暇な休日・仮初めのマジシャン登場
「あーあ。何しよう。」
ボーッと公園のベンチに腰掛けて空を見上げる。青と白のコントラストが美しい日だ。
足元には鳩達が餌をねだって近づいてくる。かじりかけのパンを千切って放り投げると、一斉にパンをつつき出す。
せっかくの休日が…あぁ、なにが悲しくて女の子一人ではとにエサあげてんだろ。
今からでもレイティー達と合流出来ないかな…先約があるからって断っちゃったのに、先約に断られちゃうなんて…かなしすぎる。
ボーッと再び空を眺めていると、どさっとものが倒れる音がした。
ぱっと振り向くと、人が俯いてかがみこんでいた。
「だ、大丈夫ですかっ?」
慌ててかけよると変な人がいた…。
白い帽子に、白いスーツ。その白い帽子には貴婦人がつけるような大きな羽の飾り。右手にはまた白い杖。
声を掛けたことを一瞬後悔したが、体調が悪そうな人を放っては置けない。
取り敢えずベンチに座らせて近くで水を買ってきて渡す。
「大丈夫ですか?お水飲めそうですか?」
「あ、あぁ。すみません。」
相手が顔をあげた瞬間目が合う。
相手を見ると、かなり整った顔つきをしていた。灰色の柔らかそうな長髪を後ろに束ね、神秘的な薄紫の瞳でこちらをみている。
どこかの貴族かな、もう気品溢れるオーラが半端ないんですけど…宝石みたいな人…。
「道に迷って、おまけに体調も悪くなってついていないと思っていたのに…」
「?」
「こんなにも美しい女神に介抱してもらえるなんて、私はラッキーだ。」
っ!!
軽っ!この人軽っ!ざ、残念なイケメンだ…。
「…ナンパならお断りです。」
「おや?お世辞では無いですよ。あなたは美しい。お礼をしたいので、ランチでもご一緒にしてくれませんか?」
「えっ、いやっ、人を待っていますので。」
目をすぐに逸らして、思わず嘘をついてしまった。こんだけ綺麗な顔に微笑まれると破壊力半端ないかも…。
「そうですか…ではその人が来るまでここに座っても?」
「へっ…いや、その。」
「クスッ、大丈夫ですよ。相手の方が来るまでです。私は体調が良くなり次第退散しますから。心苦しいですけどね。」
おちゃめに笑うので、罪悪感がちょっぴり増えた。
しばらくたわいもない話をした。どうやら彼は最近来たばかりの見習いマジシャンだという。胡散臭いと言ったらそう思われてこそマジシャンだと笑って杖の上部から花を取り出した。唯一出来るのがまだこれ位だそうだ。
「アルメアって面白いわね。」
「そうでしょう、恋人など忘れて私と付き合いたくなったでしょう?」
「ふふっ。」
「それにしても遅いですね。あなたの恋人はロクでもないのでは?少し不安になってきました。」
「あ、あははは〜。」
「笑い事じゃ、ありませんよ?あなたは悪人にもすぐに騙されそうだ。泣かされたり、騙されたりしてませんか?」
「騙されたりするもなにも…恋人でも…ないから。」
「…⁉︎ そう、なんですか?」
アルメアが目に見えて驚いている。
「えぇ、上司ですし…。今日も、きっと何かの買い出しだろうし…。それかご褒美にご飯とかそんな感じかも…?」
「なら遠慮することはなくなりました。綺麗に着飾ったあなたを長時間待たせる上司など、ゴミです。さぁ、私について来てください。」
「えっ!ちょっ、ちょっと!」
ぐいっと手を引かれ、そのままアルメアに連れて行かれる。
「あ、アルメアっ!」
公園を出て下町へ降りていく。アルメアは、最近来たばかりとは思えない様子で人混みをかき分けて行く。
「ほら、着きましたよ。ここはサンドイッチが絶品なんです。」
握られたままの手に、ギュッと力がこもる。
「そろそろ、あなたの名前を聞かせてはもらえませんか?女神様。」
「…ユーリよ。」
アルメアは満足そうに笑い、握られた手にチュッと口づけを落とした。
「ユーリ、今日は憐れなこの見習いマジシャンとデートしてくれますか?」
「!!」
ヒューっと、周りから好奇の視線とヤジが飛ぶ。
顔が、熱くなりどう答えようと考えているとアルメアが、あなたは本当に詐欺にあいやすそうだと笑った。




