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Future  作者: 浅咲夏茶
6th Chapter;Band members and culture festival.
74/127

Target:Nyx -a date with Rin./episode73

 20時少し前。三宮までバスで向かった僕とニュクスは、バス停で降り、近くのコンビニへと入った。この時間帯ともなれば、非情に寒いというのが印象に残る。ここが『西日本』で有るにも関わらず、最近の寒さと言ったらどういうものか。これも、冷夏の影響なのだろうか。

「ねえ、凛」

「なんだ?」

 今のニュクスは『女神/悪魔』ではない。『人間』だ。黒髪の女の子だ。赤色の一本の髪の毛は黒く染まって、そこから彼女が『人間』であることがわかる。

「め、眼鏡買ってほしいな……」

「眼鏡……か。100均行かねえとな」

「100均、ってなんですか?」

 100均も知らないのか、この娘は。……まあ、仕方ないか。僕の知っている限り、お嬢様の悪魔としてしか活動していなかったのだから、そういう『庶民』が使うような場所、使うような言葉は言わないか。覚えないか。

「100円均一だ。商品の値段が殆ど100円でな、それでもって色々と売っているぞ。眼鏡、マスク、ネクタイ、飲料、植木鉢……色々売ってる」

「す、凄いんですね!」

「まあな。『100円均一』とうっているが、基本的にはそこにプラスで税金がかかる。前は+5円だったんだが、今じゃ+16円だからな。僕はあんまりそういう『細かい金』を持っていないんだよ。だから、徴収されるのは嫌いなんだ」

「一円玉……か」

「どうした、ニュクス?」

「いや、一円玉なんて、里奈も祐奈も、どっちも水槽に入れて遊んでたよ?」

「……なんだその遊び」

「それで掬うっていう遊び」

「ああ、一円玉掬いか……って、それ逆じゃね? 落とす方は?」

「一円玉落としもやってたなあ。……ま、昔の話だけどさ」

「そっか。……まあいい。取り敢えず行こうぜ。僕の目が間違っていなければ、お前には『マスク』と『赤色の眼鏡』が似合う。……マフラーも買ってくか」

「そ、そんなお金使わせて……」

「馬鹿か。こっちは3000円でいいって言ってんだ。素直にデートプランを作った僕に従えバーカ。……ま、今日は主人と悪魔って関係じゃなくて、彼氏彼女ってことにしておくから、好きな事言っていいぞ」

「好きな事……ですか」

「?」

「何でもないです。さ、行きましょう、行きましょう」

 そう言われて、僕はニュクスに急かされるがままに100均の方へと導かれるようにして歩いて行った。


 ***


「……うう、寒い」

「そりゃ寒いわな。スカートに黒ニーソ、しかもカイロを貼っているわけでもない」

「だって、一日の半分は悪魔……」

「今は『悪魔』の話すんなバーカ。……寒いなら手繋ぐか」

「えっ……」

「何デレてんだお前は」

「で、デレてないし……」

「そか。……まあ、100均なんざ、三宮駅の下通ればほんの少しの距離だ。学校から疲れたと思うが、自転車持ってきてないお前も悪いからな。お互い様だ」

「それなら凛の自転車の後ろに乗るのに……」

「人任せかよ」

「だ、だってデートなんて、は、初めてだし……」

 妙に感じるんだよな、この目の前の女から。『初々しさ』というか、そういうのが感じられる。顔をめちゃくちゃ紅潮させているわけではないものの、マスクやらマフラーやらで口を隠せないため、結構恥ずかしい事を思っても隠せないのがさらにイイ。……ああ、僕キモいな、やっぱり。

 握ったニュクスの手は、本当小さくて、でも小さすぎなくて。本当に女の子と手をつないでいる、そういう感じだった。


 ***


「さ、ここが100円均一、通称『100均』だ」

 入ると、まずそこにガチャのコーナーがあった。……ガチャなんてしねえよ、と思いながら、ここからレア的な奴が出たらいいなあ、なんて思ったりしてる僕がいる。……まあ、金が無いから今回はパスだけどな。

「マフラーと、手袋、マスクに……眼鏡か」

 ニュクスは決して視力が悪いわけではないだろう。僕にその件で訴えてくることは皆無に等しく、コンタクトをつけている様子も見受けられない。となれば、ダテメガネを買ってやるのが理想か。

 でも、ダテメガネなんて100均に売っているのか? 僕が前に見た眼鏡は、サングラスと老眼鏡のみで、だいたい3:7くらいの比率だったような……。まあでも、男物しか見ていないからだろうか。もしかしたら、女物の眼鏡は売っているかもしれない。

 そんな希望を持ちつつ、僕はニュクスと手をつなぎながら店内に入った。

「あ、温かい……」

「そりゃあ暖房効いているしな。寒かったら客からクレーム来るだろ」

「そ、そうなんだ。クレーマー怖……」

 なんて無知なんだ、この悪魔は。……ということは、性的な事に関してもこの悪魔は無知なのか? ……あり得る。十分に、いや十二分にあり得る。

「ああ、あった!」

 目につくような高いところにマスクが陳列されていた。100均とはいえ、バカに出来ない量のマスクがそこには陳列されていた。……量多いな。

「試着とか出来ないし、適当に30枚入りのこのマスク選ぶか。顔に密着するって書いて有るし。眼鏡つけると曇るからな、眼鏡が」

「それは知ってます。……じゃあ、マスクは決まりですね」

「ああ」

「じゃあ、凛。他に何が……」

「赤メガネだ。赤縁の眼鏡を頼む」

「凛、それってまさか凛の趣味じゃ……」

「そりゃあ、当然だろ。彼女をコーディネートするのは彼の仕事だ」

「それ絶対逆だから……」

「とか言ってるくせに、お前は僕に服とか選んでもらいたいんだろ?」

「わ、悪かったですね……」

「別に僕はお前を怒らせようとした訳じゃない」

「嘘つけ!」

「本当だ、信じてくれ。……そんなくらいで怒っていちゃ、折角のデートが台無しだぞ?」

「それもそうか。……じゃ、じゃあ買うか!」

「は? まだ赤縁の眼鏡買うとは一言も……」

「な、なんでも……」

 微妙な空気に覆われる。……これは僕のせいだな。

「すまん」

「こ、こっちこそ」

「さて、赤縁のダテメガネを探すぞ」

「でも、これってレンズとれば良い話なんじゃないの?」

「確かにそうなんだが、そう簡単に行くわけでもないんだぞ?」

「へえ」

「だから、出来れば店頭で売ってるダテメガネを入手したほうが得だ。それに、ダテメガネならメガネが曇る心配もいらない」

「ほお」

「じゃあ、こんなんどう?」

 近くにあった眼鏡を持って、ニュクスに見せた。一発でレンズが付いているか否かわかったが、この眼鏡の縁は……黒だ。だが、眼鏡のレンズは付いていない。

「赤縁有ったっ!」

 ニュクスが指差す方向に、赤縁のダテメガネがあった。僕はそれを見て、「それでいいんじゃないか?」と言った。そして、最後にレンズが付いているか否か確かめ、付いていないことを確認の上、ニュクスはそれを手に持って僕に渡した。

「プレゼントだよー」

「買ってないけどな。……さ、次は」

「マフラー……か」

 マフラー、という単語。まあ、僕の考えていることがニュクスの考えていることと同じだとは言い難いが、何故か話がここで詰まってしまった。

 何故なら、見渡す限りマフラーが無いからだ。とはいえまだ時間があるし、ここでデートプランを見直すのも一案かな? ……でも、決めたことは出来る限り貫き通さねば。

 

 取り敢えず店員に聞き、ようやく見つけた。視線の先には、黒色のマフラー、白色のマフラー、ピンク色のマフラーのそれぞれ3つがあった。が、その商品の紹介に、とんでもないことが書かれていた。


『カップルにおすすめっ! 一人用だけど、結構マフラーとしては長いから、二人用として使ってね! 105円ですっ ささ、彼氏さん金を出して出して!』


 吹き出しの中に書かれている文章を見た時、僕はちょっと顔を紅潮させてしまった。……なんでこんなんで紅潮させなきゃいけないんだ。だから姉ちゃんに『女みたい』とか言われるんだ、と再度僕は脳裏に刻む。

 つか、これカップル以外も買うだろ、常識。それなのに、こんなこと書いていていいのかどうなのか。……まあ、幼馴染とか居れば別なのかな?

「お前何色がいい?」

「凛も付けるんなら、黒でいいよ?」

「ありがとうな、まず僕の事を第一に考えてくれて。……じゃあ、黒でいいか。一応お前の分としてピンクのマフラーも買っておくわ」

「さ、さんきゅー」

「礼はいらねえよ」

 僕はそう言い切り、買ったものを持ってレジへと向かい、そして会計を済ませてレジから抜けた。そして、僕とニュクスは外へ出る。……のだが、外は突然の大雨だった。

「傘……」

「流石にこれから家まで傘なしで帰るのは辛いし、一応買っておくか」

 僕はそう言うと、ニュクスを連れて再度100均の中へ戻っていった。


 ***


 再び出てきて時計を確認すると、時刻は8時半を過ぎており、夕飯を摂っていない僕らからすれば、地獄の時間がやってきた。

「お、お腹へった……」

「だな。……ニュクスは、ラーメン食べたこと有るか?」

「あ、あるよ! ……でも、あんまりこってりしたのは好きじゃないかな」

「そこを聞いてるわけじゃないんだけど……ラーメンは食えるか?」

「た、食べれるよっ!」

「そっか。……なら、何処で夕飯食う?」

「り、凛の家で食べないの?」

「そりゃあ、僕の家にはもう恋とエリザが居るしな」

「それもそうだね。……んじゃあ、ラーメン店に案内していただけますか?」

「なんで今だけ敬語なんだ。……いいよ、別に。僕は三宮については詳しいんだよ。アニメショップがあるから、よく自転車で来ていてね」

「で、お買い物の途中で無駄賃を昼飯に当てる……と」

「何が『無駄賃』だコラ。こっちは、書籍買うための630円をラーメンに当ててるんだ。感謝しろバーカ」

 僕がそういったのだが、それといった反応をニュクスは見せなかった。むしろ、冷然とした態度で僕の発言をスルーし、まるで無かったことのようにして、その場の雰囲気を暗くした。

「……あのさ」

 だが、彼女自身が気づいたらしく、ニュクスから僕に話しかけてきた。

「ん?」

「……ラーメン、何処に有る?」

「正しくは『ラーメン屋』な。お前、一応戸籍は『日本』にないんだし、そんな些細な事を注意されてもわからないかも知れん。ここは一応、外国人という設定にしておこう。お前、英語はペラペラか?」

「ギリシャ語なら……」

「お前ギリシア神話の住人だったっけか」

「ひ、酷いですよ凛さんっ!」

「さん付けありがと」

「そこで感謝の意を述べるんじゃねえっ!」

「悪い。……まあでも、これからは『ご主人様』じゃなくて、『凛さん』って呼んでくれればいいや。なんて言うか、『ご主人様』って呼ばれていい気がしないんだよなあ。なんて言うんだろ。嫌な気分しかないんだ」

「意外とそれは特殊な事例ですね……」

「そうか? 僕は割と普通だと思うんだけど……」

「私は普通だとは思いませんっ! ……でもいいです。あの、『庶民』とかいう言葉はあんまり使いたくないんですが、その、凛さん!」

「ん?」

「わ、私をラーメン屋に連れて行ってくれないでしょうか……」

「そんなん連れて行くに決まってんだろバーカ。お前に日本食を味わってもらうぞ」

「おお、結構強気な意気込みだね。でも、ラーメンって起源日本だっけ?」

「いや、中国だ。でもまあ、あっちのラーメンと日本のラーメンじゃ、結構違ってるからな。独自の文化というか、そういうアレンジが入ってる。他にもカレーとかな。……まあ、お前にカレーなんて似合わないけど」

「な、なんだそれ」

「なんでもねえよ。ま、マフラーまくか。寒いし」

「バカ。まずは、眼鏡とマスクを貸せ」

「ほいよ」

 僕はマフラーより先に、眼鏡とマスクをニュクスに渡した。

「やばっ、可愛いんだけど……」

 今、本気で僕の心がドキッとした。やばい。可愛い。ピンを付け直した今の仕草と、このマスクをつけ、さらに赤色の縁のメガネをかけているという状況が、とてつもなくマッチして、可愛さを引き立たせている……だと!?

 なんてこった。眼帯を購入することは出来なかったが、僕の萌え属性がはっきりと反映されている。マスクは本来ならば萌え属性以外だったのに、なんでこんなことになってしまったんだ! ……普通眼帯だろ、常識的に考えて。

「なんでそんなギャルっぽい口調なんですか」

「一世代前だけどな。……じゃあ、マフラー首に巻くか」

「うんっ!」

 と言っても、このニュクスという女は、悪魔になって居ることが殆どだ。つまり、炎属性で居ることが殆どなので、こういった寒さにはあんまり経験がなく、当然マフラーも付ける機会が少ないようだ。だから、僕がやってあげた。これでも僕はがさつではない。手先は一応器用だ。

「ほい、完成」

 ラーメンを食べればマフラーもいらないし、マスクも要らないんだけれど、一応ね。こうでもしなきゃカップルとは言えないだろ。冬なんだし。

 そして、傘をさして僕はアニメショップ近くのラーメン店に向かった。


 ***


「いらっしゃいませ」

 店員の声とともに、ガラガラの店内を進んでいく。流石にもうすぐ9時だしな。隣は居酒屋、その隣は喫茶店。そんなところに構えてるラーメン店だし、ラストオーダーは9時10分。9時30分閉店のこの店は、他の喫茶店や居酒屋より営業時間が短い。ただ、その分この店の店主はラーメンの麺作りに打ち込むわけだ。

「注文どうぞ」

「じゃあ、僕はとんこつラーメンを、汁多めで一つ」

 女々しい、とか女っぽい、とか言われてるから、ここはちょっと調子に乗ってみた。格好つけてみた。男らしく言ってみた。でも、逆効果かもしれない。

「じゃあ私は、醤油ラーメンを、汁少なめでお願いします」

 ニュクスも頼んだ。だが、醤油ラーメン程度のスープ、僕が飲んであげてもいいのに。やっぱりそういうところは『お、女の子だし……』みたいなところがあるのかな? ……それとも、デートだからってちょっと気にしてるとか?


 


 5分程度経過しただろうか。店内にいい匂いが漂い始めた。ラーメン屋ということもあり、餃子やらも置いてあるのだが、僕はそういうところを頼もうとはしなかった。なぜか? そりゃあ、そんなんにお金を使うより、セルフのソフトクリームでお金を使ったほうがいいからだ。

 この店には、ソフトクリーム機が3機ある。そして、それは120円入れることで使うことができるからな。基本的に、最初に出るのは『ソフトバニラ』だが、120円にプラス30円して150円にすれば、ストロベリー、チョコは勿論のこと、様々な味のアイスにすることが出来る。

 だから僕はこのラーメン店が好きだ。前にアニメショップに来た時、三宮の駅前をふらついていたらあって、このラーメン店にぶらりと入ったら、そういうシステムがあり、さらにラーメンも美味しいのだから、もう申し分ない。それ以来、このラーメン店の虜だ。

「お待ちのとんこつラーメンと、醤油ラーメンです。そちら右手にソフトクリームありますので、150円お持ちいただければ、冷たいソフトクリームがお召し上がりいただけますので、そちらもぜひ」

「はい」

 そう店主が言っていたことを、僕は箸を箸置きから取り出しながら聞いていた。……ああ、旨そうだ。こんな時間の夕飯は久しぶりな気がする。……いや、久しぶりじゃないか。まあいいや。取り敢えず、これ食べちゃおう。

「頂きます」

 箸を合わせて、手を合わせる。そして、出されたラーメンを食べ始める。麺を噛み締め、レンゲに取った豚骨スープを美味しくいただく。……こってりしているが、美味しいな。とんこつラーメンなんて久しぶりだから、僕は大満足だ。……と、デートだということを忘れ、それ同時に我を忘れそうだ。

「ニュクス、美味しいか?」

「うん! 美味しいよ」

 笑みを浮かべるニュクスを見ていると、なんとも微笑ましい気分になる。

「……お前の頭撫でていい?」

「なっ……」

「わ、悪い……」

「眠い?」

「眠くはないけどさ……」

「全く。……しっかしまあ、初めてかも。こうやって、男の子とご飯なんて」

「……うぐっ」

「どうした?」

「やばい。お前が言葉を言う度に、心がドキドキしてくる……」

「口説く気かよ?」

「ち、違うぞ? ……なんていうか、いつものニュクスと全然違うっていうか……」

「だってデートだし」

「そっか。……なんか、僕がニュクスに甘えるのもおかしいよな」

「だよね。お金だけ凛が払って私が甘えてるほうがいいよね」

「……パシリじゃねえか」

「ふん」

「なんで怒ってるんだよ?」

「別に? ……まあ、早く食べようよ。私早く帰りたいよー」

「もう9時だしな」

「うんうん」

「犯罪者とか怖いしな」

「そうだよ」

「そっか。……んじゃ、早く食べてソフトクリーム作って帰るぞ。ニュクスは何味がいい?」

「うーん。チョコとストロベリー!」

「ふざけんな。僕に200円も払えってか。……仕方ねえ。やってやるよ」

「流石だ」

「おう。……んじゃ、早く食うぞ」

「うん!」

 お互いにそう言い合い、ラーメンを食べ進めていった。


 ***


「おいしかった~」

「やめろ。腹を撫でるようにさするな」

「なんでさ」

「何か、お前食う前より太って……」

「妊娠してないけど?」

「だ、誰の子だっ!?」

「違うから!」

「だよな」

「……はあ。んじゃ、ソフトクリーム食べよー」

「おう」

 僕は無難に抹茶にしておいた。ニュクスには、本人の希望通りの味を提供した。150円に200円。合計350円のお支払いである。ラーメン代を合わせると、1600円程度か。まだ3000円行ってないけどな。

「雨止んでるね」

「だな」

 上の空をみあげてみると、雲の動きが見えたが、雨の粒は伺えなかった。そう。晴れたんだ。

「じゃあ、帰ろうか」

 そう言って、マフラーとマスク、そして眼鏡をニュクスが装備すると、マフラーの余った方を僕が首にかけて調整した。そして、家に向かって僕とニュクスは歩き出したのだった。

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