仮初めの恋愛ごっこ
おかしい…そんな事ないのかもしれないけど。でもやっぱりおかしい…
二人で、街一番と言われるレストランへ行き、他国から来た歌姫の美声を聞いて、今はこれまたロマンチックな酒場に来ている。完璧すぎるデート。…って
「これってデートなのかしら…」
「何を言ってるんですか?」
思わず声に出ていたらしい…
「あ、いえ、何でもないです…」
肩と肩が触れ合いそうな距離。こちらを見て微笑むロイ将軍の顔が近い…
「デート…かと言いましたね。そうですね、私はそのつもりでしたが…退屈させてしまいましたか?」
「そっ、そんな事…」
ロイ将軍の顔を直視できず、顔を背けてしまう…だから何でそんな顔するのよ〜!少し困ったようにして笑う顔…優しい声…もう、こっちが困って泣きたくなる…
「顔が、また随分と赤いですね。少し酔われてしまいましたか?」
スゥっと手が伸びて頬を撫でられる。
「っ!だ、大丈夫ですから!」
ガタっと大きな音を立てて、勢い良く立ち上がる。立ち上がろうとしたら、足に力が入らずよろけてしまった。思っているよりお酒が回ってしまったみたいだ。
「ほら、少し飲み過ぎです…今晩は、帰りましょう。」
そう言って、将軍は腰に手を回ししっかりと体を支えた。ロイ将軍のスーツに掴まりながら、おぼつかない足で店を後にする。
ヒンヤリと夜風が頬にあたり気持ちいい…
「ロイ、将軍…」
「何ですか?」
「将軍は、今日は…」
立ち止まって、ジッと隣にいる人が、ロイ将軍だということを今一度確認する。
「…とても、やさしいです。」
「…心外ですね。いつもと違うと?」
「すこしも、意地悪くなくて、だれか、べつの…ひと…みたいで、」
酔っていて言葉がうまく伝わらない…
目の前にいる人の顔をよく見る。雰囲気はいつもと違うけど、間違いなくロイ将軍だ。ただ、やっぱりどこか違って…
「お、おちつかないです…」
ロイ将軍が優しい目で笑った。
「さぁ、ここは、冷えます。馬車に戻りましょう。」
肩を抱き寄せられ、道の脇にとめてあった馬車へと向かう。
馬車の中に入ると、将軍が前に座らず横に座った。カーテンを閉めて、馬車が走り出すと、小さな声で囁いた。
「やっぱり、いつもの私が好きですか?」
え?と答える前に口を塞がれた。同時に見えたのはいつもと同じ深緑の鋭い目。