Target:Elisa and Rina +α./episode95
「意外と男装してるとぽかぽかするもんだね、凛君」
夕方5時。さっさと家に帰った僕は、すぐに会長の待機している部屋、僕の部屋に向かった。ドアを開け、布団の上でテレビを視聴している会長が発したのは、まさに上のその言葉そのままだった。
「……目覚めましたか?」
「そういう訳じゃないよ」
「いや、男装に目覚めたってわけじゃなくて……」
「なっ、ばっ……」
勘違い乙、と言いたいところだがまあいい。これがもし相手が男だったなら、恐らく僕は酷い態度を取ってしまうと思われるが、何かとこう、女の前では酷い態度を取りづらいのが僕という人間だ。ある意味、女性に媚を売っているように聞こえるかもしれないが、そう受け取っていただくのは大変よろしくない。
「……で、何見てるんですか?」
「あ、これ? これは、凛君が保存してた、巷でも結構エロいって噂のアニ……って、消すなっ!」
僕は、『エロいアニメ』と聞き、咄嗟にリモコンを会長から奪ってテレビをぶち消した。
「……悪いですね、会長。それ、もしかして、喘ぎ声とか入ってましたか?」
「ま、まあね……。まあその、選んだアニメのDVDがまさかそういう……。り、凛君はああいうのが好み……なの?」
「『ああいうの』って何ですか?」
「そ、それは……」
僕には、そのアニメが一体何なのか、会長の答えを聞いてすぐにわかった。それは、前に僕がライトノベルコーナーで、『特典版』のやつを発見、すぐにレジに持って行ってまさか『年齢認証』が求められるとは思わなかった、という、あの時のアニメに、非常に当てはまる節が有った。
そして、そのアニメの中に登場するヒロインは……。
「ボクみたいなひんぬーは、凛君『キライ』……かな?」
「結局のところ、愛さえあれば関係なんて無いんです。ひんぬーだとか、きょぬーだとか、そういうのは結局全部、愛さえあれば関係もないんです」
「じゃあ、教師と生徒とか、兄と妹とか、姉と弟とか、そういうのは……」
「……海外でなら通用しますね、理論は」
「――じゃあ、生徒会長と副会長は?」
「えっ」
突然、会長はそう言った。そして、リモコンを奪った時にそれなりに会長に近づいていたので、僕は制服の裾を会長に掴まれ、ベッドに倒されてしまった。
「なっ……!?」
この構図は非常にマズイ。僕が会長を押し倒してしまっているかのように見える構図だ。……非常にマズイ。これは早くどかないと、後々大変なことになるんじゃ……?
「……ほら、早くいいなよ?」
顔を紅潮させ、会長はエロい笑みを浮かべると、そのまま僕の腰のところに両手を当て、その後ぎゅうっと僕に抱きついてきた。
「あ、有りなんじゃないですか……?」
僕はそう答えた。途端に会長の顔にあったエロい笑みがどんどんやばい方向になっていくのがわかった。
「そ、そっか。ところで、水欲しいんだけど……」
「分かりました。一応、水道水でもいいんですが、ミネラルウォーター買ってあるんで、それ飲みます?」
「かっ、買ってきてくれたんだ!?」
「まあ、早く会長の容態がいい方向に向かうように、って意味で……」
「ホントに凛君はボクの理想に叶ってるなあ……」
「え?」
「いやその、ボクは結構ダメダメな人間だから、誰かに助けてもらわないと生きれないし」
「それでも会長は料理もうまいし、人をまとめることだって出来るし、勉強もできるじゃないですか。……絵とか音楽とかは分かりませんけど」
「絵に関しては、それなりに良い所行ってると思うけどな」
「音楽は?」
「まあ、音階が分からないわけでもないし、それなりに演奏できるし。ただ、歌が……」
「声量が小さいとか?」
「うん。メロディーラインにそって歌っているはずなんだよ。でも、声が届かないらしくて……」
「それはお金で解決したらどうですか?」
「馬鹿かっ! ボクは金で何でも解決できるみたいな人間ってふうに扱うなっ!」
今までのエロい笑みを浮かばせ顔から一転、少々むすっとして怒り顔を見せた会長だったが、その顔の表情もすぐに解け、また笑顔を浮かべた。
「……まあでも、そうやって話がうまいところもボク好みだ」
「有難うございます」
「と、ところでお水は……」
「あっ……」
僕は、会長からの拘束を一時的に解いてもらって、それから台所まで向かい、冷蔵庫を開けてミネラルウォーターをコップに注いだ。本当は、プラスチックとか、それこそ開いたペットボトル容器とかに入れるのが一番いいんだろうけども、探しても探しても、そういったものが見つからなかった。日頃、恋にキッチン周りを任せているのが裏目に出た感じだ。
階段を登りつつそんなのを考えていた僕は、いよいよ部屋だと思ってドアノブに手をかけ、ドアを開けた。すると……。
「もっ、もう来たのか!?」
「水を注ぎに行くだけだし……って、会長」
「……ん?」
「どうしてそのアニメを見てるんですかねえ……?」
「ち、違うんだ! 決してその、凛君の好きな属性とかを探るためにというか……あっ」
「聞こえてますよ?」
「わわ、忘れろおおっ!」
会長がジタバタとして、忘れろ忘れろと僕に散々言ってきた。
「忘れませんよ」
「むっ」
会長はそう僕の方を見て睨むと、テレビの音量を最大にあげてくれた。
「ばっ……」
『あっ……んっ……らめえっ、そこらめらっ、あっ……ひいっ!』
消し去りたい。非常に消し去りたい黒歴史が今また一つ生まれたぞ……。
テレビから、そういった喘ぎ声が流れた。そして、隣の家の住民から、非難のメールが届いた。
『何夕方5時から喘ぎ声流してくれてんの? ここ、小学生の通学路なのにアンタ何してくれてんの?』
喘ぎ声を流して20秒程度でそれが届いた。恋って相当打つの早いんだな。PCのキーボードタイピングなら、僕も誰にも負けない感じがするけど。
「……会長のバカ!」
ちょっとばかし、アニメのキャラ風に行ってみた。ツンデレっぽく言ってみた。……ネタのはずだった。だが、会長はそんなネタは受け取ってくれないそうで……。
「いいぞ、もっと言え」
「貴方がツンデレ属性だからって言わせんな! 恥ずかしい!」
「意外と凛君にも可愛い所あるんだな」
「顔が可愛いってか! おちょくんなっ!」
「おちょくってないよ。バカにしただけだよ?」
「結局からかってるじゃねえかっ!」
「まあ、ボクからの要望としては、是非とも凛君の声のオクターブをもっと上げるべきだと思うんだよ。絶対そっちのほうがいいと思うんだよ。というか、早く凛君は認めるべきなんだよ。自分が女らしい男だって」
「やめて! 姉ちゃんみたいに僕の事を酷く言わないで!」
「なんだその、『やめて! 同人誌みたいなことするのはやめて!』みたいな……」
「その原文って、『同人誌みたいにっ!』でしょ?」
「でも、ボク同人誌なんて……」
「ふっ」
これは掴んだな、と僕は思った。仮にこれが会長側の提示した罠だとしても、その罠にあえて引っかかるのも一つだと思い、僕は聞いてみた。
「読みます?」
「え?」
「同人誌、読みます?」
「でっ、でも同人誌はエッチな……」
赤くなっていなかった会長の顔が再度、赤みをつけていった。
「アダルティーな内容じゃないです。ただ、普通の恋愛とか、キャラを撫でるだけとか、そういう話もあります。ただ、大半は……」
「……そういうこと、もう一回したい?」
「えっ」
「……今度はさ、その、ボクとひっ、避妊道具無しで……」
「……それなんてエロゲですか?」
「だから言ってるじゃん。My ever……」
「やめなさい、作者を傷つけないでくれ」
「いっその事、作者=凛君ってことにしたらどうなの?」
「それ、更に『生徒会●一存』に近付きますよね!?」
「いやだって、副会長がエロゲやってる時点でアレだし、『会長』って呼んでる時点で……」
「な、何ですか……?」
「Meta2fってパクリって言われるでしょ」
「いっちゃいけないよね!? それ言ったらパロディー全部消されるし、それこそ貴方干されるよ!? 作者に消されるよ!?」
「酷いなあ。そんな超展開のような殺害展開なんて起こるはず……」
「僕は毎日ちゃんとカッター持ち歩いているので、刺そうと思えばさせるんですけどねえ……」
「ひい……っ!? なにこの子! 恐ろしい子っ!」
「変な態度取るなバカ」
「すいませんでした……。まあでもその、『会長』じゃなくて、日常でも『里奈』って呼んで欲しい、かな。ボクだって、凛君と一緒の学年……」
「じゃあ、ボクの事を御主人様って言ってみてください。そしたら、僕は許してあげますよ」
「ゆっ、許すって一体なに!?」
「間違えました。その話を呑むってことです」
「あっ、ああ。……って、『御主人様』!? やっぱり首輪……」
「あの、会長って性格に似合わずMなんですか?」
性格に似合ってる……か? ……似合って、ないよね。
まあ、僕が思ったことをそのまま言っておけばいいか。
「……ボクはその、さっき凛君に倒されてる感じになった時、もっとあんなことやこんなことをして欲しいって思ったよ?」
「ビッチですね」
「違うわっ!」
会長からキツイ一発が飛んでくる。
「次言ったら目潰しな」
「ちょ……」
あの、目がマジなんですけど? これネタなんですけど? ……おっと、急に寒気がしてきた。背筋が結構ゾクって……。
「あの、里奈?」
「な、なにかな……ごっ、御主人様?」
「魔力はどう?」
「あっ、その件はニュクスに聞いてみてよ」
「そう。……じゃあ、呼び出すか」
『ニュクス、僕の部屋へ即座に来い』
そうメッセージをニュクス宛に届けた。瞬間、僕の目の前にエプロン姿のニュクスが現れた。そして、同時にエリザも付いてきた。
「ダーリン、私が居るというのに……」
「やめなさい、また変なスイッチいれんな」
「ま、私はワンランク上の幼馴染ということなので、もう良いですが」
「でも、ワンランク上の幼馴染とかより、恋人の方がいいなあ。会長さんマジ羨まし」
「えっ?」
「ふぇ?」
僕が首を傾げると、エリザは目を大きくさせた。
「いや、その、だから、別に里奈は……」
「ごっ、御主人様の彼女じゃなくて……」
「その、あれだ。生徒会長と生徒会副会長ってだけで、別に……」
僕が誤魔化そうとしたが、エリザはその誤魔化しにすぐに気づき、僕の方をむすっとした表情で見てきた。やっぱりエリザは、表情で怒りを表現できるものの、怒りを言葉で表現はできないようだ。
「嘘つけ。こっちには『抱いた』って話入ってきてんだよバーカ」
「……それはまあ」
「それに、あれだぞ。会長さんだってボクっ娘なんだから、もうちょっと女の子として扱いなっつの。まあ、そうやって会長さんを守れるのはダーリンしか居ないんだし、もっともっと抱き合ったりしていいと思うけど……」
「僕を変な人みたいに言うなっ!」
「別にそんなふうに言ってるわけじゃないよ。ただ、ちょっと羨ましいだけ」
「で、ちょっとムカつくとか?」
「そりゃ好きな人取られたわけだし」
そうエリザが言うと、会長がそれをチャラにするように言った。
「だ、だからボクはその……あ」
「会長ボクっ娘かー。可愛い……っ! 妹にしたい!」
「な、撫でるなあっ!」
何か、こうやって女の子同士がいちゃついてるの見ると、なんとも微笑ましくなるのは一体何故だろうか。いつもはエリザのほうがテンションも高く、僕に接する時間も長いので、何となくエリザのほうがバカに見えていたのだが、妹のように見えていたのだが、今は逆に見えた。エリザが姉、会長が妹、そんなふうに僕には見えた。
「……会長さん、絶対ダーリンと結婚してね」
「え?」
「じゃないとその、お金が……」
「べっ、別に結婚なんてしなくても友達同士なら……」
「でも結婚してほしい!」
「えっ……」
「そこまではいかなくても、付き合って欲しい。……でもなんか、梨人とダーリンが、12月12日に好きな人に告るとかいう約束作ってるらしいから、それまで待ってもらわないとダメみたいだね」
「……何でそんなこともう知れ渡って……」
「あれでしょ? 梨人が英検とか漢検とか頑張ってるのって、恋に告るためだって愁から聞いた」
「ああ、あの彼女持ちのクソオタクさんですか」
僕がそう言って髪の毛をいじろうとした時、メールが届いているのがわかった。
『クソオタクとはなんだ?』
怖くね!? 一応、愁の家は僕の家と近いところにある。梨人もそうだ。 しかし、恋の家のように、そこまで近いってわけでもない。むしろ結構遠いほうだと思う。
そして、何故そんなところにいる愁からメールが届くのか、ある意味の恐怖。
『盗聴器は本当に役立つな』
と、もう一発愁からメールが届いた。……って、盗聴器!?
「おいてめえっ、人の家になんてものを……」
愁に僕は電話を掛け、そう怒鳴りつけた。すると……。
『カメラもついてる。だから、お前の家に恋とかが来たら裸見れるし。まあ、エリザちゃんのほうが俺の好みだけどな。おっぱいは正義だ!』
「はあ……」
『一応恋の部屋には仕掛けてない。お前の部屋のほうがやりやすいしな』
「うっわひっでえ」
『……まあ、そういうもんだ。じゃあ、ばーい』
「ばーい……じゃねえっ!」
切られた。……切られた。
「なんだったの?」
「何か、僕の部屋にカメラが……もとい、盗聴器が……」
「えええっ!?」
一番驚いているのはエリザだった。そりゃそうか。自分の部屋に盗聴器が付けられていたら、次に疑うのはカメラの有無だろう。カメラが仮にあったとすれば、そこに自分の裸の映像が写っていることになる。
「……あ、あ、ああっ!」
「どうした?」
「……カメラあああっ!」
「流石にねえだろ。まあでも、あれかな。愁は彼女居るのにそういう事してるし、ちょっと制裁加えてもいっか。……あいつは胸のでかいほうが好きらしいから、ちょっとやってみれば?」
「例えば?」
「愁の家に行ってくるとか」
「それ、彼女さんとかに見つかったらアウトだよね」
「じゃあやめるわ。……ってわけなら、明日やるしかないね」
「だな。……学校で制裁を加えよう。じゃ、御飯作るぞ」
「恋は?」
「終わったら呼べ。まあ、今日は僕が料理作りたい気分なんでね。集中力切らしたくないから、僕のスマホから恋に送っておいてくれ。その旨のこと」
「胸?」
「違うから!断じて違うからっ!」
そんなことを話した後、僕はそのまま部屋を出て、階段を降り、台所まで向かって準備を始めた。……まあ、飯作ってる時にゲームされると結構目障りだけどさ、耐えるしか無いよね。
「……よーし、じゃあゲームをしようか、会長さんっ!」
「別にいいよ。ボクの事は普通に『里奈』って呼びなよ」
「おっけー。じゃあ、ゲームのキャラネームは里奈だね」
「は、早くない!?」
「いいのいいの。可愛い妹のためにやらなきゃ」
確かに会長よりエリザのほうが年上か。誕生日は2月と11月だからな、それぞれ。
「てなわけで、ゲームスタート!」
「コントローラー二つ持ちとかずる……つか、早く貸してって、あああああっ!?」
「やったぜ。」
「ふっざけんなああっ!」
エリザは会長の操作するはずのキャラを操作し、自爆させた。そしてその後、軽々と制限時間内にダンジョンをクリアし、自分だけ喜んでいた。姉として、それは有るまじきことなのかはわからんが、取り敢えずいいか。会長が傷つかなければ、それでいい。傷ついたらなら、謝ればいいし。
「さてと。僕は僕で、適当に作りますかね。……何食べる?」
「カレー!」
エリザがそう言った後、くるりとコントローラーを持って振り返った。
「時間かかるから却下」
「シチュー!」
会長がそういった後、くるりとコントローラーを持って振り返った。
「おめーもだ!」
「むう」
「まあでもいっか。じゃあ、ゲームして買った方の言い分を聞くよ。カレーかシチューか、よーい、どん! …あ、他人のコントローラー使うとかすんなよ」
「はーい」
「じゃあ、スタート!」
僕がそう言うと、二人は真剣にやり始めた。全ては自分の食べたいメニューを作ってもらうために。
「まあ、結局どっちもブロッコリー、人参、じゃがいも、玉ねぎを使うし、先に調理しておいて問題はないか」
まずは玉ねぎを切った。涙目になるから、先に切って後で痛い目に遭うのは避けようという作戦だ。
***
結局、会長が勝利した。倍返し、というわけかな? さっき負けてたし、自爆させ『られていた』し。
ということで、12月9日の夕飯は、シチューになった。
そして、後々会長に聞いた話では、悪魔となっていたのももう終わり、普通の魔力に戻っていた。まあ、会長を自分の支配下におけるという、有る一種の快感をもっと味わいたかったのは確かなんだが、相手の気持ちを思いやらない虐めなんて、快楽じゃないし、これで良かったんだと僕は思いつつ、一日に幕を閉じた。
「おやすみ」




