仮初めの調査班
食堂で昼食を終えて、調査班の部屋へ入ると、腰まである三つ編み姿の女性がこちらに気づいた。丸いメガネをかけたその女性はゆったりとした口調で話しかけた。
「あら、ユーリ。いらっしゃい。そろそろ来る頃だと思ってたの。」
「こんにちは、レイティー。いい香りね。」
「ふふ、今日はダージリンにクッキーを用意したの。」
薄オレンジの三つ編みに丸みを帯びたメガネが、彼女の柔らかい雰囲気にとても似合う。数少ない女性メンバーの一人で、慣れない私によく気を使ってくれる優しい姉のような存在だ。
「クッキーだなんて、勤務中なのに大丈夫なの?」
「そうねぇ、普段はあまりしないけど、今日は調査の報告もあるし、甘いものがあった方がいいと思うのよねぇ…」
「そうなの?報告があるのに他のメンバーはまだ来てないみたいだけど…」
「もうすぐ帰ってくるんじゃないかしら?」
レイティーは、のんびりとした様子でカップに紅茶を入れていく。もっとキビキビしてなくてもいいのかしら…班長なのに。まぁ、それが彼女のいいところなんだけど。
「ここの部屋の空気が暖かいのは、きっとレイティーがいるからね。」
そう、調査班の部屋だけはいつもいい匂いがしてリラックスできる。
「西陽がよく入るからじゃないかしら?」
「ううん、違うと思うの。だってもしここに将軍がいたら、こんなのほほんとした空気じゃなくて、もっと、こう、ヒンヤリしそう…」
「そうですか?」
背後から声が聞こえて肩に手を置かれると、一気に体温が下がるのが分かった。
「心外ですね、これでも割と団員たちから慕われている方だと思っていたんですけどね。」
恐る恐る振り返ると、ロイ将軍がいた。
「いえっそ、その!こう!引き締まった気持ちに!っな、なるというか〜!あ、う、、」
疑いの眼差しをかけながら、微笑む将軍に更に体温が下がる。
「では、皆さん揃ったところで、報告をはじめましょうか。」
レイティーの掛け声で、将軍と一緒に入ってきた調査班の班員が席へと促した。
テーブルには班員がいつの間にか並べた書類があった。が、妙に自分と将軍の分が分厚い。将軍のが分厚いのは分かるけど…なんで私の分まで…
「はい、今回はある貴族についての報告です。最近妙に貴族間の中で借金が増えているのですが、違法に賭博が行われているみたいですね。」
「それで?」
調査班の男が続けて言う。
「中々尻尾を捕まえられないので、潜入して直接現場を押さえようと思います。」
「ふむ、まぁそれが一番手っ取り早いですからね。」
「そこでですが、」男が、言う前にレイティーが口を挟んだ。
「ロイ将軍とユーリにお願いしようと思うのよねぇ。どうかしら?」
レイティーが微笑みながらこちらを見る。
「ちょっと待ってください!私がですか⁉︎」
「えぇ、だって一番手が空いている女性があなたしかいないしねぇ。」
「そ、それは…その通りですね…はい…」
確かにレイティーや医務長は無理だろうし、残りの女性陣は、料理班のおばさまたちばかりだから自分が行くのが当然か…
「すみませんね、将軍自らだなんて。なんせ貴族のパーティなので他の団員では粗相が…」
「別に構いません。」
「ちゃんと作法をロイ将軍から習ってね?ユーリ。」
「はい。」
ロイ将軍は、私が元貴族だと他の団員には伝えてないようだったので、私は素直に頷いた。
「じゃあ、ユーリその資料にある貴族のプロフィールを一週間後のパーティまでに覚えるように。」
「こ、これ全部ですか…?」
「そうね、よろしくお願いね?」
変わらない笑顔のレイティーに逆らうことが最後まで出来なかった。
誤字修正しました。