Target:My band members. ~Busy Friday. /episode82
朝飯は『流石お嬢様の豪邸の料理』という感じではなく、純和風の料理だった。まあ、僕が会長の家庭を評価するのもおかしいのだけれど、一応料理は美味しかった。お世辞ではなく、普通に美味しかったのだ。
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朝5時40分。皆支度を終え、眠気覚ましに咲希さんから一人500mlのコーヒーをもらい、それを飲み干した。流石お嬢様と言えるのかどうかはわからないけど、5人へコーヒーを提供できるのは結構凄いと思った。それも別々の缶でだ。
さて今日は、毎年恒例となっている文化祭二日前の最終調整日である。全体練習等は一切行わないものの、一応発表する部活ごとに、午前午後、各2回の発表する時間が設けられている。僕ら、生徒会×帰宅部の即席バンドは、午前は11時半ごろの最終、午後は16時ごろの最終から3番目の練習時間をもらえた。
基本的に、この最終調整日での発表練習は、最大延長45分、基本25分の区切りで行われている。ただ、延長をした場合、自分たちの昼飯や後に続く部活動が昼飯を取る時間が遅れるだけであり、それをした場合にはある意味の『ブラックリスト入り』をしてしまうので、毎年1年生にやらかす人が多いが、今年は零奈が各クラスに呼びかけてくれたので、そういう事はなさそうだ。
ただ、今日は金曜日であるため、僕と会長は生徒会の仕事があった。それに、恋とエリザも文化祭実行委員会の仕事があったため、結局僕らは一緒に登校することになった。ただ、生徒会の活動は朝の校門前での挨拶であり、これは朝の7時半からなので、それまで結構時間が有るのは確かだ。図書室に行ってもいいのだが、つい昨日行ったばかりなので中々行く気に慣れず、それなら練習しておいた方がいい、という理由で、僕と会長は朝の7時半(厳密には10分前)まで、練習時間ということになった。
「お嬢様。御車のご用意が出来ましたので、どうぞご乗車ください」
「はーい。……じゃあ、乗るよー」
会長の声とともに、皆車に乗り込んだ。
***
学校についた時、朝の5時59分だった。あともう一分で6時じゃねえか、と思ったのだが、車から降りた途端に時刻は6時を回った。それは車のラジオからの音で分かったのだが、その音量は尋常じゃないほどだったので、皆それにびっくりしていた。僕は笑っていたけど。
「んじゃ、私とエリザは実行委員会の仕事してくるねー」
「おう。……で、お前らはこんな早くから一体何を?」
「実行委員会の仕事って言っただろうが。……まあ、もっと詳しく言うと、文化祭当日に体育館のステージの今生徒会目標が掲げてある所あるじゃん?」
「あるな」
「あそこに飾るでかい文化祭スローガンと」
「お前の胸もでかいけどな」
「……余計なお世話だ」
「悪い」
僕がそう謝った時、恋の隣に居たエリザが恋の胸を揉みしだいた。
「んあっ!」
「ダーリンを誘惑して、このこのっ!」
「んっ、やめっ、ひゃうっ!」
今更ながら、恋はいつもより胸が大きかった。恐らく、いつも着用しているパッドを外したんだろう。……にしても、デカイな。
「ジロジロみるな」
「悪い」
「……はあ。こんなやつとバンドなんて、本番上手くいくの?」
「聞き捨てならないな、恋君」
「私は男じゃない、やり直し」
「うるさい」
「じゃあ私からも、うるさい」
「ぐぬぬ……」
「ぬぬぬ……」
「ふんっ!」
ほら、結局こうなる。
まあでも、こういうことを前にも味わったことがあるので、何となく笑って過ごした。別に僕も恋も、本当に「うるさい」と思っているわけじゃない。「それは言うんじゃねえよ」的な意味で、まあその、ネタだ。簡潔に言うと。
恋とエリザと別れ、僕は会長とともに音楽室へと向かった。朝6時の学校の電気はついている所とついていないところがあり、その差は激しかった。
「雨、降ってきましたね」
「凛君って雨男?」
「んな訳ないじゃないですか」
「だよな。……これじゃあまたテント設営大変だなあ」
「今年って、やっぱり外で……」
「当然だろう。去年は生徒会が『中でやる』って言ったから体育館でしたけど、今年は基本『外』だ。まあ、雨が降ったら中だけどさ」
「中とか外とか意味深な言葉言わないでください」
「……そういう事言うから、凛君は恋に『うるさい』と言われるんだろう」
「悪かったですね、会長」
「なんだその態度。会長に対してその態度とは……」
「年齢では僕より下ですよね?」
「なっ……」
「ふっ……」
「ぐぬぬ……」
「ぬぬぬ……」
「ふんっ」
またかよ。もういいよ、と思うと、ちょこっと笑みが浮かんできた。ただ、何度も何度もネタを繰り返していると、後々飽きてきちゃうからやめておこう。
「下らないですよね、本当」
「確かにね。……ただ、こういうことが出来るのもあと4ヶ月なんだよ」
出席日数的にも、成績的にも、僕も会長も留年することはないだろう。だから、その『4ヶ月』という話は覆らない。愁や梨人……まあ、後者は最近資格を取り始めているから大丈夫だろうし、テストの時も僕に教えてと頼んできたのでいいのだが、やっぱり前者は『留年』するんじゃないかと心配だな。だから、前者には、『4ヶ月』という話を覆せるのか見させてもらいたいものだ。
「……暗い話は良くないね。よし、練習するよ!」
会長が明るく僕に接してきてくれた。こういう事があるから、会長は面白い人だとつくづく思う。
僕はイブリースを召喚して、3人でのバンド練習を始めた。
***
生徒会の仕事を終え、恋とエリザも文化祭実行委員会の仕事を終え、5人が音楽室へ集まった。と同時に、「バンドの演奏を見せてほしい」と言って、軽々しい気持ちで宇城先生が音楽室に入ってきた。
「やりますか」
「だな」
いつも世話になっている先生なので、中々「やらない」という選択肢は浮かんでこなかった。やっぱり、ここは「やる」一択だよな。2曲目はまだ途中までしか完成していないけど、1曲目は完成しているし、最後まで演奏することは不可能じゃない。間違えないでいけるは100%じゃないけれど、それでも本番同様、全力で行くべきである。本番だけ本気出すより、練習から本気で行ったほうがいいだろう。
「じゃあ、エリザ。お前がまとめろ」
「えー。やっぱりバンドはドラムが……」
「お前がまとめろ。お前ボーカルだろ」
「むう。……ダーリンの言うことなら仕方ないなあ。……えとじゃあ、その、聞いていただけますか?」
宇城先生は「ああ」とだけ言って、近くの椅子に座った。そして、手を机について、咳払いをし、僕らの方に視線をぶつけてきた。
「……やろうか、エリザ」
「だね」
そうして、僕らの演奏は始まった。
***
「いいね」
宇城先生からの感想はその一言だけだった。お世辞というわけでもなく、ただただそう言うだけだった。過剰な反応を見せるわけでもなく、ただただそう言うだけだった。
「……1曲だけしか演奏しないのか?」
「いや、今のところ2曲……」
僕が答えようとした時、会長が僕の声を自らの大声で包み込んだ。
「3曲、演奏します」
「無茶だ、そんなの」
「何故、ですか?」
「まだ2曲目が完成していないのに3曲目なんて無理に決まってる。お前らは『天才バンド』なのか? 確かに学力は優秀だ。凛と里奈はいい役職についてる。エリザも恋も、文化祭実行委員会でいい役職についてる。知ってる。でも、お前らあと1日、正確には2日だけど、その期間で2曲目を完成させて、3曲目を完成させられるのか?」
「……」
「無理じゃないか。考えてみろ。ろくにスケジュールも立てていない、そんな状態で演奏できるというのか? 練習がスムーズに行くと思うのか? もうあと1日だ。こんなところで私がお前らに意見を述べたところでどうこうするわけではない。ただ、演奏は上手だった。だが、お前らの計画はあまりにも甘え過ぎだ。妄想しすぎだ。現実はそんなんじゃない」
宇城先生はそう言い残し、咳払いをして音楽室を出て行った。
スケジュールを立てていなかったから、僕らは色々と言われた。だが、僕はそういうのも嫌というわけではなかった。無計画なことでも、やっぱりそれをやりきった時に感じる感動は計画してやった時と同じ、いやそれ以上だからだ。ただ、それなりに大変な練習となるけれど。
***
12時。やっぱり、1年生がやらかしたようで、45分延長したとことがあるらしい。だから、終わりは12時半ということになった。だから、いつもの昼ごはんの時間と同じ時間になった。
本番同様の衣装は着なかった。体育館は寒い。音楽室では着れていても、暖房の効いていない体育館じゃ、やっぱり着づらい。まず、寒いっていうのが一つ有る。そして、寒い以上に嫌なことが有った。それは、実行委員会の仲間に知られてしまうという事だ。
特に、メイド服を着るエリザはやばい。……でも裏からみれば、それって結構宣伝につながるし、それこそESSなる親衛隊も有るわけだから、いいんじゃね? まあ、どう考えるかは本人に任せよう。僕がいくら言及したところで、変わる問題じゃない。このバンドの指揮は会長、そして演奏指揮はエリザだ。指揮棒は振らなくとも、ボーカルは基本的に指揮担当だろう。
まあ、一番恥ずかしいのはイブリースだろうな。魔法少女姿だし。当然、色々と見えるわけだしな。へそとか、上乳とか、スカートだからパンチラがあるかもしれない。……うん、ズボン履いてもらおう。
演奏中、ずっとそんなことを考えていた。変な本能が動くことはなかったけれど、色々と自分なりに妄想を膨らましていたのはキモかった。自分で言うのも何なんだけれどね。
***
12時35分。結局、35分間に延長してもらった。自分たちが「やらかした」とか言って一年生をバカにしているくせに、結局は自分たちがやらかしてしまってはどうにもならない。……まあ、その影響で、当初の予定は結構狂った。基本、25分ごとだったので、確かに延長予定として45分までと言っていたが、流石に45分がここまで響くとは僕らも思っていなかったので意外だった。
「去年は35分だったからなあ……」
音楽室に戻る途中、僕と会長はその件に関して、やっぱり昨年通りにすべきだったと後悔していた。そう。今年、初めて『最大45分』としたのだ。例年は35分だったのを45分に。
だがそれは、ある意味の実験だった。だから、来年に役立ててほしいものだ。
「……お前ら」
音楽室に戻った時、宇城先生が机に座って待っていた。宇城先生の前の机には、ビニール袋に入っているケーキの箱が見て取れた。
「西條のメイドからの差し入れだ。……私も食べていいか?」
「だめです」
「だよな。……ああ、そうだ」
「何ですか?」
「……よくやったな。たった4時間で、良くあそこまで完成させたな」
「いやいや、2曲目が完成したのは奇跡ですよ……」
「とか言って、本当は『マジ普通』とか思ってるんだろ」
「そんな裏表の有る人間じゃないですよ、僕は」
「じゃあ里奈はどうなんだ?」
「無いでしょ、裏表」
「恋は?」
「無いと思います」
「他二人は?」
「まとめるんですか……」
「名前が片仮名だからな」
「差別だ、それ差別だ……」
「早くしろ」
「まあ、無いですよ、裏表なんて」
「じゃあ、その4人の中から誰か一人選んで、言わせろ。『宇城先生は裏表の無い素敵な人です』ってね。そう言ってくれたら、それはとっても嬉しいなって……」
「名言のオンパレードやめてください。ちょぴっとイジられてるとこありますけど、読者をググらせようとするのやめてください、先生」
「そういう人間だ、私は」
「そんな人間に注意されたことを真に受けるんじゃなかった……」
「何を言ってるんだお前は。……まあ、あれだ。確かに計画なしでやるのも楽しいが、一応文化祭は学校行事なわけだ。テストを計画的にするのと同じように、計画してやるべきだろう?」
「僕、テストなんて計画してやってませんよ?」
「え?」
先生が目を大きくした。相当驚いているらしい。
「僕、基本的にゲームしかしてないです」
「……それで、学年一位?」
「はい」
「……そんなんチートや! チーターや!」
「先生、いくらアニオタだからってそうやって名言のオンパレードにするのやめてください。貴方、ヒロインじゃないのに目立とうとしないでください」
「は、どうせ私は脇役ですよ。彼氏もできない脇役ですよ。それに比べてお前は、選り取りみどり色んな幼馴染と女の子と一緒に居て、羨ましい限りだ全く」
「先生、合コン行かないんですか?」
「そんなの職業柄のせいで行けるわけ無いだろう」
「アニオタなら、普通にオフ会とか行けばいいのに」
「コミケは行ってるけど?」
「じゃあそこでキモオタにでも連れて行かれればいいのに」
「今さらっとお前言ったな?」
「……?」
「今のその言葉、お前の本心だな?」
「いえ、なんでも……」
「ならケーキはお預けだ。お前にも罰ゲームを与えよう。さあ言え。『宇城先生は裏表のない素敵な人です』と」
「だからやめ……」
「あとは他に一人、私に言えばくれてやる」
「教師の言うことなんですかね、それ」
「生徒に反論される筋合いはない。さあ、早く言え」
「はいはい。……じゃあ、エリザ」
「ダーリンの言うことなら何でも聞くからって私を選んでくれた……えへへ」
「おい、そこでニヤけるな。あと、変なコト言うな」
「変?」
「変じゃない。お前の『格好』を変と言っているわけじゃない」
「良かった」
「じゃあ、言うか。まず僕から……」
適当に、その場に土下座して言ってみた。
「宇城先生は、裏表のない素敵な人です」
続けて、エリザにも僕は言わせた。土下座させてな。
だが、宇城先生には効果覿面だった。
「よし、これをくれよう。ただし、エリザちゃんを私に貸してもらうぞ」
「貴方はそういう人だから彼氏ができないんですよ」
「聞き捨てならないな」
「忘れてください」
「いいだろう。さて、じゃあ私はこのエリザを可愛がるとするかな」
「はあ……」
一応ケーキが手に入った。ああ、エリザ……。ムチャシヤガッテ……。
まあ一応、昼飯前に宇城先生が職員室に戻るときにエリザは開放されたんだけれど、やっぱりエリザはエリザでちょっと「怖かった」らしい。でも、レイプされた時ほどではないという。
ケーキをちょこっと食べ、昼飯を食べ……。僕らは昼からの練習への活力を蓄えるため、色々と笑いを交えながら昼飯を食べ進めていった。




