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Future  作者: 浅咲夏茶
6th Chapter;Band members and culture festival.
76/127

Target:Elisa,Iblis and Ren./episode75

 夕方4時半。ホームルームが終わり、僕は生徒会室に向かった。と言っても、会長は居なかった。休んだのだ。1限の終わりに会長に電話を掛けてみたのだが、普通に咳を出し、熱を出していて、とてもじゃないけど学校に行ける感じではなかった様子が伺えたのが印象に残っている。

 零奈は、1学年唯一の生徒会役員として、1学年全体の総指揮をしている。同じく、英洙も2学年全体の総指揮を行っているが、2学年になってくると、文化祭実行委員会の権限が強くなってくるので、文化祭実行委員会とも協力して総指揮をとっている。

「一人ぼっちっていうのもな……」

 誰もいない生徒会室。ただただ、窓から机に夕陽が照りつけている光景は、何処かこう、心に何かを訴えかけてきている感じがした。

「凛」

「恋か。なんだ?」

 ドアを開け、生徒会室の中へ恋が入ってきた。

「――6時まで、延長させてくれませんか?」

「お前も敬語使えるのな」

「……凛は私をなんだと思ってる?」

「ただの暴力ツンデレラとしか……」

「それは誤解だ。第一、何故私がツンデレなんだ?」

「だってお前そういう立ち位置……」

「勝手にお前がそう考えているだけなんじゃないか?」

「そうかもな。……てか、お前『文化祭実行委員会』に在籍してんだろ? 委員長だっけか? それなら別に僕に聞きにくる必要なんて無いんじゃ……」

「た、確かに文化祭実行委員会の委員長だけど、あ、朝のこともあったから、ちゃんとお前に謝んないといけないって思って……」

「そう。僕は別に謝られなくても大丈夫だ。あれくらいで傷つきはしねえよ。むしろ、お前のそういう一面を見れてよかった」

「そ、そういう一面って何だ……?」

 自分で考えればいいのに。なんで人に答えを求めるのか……。まあ、要はあれだ。『誰かを自分一人のものにしたい、という独占欲が強い』という事だ。弁当の件は、恐らく昼には『自分で渡すから』的なことを、『半分やる』みたいなことを考えていたんじゃないか、と僕は思う。

 まあ、そんなことを考えながらも、その考えが外れていた時の恥ずかしさについても考えておかないと、心に記しておかないと、大変なことになるんだけどな。

「まあ、勝手にどうぞ。6時だろ?」

「う、うん」

「じゃあ勝手にどうぞ。……ああ、お前今日練習は?」

「練習は行くから心配しないで! ……あと、エリザ行かせてるから、あんたも早く音楽室行きなさいよ? 寒い部屋に待たせるとか、最低だぞ」

「おうよ。……んじゃ、そういう訳で」

「じゃ」

 先に恋を追い出す形で生徒会室から出す。その後、生徒会室の戸を閉め、そして鍵をかけて僕は音楽室へと向かった。

 僕の高校の生徒会室は基本的に、教師、生徒会長、生徒会副会長以外、鍵を使って開けることが出来ないようになっている。その為、僕と会長の生徒側には、『合鍵』のような鍵が12月の選挙後に渡される。とはいえ、4月までその鍵を使えないのが玉に瑕だ。

 その鍵を僕はズボンの右のポケットにしまって、音楽室へと歩き出した。


 ***


 音楽室のドアを開ける。特に合鍵とかは持っていないけど、音楽室のドアは開いていた。担当の教師も、もう職員室に戻っていて姿はなく、ただただ部屋の中央にエリザの姿があった。縦7、横7の机の配列と、椅子の配列の真ん中。その場所に、エリザは座って寝ていた。

「……ベースの準備、しないとな」

 音楽準備室のドアも開ける。そして、ベースを見つけ、ギターを見つけ、魔力を開放してイブリースを召喚する。……と言っても、合わせることも出来ないんだけどな。会長が居ないし、エリザは寝てるし、恋は仕事だし。

「しかし寒いな」

「女子制服はスカートですから、男子は羨ましいものですよ?」

「寒いか、やっぱ」

「はい。……なんで暖房止めてるんですかね、準備室」

「前は付けてたのにな。僕らが使ってるからとか?」

「それもありえますね。……まあ、早く練習しましょう。早く終わらせたいです」

「いつも3時間近く練習しているくせに」

「そりゃあそうなんですけどね。でもご主人様も、もうすっかり上達しておられるわけですし、もう3時間の練習は要らないんじゃないですかね?」

「合わせて終わり、か。……まあまだ文化祭まで時間はあるわけだし、たった4日で完成させろ、とかいう無理難題だって会長から出されるかもしれないわけだし。そう考えてみると、やっぱり時間は必要かな」

「左様ですか」

「ああ。……まあ、ベースとギターでも合わせるくらいできるし、やるか」

「CDは……」

「エリザにアカペラで歌ってもらえばいいじゃんか」

「寝てますけど……」

「大丈夫だ。あいつは人に起こされて起こる人間じゃない」

「じゃあ、いいですかね」

「ああ。やるぞ」

 イブリースにそう言うと、僕とイブリースは寒い音楽準備室を抜け、音楽室へと戻ってきた。やっぱり暖房の効いている部屋と効いていない部屋は大違いである。それは身にしみて感じると、本当に違うものだと再確認した。

「エリザ、起きろ」

 と、僕はエリザの耳元でささやく。いかにも、周りから見れば『リア充爆発しろ』だの、『カップル死ね』だの言われるような感じのことをしているということになってしまうので、ちょっと僕も躊躇ためらっていた気持ちもあったのだが、そういう訳でエリザを起こさないのもどうかと思い、結局こうして起こすことにした。

「――起きろや」

 起きない。熟睡しているのか? 身体がぴくぴくと動いているし、ちゃんと息も聞こえてきているから死んでいるわけでないことは確かだ。だが、本当に死んでいないのか心配になるくらい反応がないので、確認のために背筋に人差し指をはしらせた。

「ひゃあっ!」

 飛び起きたエリザ。目にはうっすら涙があった。泣かせてしまったのか? それなら悪かった。全力で謝る。許してくれ、エリザ。……済まない。

「――起きてたのか?」

「うん」

「……じゃあなんであんな真似を?」

「何かしてくると思ったから」

「……ということは、僕はお前の思惑にまんまとはめられた、というわけか」

「ドンマイ」

「ちっ」

 Vサインをするんじゃない、エリザ。なんでそんな挑発してくるんだ。

「まあ、ともかく合わせようぜ。話はそれからだ」

「何そのちょっと格好良い感じの言い方」

「格好良い、とかいちいち言うな!」

「そう。……じゃ、早く合わせようか」

 そう言うと、エリザは机の下からマイクを取り出した。

「そこは四次元ポケットか!」

 と、一応ツッコミを入れておくと、エリザは微笑してくれた。それだけで嬉しかったが、何かこう、微笑だと悲しい。笑わせようとしたはずが、バカにされてる感じに見える。僕の目がおかしいのか。微笑する奴がおかしいのか。

「――さてと、じゃあ練習しますかね」

「うん、そうだね」

「じゃあ、エリザはアカペラから入ってくれ」

「アカペラからって言っても、今日はキーボード担当来ていないし、それこそドラムないからあんまり迫力のあるバンドじゃないと思うんだけど……」

「お前が迫力を出せばいいじゃねえか」

「いいこというねー」

「褒められんでいいわ。んじゃ、僕が1,2,3,4……って言うから、それで始めよう」

「オッケー」

「じゃあ、1,2,3,4!」

 ドラムが居ないということは、まとめる役が居ないということみたいなもんで、代わりにボーカルがまとめなくちゃいけないんだが、そういう訳にも行かない。なにせ、曲自体がバチ同士のあのカチカチという音からはいらないと中々歌い出せない感じだし、やっぱりバンドにドラム無しってのは結構大変だと改めて痛感した。……変に軽音部でもないのに。


 ***


 2回位通してやって、ダメなところをパートごとに一人で地道に練習し、30分程度して皆集中力が切れてきたのでまた一度合わせ、の繰り返しで、時刻はどんどん過ぎていき、この部屋にも明かりが灯り、気がつけばもう夕方6時を回っていた。

「お、遅れました! 失礼します!」

 恋の声が聞こえた。ふとドアが開いたので、その拍子に廊下の方を見てみたのだが、廊下が真っ暗なのがわかった。確かに、恋の表情にも怖さが伺えた。

「怖かったのか?」

「……へ?」

「だから、お前めちゃくちゃガクガクブルブルって震えているからさ、もしかして……って思って」

「そんなわけあるかってんだ。……でも、確かに外は暗いよね。あと、今職員会議している最中だから、これから6時半までバンド練習すんなって」

「誰から?」

「教頭先生から。……まあ暇なんだよね、本当。皆は私が5時半くらいに帰したし」

「じゃあお前今まで何やって……」

「作成したものの片付けとか、教室の掃除とかね」

 確かに今日は掃除なかったな。それに、掃除担当の部活が部活ごとの発表の練習をしているため、どうしても掃除に手が回らないそうで、恋はそれをしてくれていたんだろうな。……流石、文化祭実行委員長。

「よくそれで30分も時間つぶしたな」

「まあね。……あ、そうだ」

「ん?」

「アイスの差し入れでーす」

 恋は、自身のバッグからアイスを取り出した。チョコ、ストロベリー、バニラ、抹茶の4種だ。ここはバニラ以外を取りたいところだが……。

「おおおおっ!」

 一同の歓声が上がる。だが、僕はそんな歓声など目もくれず、そのアイスにまるで野獣の眼光のように目を光らしていた。

「さて。一応、私は買ってきた側、奢る側として、抹茶を食べるのはいいよね?」

「お、おう」

 僕の返答に続き、皆首を上下にふる。

「ありがと。んじゃあ、イブリースちゃんは何がいい?」

「……バニラ、お願いします」

「いいんだよ? チョコ食べても」

「で、でもご主人様が……」

「そう。……じゃあバニラね。エリザは?」

 今度はエリザに選択権が与えられた。……僕は最後ですか、そうですかそうですか。

「……じゃあ、ストロベリー頂戴?」

「いいよ。はい」

「ありがとう」

 そして、選択権は僕にうつる。

「ちっ」

 今この人舌打ちしたよね? 開始1秒で舌打ちしたよね?

「……なんでお前は開始1秒で舌打ちするんだこら」

「何でお前にチョコあげないといけないんだ……」

「自分の思いが伝わらなくて、舌打ちすんじゃねえバーカ」

「むっ……!」

 恋が頬をふくらませ、いらだちをみせた。

「……ほらよ」

「しかしまあ、恋のプライドをギタギタにするのは結構いい気分だ」

「……最低だな、おい」

「というわけで、チョコも食べますが先に……」

「ちょっ……!?」

 丁度開封してくれた抹茶のアイスをぱくりと一口僕は食べた。勿論、抹茶アイスは柔らかいから、僕の歯形がしっかりついたし、体温によってその抹茶の固体だった部分も、徐々に溶けて液体になっていくのがわかった。

 まあ、そんな気持ち悪い解説はどうでもいいとして、僕は恋の思いなど気にせず、チョコアイスを開けてそれを食べ始めた。

「なっ……」

 前、風邪引いてた時に恋にさんざん酷い目に合わされたお返しだ。倍返しだバーカ。

「……チョコアイス旨いわ」

「そ、そりゃあよかったね……」

「どうした、恋。なんで抹茶アイスを食べるのを躊躇っているんだ?」

「た、躊躇ってなんか……」

「食べてやろうか?」

「い、いいよっ!」

「ええ、食べさせろよー」

「い、いいから! ああ、ほら、早くお前はチョコアイス食え!」

「……ったく」

 と、やはり恋に指示される事が気に食わない僕は、今度は僕自身のチョコアイスのまだ僕が食べてない部分の一部を人差し指に取り、それを恋の首につけた。

「ひゃあっ!?」

 エリザの起きた時の反応よりもさらに敏感な反応を感じた。

「お前って、意外と感じ易いタイプ……」

「へっ、変なふうに捉えるんじゃねえ!」

「捉えてないよ? ……感じ易いってことは、つまりお前がそれだけ冷たいものに敏感っていうことだろ? ある意味褒めただけだぞ」

「褒めたのかよ……」

「で、お前は『変なふうに』って言ったが、何のことだ?」

 途端に、恋の顔が真っ赤になっていった。凄く紅潮しているその顔を見ると、恋は顔を下の方に向けてしまい、体育座りをするような感じで、音楽室の床に座った。

「床汚いよ?」

「……お前が首に着けたチョコのアイスより汚くない」

 買った本人がアイスを貶すんじゃねえよ、と思いながらも、それ相応のことをしたんだと後悔している僕。此処は一つ、謝っておくべきだ。

「ご、ごめん……」

「いいよ、別に」

「え?」

「……お前のこと、前から『クズ』って思っていたし」

「……そういう風に思われていたんか、僕は」

「まあ、そうだ」

「でもクズではないんじゃ……」

「そうだね。……総じてクズじゃないかもね」

 変なコト言われないか不安になりつつも、僕はやってしまったことを猛省していた。エリザとイブリースは、こちらを『うわあ』という感じで見ていた。

「……じゃあ、土下座しろ」

「は、はい……」

 僕はその地べたに膝をつき、左手から先に地べたに手をつくと、そのままゆっくりと頭を下げた。

「恋、マジで、本当に……ごめんなさい」

 目をつぶり、何をされても構わないという覚悟で僕は土下座を続けた。すると、恋はその場からすっと立ち上がり、僕の眼の前に立つと、自身の足を僕の背中に置いた。

 だがこれは、ある意味絶好のパンチラチャンスである。……幼馴染のパンツ見て興奮するような男じゃないけどな、僕は。ただ、そういう心があったのは事実だし、興奮って所は否定しても、そういうのは否定出来ない。

「――水色縞パン」

「なっ……」

「死ねええええええっ!」

 やっぱり恋は暴力系女子だと、僕は改めて思いつつ、音楽室の中を走り回ったのだった……。

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