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仮初めの  作者: やいな
18/22

仮初めのマジシャン

「ねぇ、あなた私に嘘ついてるでしょ。」


大衆で賑わう食堂で、グラスを片手に怪しい男がとぼける。


「何のことです?」


「道に迷ってたって行った割には、随分道に詳しかったじゃない。」


下町は細い道が入り組んで、その上ごちゃごちゃと似た様な店が立ち並ぶ。よっぽど詳しくない限りこんな大通りからそれた場所にある食堂など見つからないのだ。


「あぁ、それは…私が美味しいものには目がないからでしょう。」


「?」


「一度気に入ったものは、何度も食べたくなる。だから美味しいものに関しての記憶力だけは凄いんですよ。」


「…へー、そう。」


怪しい。段々と、いや、元々だけど怪しく見えて来た。半ば強引に連れて来られたけど、この人のペースに乗らずにもっときっぱり断るべきだったわ…まぁ、食事を、終えてさよならすればいいわよね。


「ほらほら、サンドイッチが来ましたよ。できたてのうちに、どうぞ?」


店員がぶっきらぼうにお皿を置くとサンドイッチが揺れた。


ロールパンに溢れんばかりの卵とベーコンがレタスに包まれて挟んである。


ほかほかと半熟の卵からでる蒸気にケチャップの甘酸っぱいにおいが入り混じる。


「おいしそう…」


「豪快にかぶりつくともう最高ですよ。ほら、温かいうちにどうぞ?」


「…こほん。いただきます。」


がぶりと、極限まで口を広げてサンドイッチにかぶりつく。サンドイッチは、もうこの際アルメアが怪しいとかなんでどうでもいいや。むしろこのお店教えてくれてありがとう!と叫びたくなる美味しさだった。


「ごちそうさまでした。」


店をでてご馳走してくれたアルメアにお礼を言う。


「いえいえ、こちらが助けて貰った身ですから、当然です。いやぁ〜、それにしても何ですかね…ククッ」


「なに笑ってんのよ。」


「女性と食事して今までにあんなに豪快にかぶりつく人なんて…あはははっ!面白い、あなた面白いですよね!」


お腹を抱えて笑い出すアルメアに、悪かったわねと言ってそっぽを向く。


「あぁ、違いますよ。褒めているんです。今までは内心野獣の様に思っていながらも、蝶のように振る舞う人たちばかりでしたから。」


「へー、やっぱりモテるのね。」


「やっぱり?どうしてそう思うんです?」


きょとんとするアルメアにこちらが驚いてしまう。


「どうしてって、自分の鏡見たらわかるでしょう?それだけ格好良かったら誰だって寄ってくるでしょ。」


アルメアが目を細めて手を取り嬉しそうに微笑んだ。


「あなたも?あなたも私の容姿について想う所があるんですか?」


「えっ!わた…し?わ、私はっ!…そうね…見た目はいいわよね。」


「クスッ…見た目だけの男ですか?」


意地の悪そうにニヤニヤとアルメアが言う。


「…話も…面白かったわ。それに舌もいい…」


「ふふっ、その言い方は何だか官能的ですね。」


「料理の話よ!料理のっ!」


「それにしても、ベタ褒めですね。私のこと好きになっちゃいました?」


「…恋人とかそう言う意味なら、それはないわね。」


「そうですか、それは残念。」


「せいぜいごはん友達ね。」


「あー、それは良いですね。あなたが美味しそうに食べる所は私も見ていて好ましい。」


アルメアがにっこりと微笑んでいるとかれの背後から声がかかった。


「アルメア様…お探ししましたよ。」


「あぁ、ルイス。思ったより早かったですねぇ。」


年は三十すぎ程の、眼鏡をかけた男性が声を掛ける。大人しそうな、でも意外と身体は引き締まってるわね…しかもアルメアを様付けで呼んだ…そうこう思いを巡らせていると声をかけられた。


「ユーリ、彼は私の雇い主の家のものです。待たせると怖い主なので名残惜しいですが、また今度…。また美味しいものが食べたくなったらここへ連絡をください。」


そういって男性からペンと紙を取り上げて、住所を書いた。


「門番にあなたの名前と日時を伝えてくれたら、あの公園に迎えに行きます。」


「そ、そう。わかったわ、ありがとう。」


後ろの男性が訝しげにこちらをずっと見ているので、紙を渡すにしては近すぎる距離まで来たアルメアに離れるよう促した。


そんな様子を見て、アルメアは薬と笑って言った。


「あ、ユーリ。ケチャップ付いてますよ?」


えっ、どこ?そう答える前に、顎を掴まれアルメアの顔が一気に近づく。


「!!」


ペロリ


と唇のすぐ横を舐められた。


「ごちそうさま。今度は私のココを褒めてもらえるよう、とびきりの場所へ連れて行ってあげますよ。」


と笑いながらぺろっと出したしたを指差して言った。


ひらひらと手を振りながら、連れの男性と大通りへ向かっていくアルメアを、ただその場で呆然と見つめるしかなかった。




ーーー


「…なんです?何か言いたいことでも?」


「あまり庶民とお戯れにはならないようにお願いします。」


「…ただのご飯仲間ですよ。」


「ですが…」


「ハァ…良いじゃないですか。休日どこで誰が誰と食事する位。別にナニしようって訳じゃあるまいし。過保護ですよ。」


「ナニって…謹んでください!あなたの身に何かあれば、文字通り首が飛ぶのは私なんですから!」


「わかってますよ。もう、弟が後を継いだんです。それに別に私がフラフラしていい加減なのも今に始まった事ではないでしょう。」


「それは、周りが勝手にそう思ってるだけでしょう!本来ならばあなたが跡を継ぐものをっ!あの方がっ!」


「まぁまぁ、落ち着いて。ルイス、君のいい所は、その真面目さだがあまりに堅物すぎるのも女性には好まれませんよ?だから行き遅れるんです。」


おどけてみせる主人に、もう少し真面目になって欲しいなどとは、口が裂けても言えず黙り込むルイスだった。





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