し、スピードを出すので気をつけてくださいね。」
駆け足気味の馬に揺られて暫くすると森があった。森の中をゆっくりと進むと、目の前に広がっている光景に声が出た。
「…すごい。」
小さな泉の周りに咲き乱れる花々。緑の木々と青い空の色が水の中で穏やかに揺れている。鳥のさえずりと風の音が響いて、心地よく耳を抜ける。
「私も、初めてここへ来た時にそう思いました。」
「素敵な場所ですね。」
木漏れ日の指す小さな空間。こんな場所、おとぎ話にしかないんじゃないかと思っていたけど、実際に目の前にある。
「気に入って頂けて良かったです。」
ロイ将軍が優しく微笑む。
「今日はここで昼食をとりましょう。さぁ、こっちに。」
二人で泉の前に横たわる木に寄りかかって座る。
厨房で用意してもらったというサンドイッチがとても美味しい。チーズとサラミのシンプルなものだが、周りがサクッと固いバケットに包まれて塩味と小麦の甘味とのバランスがいい。
「ユーリは、食べることとなると、集中力があがりますね。」
その美味しさを堪能することに集中しすぎて、つい隣に座っている人のことを忘れていた。
「だって、本当に美味しいんですよ!外で食べるから余計になのか、バランスが絶妙というか、とにかくすごく美味しいんですよ。」
「それは良かった。ここは空気がいいですからね。」
「将軍はよくここへ?」
「えぇ、時々ここへ来ては何も考えずただ景色を眺めて過ごします。私の癒しの場とでもいうんですかね。」
「癒しの場ですか。」
「本部では考えなければいけない事が山積みですしね。屋敷にもニースがよく押しかけてくるので…ここは誰も来ませんから。」
「誰も?」
「えぇ、私だけしか知らないとっておきの場所なんです。」
ロイ将軍の特別な場所。誰だって一人になりたい時はある。ましてや大人数をまとめあげるポジションについてるから余計になんじゃ…。
「あの、良かったんですか?私なんかと…」
「この間のお詫びです。」
「え?」
「この間の晩、あなたを怒らせてしまったでしょう。」
「あ…あの時のことなら、ロイ将軍が謝ることじゃないですよ。」
将軍が悪いとかでなくて、ただ自分の勘違いで勝手に怒っただけだ。
「そう、ですか?しかし、」
「いえ、その、私がむしろ謝らないといけないので…ロイ将軍は、全く悪くないので気にしないでください。」
しゅんと項垂れる将軍に慌てて、声をかける。それでも謝罪の言葉を続けようとする将軍に対して、明るく言う。
「これで、仲直りです!」
将軍の手を取り、ぎゅっと握手をして笑顔を向ける。その瞬間、ぐっと引き寄せられてロイ将軍の胸にすっぽり収まる。…前にもあったな、この感じ…
「えっ!ちょっ、」
クスクスと耳元で笑う声が聞こえる
「いやー、可愛いですね。」
「ロ、ロイ将軍!近いです!」
「あの晩、あなたに近づき過ぎて…てっきり嫌われたかと思いましたが、、、良かった。」
ぎゅーっとそのままロイ将軍の腕の中で、この状況は一体何なのかと考える。
「嫌ったり…なんかしませんよ…」
「ん?」
「あっ!いえ、」
思わず口に出しちゃったよ!き、きこえてないよね…?
「よく、聞こえなかったので、もう一度。」
左頬に将軍の手が添えられて、顔をあげられる。にっこりと微笑む将軍に、この赤い顔はごまかせない。
「な、なんのことですか⁈」
極上の笑顔がこちらに向けられて、将軍の口がゆっくりと動いた。
「ユーリ?上司命令です。もう一度。」
「〜〜〜っ!!」
その後ロイ将軍がセクハラ大魔王に戻り終始ご機嫌だったのはいうまでもない。
遅くなりました。まだまだ続きます。今回も下手くそな文、誤字脱字は許して下さいorz