Target:Rina,Elisa and Ren./episode92
トントン、トントン、と、朝起きた時、まな板を叩く包丁の音が僕の耳元に聞こえてきた。外は明るくなってきて……居なかった。今日の天気は雨、だった。
と言っても、包丁が近くにあるなんて怖いので、僕は状況確認を急いだ。
「……なんだ、会長か」
「やあ。……まあ、皆まだ寝てるからね」
「何時ですか、今」
「5時半だ。……お分かりの通り、今日は雨だ」
「あの」
「ん?」
「料理人さんって……」
「風邪ひきやがった」
「えっ……」
「まあ、代わりの人が居ないから、私が代理で今ご飯作ってる。まあ、恋に頼んで一緒に作るのも有りだったんだけど、恐らくボクと恋じゃ作り方も違うだろうしね」
会長今『ボク』って一人称名乗ったな。……ああ、確かに周りには誰もいないや。僕以外、誰一人として。
「どうした?」
「いや」
「まあ、デビルマシンのお陰で、君の話は全て聞こえているんだけどね」
「じ、人権侵害だああああっ!」
「ボクはそんなに酷い人間じゃないから安心しようか?」
「ま、前に僕のことを殺しにかかったじゃないですか……」
「馬鹿か。あれは『テスト』だ」
「どんな?」
「君がその、ボクの秘密を話す相手に相応しいか、それとも相応しくないか」
……あれで何を試していたんだ? いや、割とマジであの時怖かったぞ、会長。二重人格かと思ったもん。マドレーヌがそうだったように、もしかするとその人格は遺伝なのかもしれない。ただ、会長は基本『おおらか』というか、前までぼっちだったとしても、会長は非常に人のことを大切にする人だと僕は少なくとも思う。
あと、何気にシモネタ系も、エロトークも、最近では許してくれてるし。
「……あの、凛君? ボクの事を恰も『変態』みたいに言わないでくれるかな?」
「僕は会長は変態だと思ってませんよ?」
「心の中の事、聞こえてるんですが……」
「い、言ってはいないじゃないですか……」
「でも、考えたね?」
「はい」
「素直でよろしい。……まあ、確かにボクはまあ、エロトークとかも最近は好きになってきてるんだよね。あ、変な意味は無いぞ?」
「これは会長の部屋漁ると、エロ本出ますねえ……」
「やめなさい」
「……はい」
会長にはやっぱり逆らえないのが副会長という役職である。まあ、僕は前から生徒会長とかいう役職になる気はなかったし、この『生徒会副会長』が僕に一番あっているんじゃないか、と最近……もとい仕事はじめて数ヶ月で分かった気がする。
でも、やっぱり会長には逆らえないんだよな。僕だって、高校入学時は成績は中の下程度。愁や梨人同様、中学時代はギャルゲーに浸りまくった感じだった。けど、何か感じた。一人ぼっちで、部屋の片隅でカキカキとノートの上でシャープペンシルを走らせる会長を見て。
あとは……親の影響か。今は親は亡くなったけれど、親も結構言ってたな。『中の下じゃなくて、せめて上の下を目指しなさい』みたいなことを。……当然、僕みたいにゲーマー(というか廃人)にまでなると、そんなの聞いてられっかって話なんだけどさ。
「……さ、さてと。一応こんな感じかな?」
「何作ったんですか?」
「いや、普通の朝飯だぞ」
と言って会長が見せたのは、『これ夕食じゃね?』と思うくらい豪華なメニューだった。ハンバーグは勿論、オムライス、そしてワンタンスープ。……完全に夕飯じゃないですか、これ。朝は普通、パンにスクランブルエッグとか、ご飯にふりかけとか、シンプルなやつでいいだろ常考……。
料理人さんが作っているわけであるまいし、もっとシンプルでいいんじゃないかと思うのだが、僕が作ったわけではないし、文句を言ったところでどうなるって話だろう。
「それでだな」
「なんですか?」
「生徒会長選挙、12月12日の予定になった」
「ああ、そういや昨日し忘れましたね」
「……あの後宇城先生に電話したら、めちゃくちゃ怒られたんだよね」
「マジっすか」
「うん、割とマジで。……だからきっと、宇城先生キレてると思う」
「どうしよ……」
「まあ、ボクがいるから心配はないぞ」
「……信用出来ねえ」
嘘だが。
「嘘かい!」
ああそうだ。聞こえてるんだった。
「んじゃ、私は仮眠取りますんで、6時半になったら起こして」
「えっ、ちょ……」
会長は近くのソファに横たわり、エプロンを着崩し、整えているんであろう髪の毛を少々崩し、身体を横にして眠りについた。
「どうしてもつまみ食いしたくなるのが本能だよな」
独り言を呟いた。……が、聞かれていた。
「ダーリン朝早いね。……って、会長が寝てる!? しかも、エプロンそんなに着崩し……まさか!」
「ん?」
「……夜の営み、そんなにしたの?」
「お前の質問はなんでいっつもそういうのばっかなんだゴルア!」
「いや、だって、ダーリンが……」
「僕が何をしたっていうんだ……。会長はただ、朝ごはんを作ってくれただけ……って、お前つまみ食いすんのかよ!?」
「ダーリンが言ったんじゃんか。『つまみ食いしたくなるのが本能』って」
「……墓穴を掘ったな」
「んまあ、朝からドンマイ!」
「笑顔で言うな! そして食べ物をつまみながら言うな!」
「そーりー」
しっかし、テンションたけえなこいつ。バンドが終わったから、文化祭実行委員会の仕事が終わったから、こうやって笑顔でいられるんだろうな。……こちとらこれから生徒会長選挙の仕事があるというのに。
「……よし」
「どうした、エリザ?」
「ダーリンも手伝え」
「え? 何を?」
「……会長の身体を弄ってあげる」
「昨日やられたから……か」
「やー」
「やー?」
「ドイツ語で、『はい』とか『うん』って意味」
そうだったな。この女の子、爆乳のくせに外国人で、日本語が流暢で、英語と日本語、それに母国語のドイツ語の3ヶ国語を話せるバイリンガルでしたな。……これあれだな。某動画サイトで『説明乙』って書かれて、語尾に『w』つけられるパターンだな。
「いや、別に英語でも『Yeah』って有るじゃんか」
「まあ、あるけど……」
「んでんで、ダーリンって大学の第二外国語、何を習う気なの?」
「……ドイツ語、か」
「……いや、別にそうじゃなくてもよくね?」
「仮にお前が僕と同じ大学に入ったら、ドイツ語習うわ。……まあ、お前から見れば『こんなの楽勝』って感じなんだろうけどさ」
「いやいや、そうじゃないんだよ、これが」
「そういうもんなの?」
「だって、私だって最初は日本語見た時、吐きそうになったもん」
「マジっすか」
「うん。……でも、習ってたら覚えてた」
「すげーなそれ」
「まあ、英語は書体が似てるから、結構覚えやすかった」
だよなあ。やっぱり英語と日本語じゃ作り違うし、当然ドイツ語と日本語でも作りは違う。だって、どっちも前者はアルファベットだもんな。主体となっているのは。発音や、書体が少々違うとはいえ、覚えやすいだろ。だって、日本人が英語覚える時だってそうだけど、似てないもんな。書体も、発音も。対して中国語を見てみよう。……漢字は日本語と共通している。だから、あっちは音読み単独とはいえ、漢字を使っているので、結構親しみやすい。というか、平仮名だけが日本語じゃねえしな。
ああ、別に僕は中国を好きな訳じゃないです、はい。尖閣問題とか、そういうのがあるので、そっち系じゃない事を言ってるだけです。
「……ああ、そういえば」
「ん?」
「日本人が英語覚えにくいのは、片仮名で覚えるからだって知ってた?」
「ああ」
そうそう、これ。どっかで聞いたこと有るんだが、何処が初出だったかな? でも、これは一理あると思う。英文字の発音を覚えなきゃ、文章の正確な発音はできないし、まず発音自体が日本語と大違いなので、片仮名で覚えるのは間違いだろ……。ただ、覚えやすいのは事実だけど。
「身近で言えば……パンか」
「ああ、パンね」
……って、これいつから学習用小説になったんですか?
「コーヒーとかパンとかいっても海外じゃ通じないし」
「そうらしいな」
「私には通じますが」
「お前僕を皮肉ってんのか。それともバイリンガルだから自慢してんのか」
「違うわ!」
「そっ」
まあ、そんな会話をしていると、やっぱり来た。恋さんのご登場だ。唯一、僕が揉ませてもらったお方の登場だ。
「……ジロジロ見るな変態」
『あ、見てた?』と思ったところでもう遅い。というか、何で女ってそんなに敏感なの? 深い意味の方じゃないけど、何でそんなに目線に敏感なの?
「……で、エリザ」
恋の言ったことを僕は無視した。
「ん?」
「会長の胸を揉むのか?」
「うん。仕返しするからね」
「……うわあ」
僕がそういう反応を示すと、さっき僕にギロっという視線を向けてきた恋が、僕のすぐ近くに来ていった。
「……昨日はその、何で揉んだの?」
怒ってるよな、これ。……ってか、会話の内容と沿ってなくね? 恋はあれかな。話を逸らしたいのかな? ……それとも、自分だけを見つめろ、みたいなそういう話でしょうかね?
「そりゃあ、お前をヤンデレ化させないために決まってんじゃん」
「いや、別にいいじゃん。ヤンデレ幼馴染なんて普通だろ」
ということはエリザもヤンデレ幼馴染になるんですがそれは……。
「それこそ、高らかに言えばいいのにね、『お前をヤンデレにしてやるから、俺のエロゲーを買い取ってくれ』って」
「ふざけんな! 僕の扱い酷すぎだろ! 何で人をヤンデレにしておいてエロゲ買い取られなきゃいけないの? 馬鹿なの? つかありそうなタイトルだなおい!」
まあ、現実あるライトノベルのタイトルをモジッただけなんですがね……。
「あと、Windows_XPっていう名のファイルも追加で」
「ふざけんな! お前は僕のことを支配するために何をする気だ!」
「ふふ。凛の部屋に入り、勝手にエロゲを持ちだして自分で思う存分楽しむことが趣味の私に隙はない。……さあ、エロゲを提供せよ」
「……嫌です」
きっぱりと断った。……割りとガチで。こんな奴をツンデレからヤンデレに変え、かつエロゲまで奪われるとか、そんなエンディングは嫌に決まってる。……全く、『人生はゲーム』そして『小説』なんだから、奪われたらたまったもんじゃないだろ。僕みたいな奴は特にな。
「……じゃあ、エリザ」
「なに?」
「会長に、仕返ししよっか」
「さんせー!」
「ま、人の願いを聞いてくれない凛には、『おっぱいモミモミ権』はいらないよねーあはは」
やめろ、その『童貞が許されるのは小学生までだよね~(笑)』的なやつ!
「……よし、触ろう」
「うん!」
何なのこれ。いや、僕も男だから、触りたいわけよ、うん。恋よりも、エリザよりも会長のバストサイズが小さいのは知ってる。でも、それなりの戦闘力あるし、触ってみたいでしょ、普通。……で、それを拒まれたんだよ、幼馴染に。まあ、彼女の胸を昨日触ったので、その弱みを使えば……。
「よし、んじゃ僕も触る」
「会長さんの足掴んどけ、お前は」
「えっ……」
「私にエロゲを買い取ってもらうことを了承しなければ、触らせない」
「誰がお前にエロゲなんて……」
恋が突如としてニヤニヤとしだす。
「可哀想だねえ、凛」
「え?」
「触りたいのに触れない、焦らしプレイ……」
楽しんでる。絶対こいつ、僕が今こうやっているの楽しんでる!
「……ふっ、残念だが僕は焦らしなんてどうでもいいんだ。……分かった。足を掴んでいるよ。僕は拘束担当で構わない」
「そ。んじゃ、分担してスタートだ!」
恋のテンションが結構上がってきたところで、皆息を合わせて「おう!」といったあと、僕らは会長の胸を触るという作戦に出た。……てか、寝てる女の子抑えて、幼馴染に胸触らせてる僕って、どんだけ最低な人間だよ……。
「ちょっ、ばっ……」
「ジタバタしても無駄ですよ、会長」
「こっ、ひゃぁぅっ……。き、昨日の仕返しと……かぁっ……んっ!?」
「そうです」
「だっ、かっ、らぁっへ、寝てる時を狙うことはなっ……んっ!」
会長の顔が赤く染まっていき、でも足をバタバタしようにも僕に拘束された状況の中、僕は会長の脇腹に手を差し伸べ、そこでこちょこちょを開始した。
「ほんとっ……だめだっ……つっ……やっ……まっ……ああっ!?」
会長が足を広げようとした時、履いていたスカートが揺れ、ちらりと見えた。何が見えたかは当然、紳士諸君なら分かってくれるはずだ。そう、パンツだ。……結構際どいパンツ穿いてるんだな、会長。
あ、やべ、この心の声聞かれて……
***
「――凛君。ちょっと来い」
恋とエリザが会長への胸揉み攻撃を終了させた後、僕は会長に呼び出しを食らった。殴られるのかな? と、少し不安になった僕は、心を落ち着かせつつ、会長の後を追って歩いて行った。
そして、廊下で壁に僕の背中が叩きつけられた後、会長は口を開いていった。
「……恥ずかしいだろ」
「き、聞こえてました?」
「デビルマシン入ってただろ。……もうやだ、死にたい」
「大丈夫です。会長は死にません。それに、見えたのは僕だけにですし……」
「言いふらさない?」
「言いふらすわけ無いじゃないですか!」
「じゃっ、じゃあ、その、揉んでいいぞ」
「はい?」
「……あ、証にどうぞ。で、でも10秒だけ。……ね?」
これまた酷いことを言いやがって。でも、拒否なんかしませんけどね。
会長が『証』とかいうので、僕は一応揉んでおいた。そして、この時の顔を真っ赤に染め、目を瞑り、僕に身を任せてくれた会長の姿は、とてつもなくエロ可愛かった。
そして今週一週間が幕を開けたのだった。




