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Future  作者: 浅咲夏茶
6th Chapter;Band members and culture festival.
73/127

Target:Nyx,Iblis and Rina./episode72

「――結局、僕らのクラスは男装メイドと女装執事喫茶なんですか」

「ボクは別に男装でも構わないんだが」

「そりゃあ会長は元々執事してたそうですからね」

 午後4時半。生徒会室にて、各クラスから回収した『文化祭出店要項』という旨のA4のペラペラの1枚の紙を積み上げ、それをテーブルの上にドン、と会長が置いたところからその話はスタートした。

「それもそうなんだが……ニュクスが人間になったそうで」

「でも、イブリースと一緒になってますよ?」

「そうなのか。……イブリースとニュクス、分離させるべきなんじゃね?」

「目的があって、ですか?」

「そりゃあそうだろ。なにせ、ニュクスは凛君の心のなかで演奏を聞いていたかもしれないけどさ、リアルで聞くのは初めてだろ? なら、感想を述べてもらえばいいじゃんか。まだ1番と2番の半分しか完成していないけど、それでも結構いいところまではいってるから、感想くらい言ってもらえるだろ」

「……会長、分かってます?」

「ん?」

「今、エリザと恋は文化祭の準備に負われてるんです。なので、とてもじゃないけどバンド演奏なんてこの時間から出来るはずもないんです」

「呼んでくれば……」

「なんて甘い考えなんですか、会長」

「け、決してボクは甘い考えと思っているわけではないぞ、凛君!」

「……まあ、そんなことしてても時間の無駄です。僕らだけでいいので、先に練習始めましょうよ。……あ、先に僕だけベースの練習してますね。会長は承認の印を押し終えたら音楽室に来てください」

「そうか。……で、帰宅時間は何時頃になりそうなんだ?」

「恐らく、19時……でしょうね」

「19時か。……なあ、凛君」

「なんですか?」


「――エリザがレイプにあったっていうのは、本当なのか?」

 本当だ。……でも、何故会長がそれを知っているのだろうか。

「あの、会長が何故それを……?」

「悪いのか?」

「いえ、悪くはないんですけど……。そのソースって何処ですか?」

 突如として、会長は答えなくなった。ただ、決して冷や汗をかいている訳でもなく、焦っているようには見受けられない。

 ため息を付いた上で、会長は書類の1枚目を手に取り、棚から印を持ってきて印を書類の右下の方に押した。

「――まあ、先に練習していてくれ」

「は、はい……」

 僕は、会長にもう少し聞いておくべきだったと今更ながらに後悔したものの、それは遅く、今から戻っても静寂の嵐だろうと勝手に決めつけて戻るのを諦めた。


 ***


「来ていたのか、イブリース」

「はい、ご主人様。……あの、ニュクスと分離した方がいいですか?」

「出来ればそれでお願いしたい」

「分かりました。……合体解除!」

 イブリースがそう技名を言う。そして、ニュクスとイブリースが分離した後、僕はニュクスに『人間になっていい』という許しを出した。

「――あの、ご主人様」

 許しを出した途端、ニュクスが聞きたそうな顔をして口を開いた。

「ん?」

「デ、デデ、デートの件は……その、どういう事に……」

「恐らく、この練習が終わってからだから、きっと8時前ぐらいからだろ」

「8時前……?」

「ああ。8時前だ。20時前だ。……まあいい。なあ、イブリース。練習しよう」

 僕がイブリースにそう言うと、イブリースは無言でコクっと頭を上から下に下げた。


 さて、楽器の準備を進めながら、ここまでの今日一日を振り返りたいと思う。

 今ニュクスが何故合体していたのかといえば、そりゃあ学校に無駄な手続きしなくていいから、というのが手っ取り早い回答だ。会長に頼むのも一案だったけれど、流石に頼りすぎるのも……ということで、結局ニュクスとイブリースを合体させることにした。

 ただ、合体していても、ニュクスとイブリースは別人だ。だから、人になったら分離すると思うかもしれないが、そういう訳ではなく、僕の見たところによると、合体していた状態から人間状態にしても、二人が別になることはないようだ。

 だから人間、つまり主が何か説明、指示等を出さぬ限り、悪魔は勝手に分離しないというわけである。まあ、脳以外が一緒になっているのだから当然か。


 まあ、朝早い頃に、ニュクスとイブリースを恋に押し倒された物置部屋で合体させるのは、恋とエリザの目を盗むことに時間をかけすぎて大変だった。……作り話とか言われるかもしれないが、実際それをしていた。


 


 楽器の準備が整い、僕とイブリースは皆より早く練習を始めた。

「――2番のサビの始めまでは完璧に行けるんだよなあ。……でも、サビから間奏挟んでCメロのところがめちゃくちゃ難しいな。流石にギターとドラムとベースが主役だからキツイか」

「そうですね、ご主人様。やっぱり、ボーカルが居ないと、ドラムが居ないと大変ですね」

「まあな。……そういえば、基本的にバンドのこういうCメロ前までの間奏の中で、『ベース誰々』みたいに言うじゃんか? それってするのかな?」

「それはボーカルとの相談が必要だと思いますが……」

 と、その時。音楽室のドアを開けて入ってくる女がいた。

「遅れた」

「会長、遅いですよ」

「悪い。……つか凛君こそ、私に『生徒会の仕事終わらせてから来ていいですよ』的なこと言っておいたくせになんだその言い方は?」

「別にいいじゃないですか」

「そうか?」

「はい。……で、この会話の最中に入ってくるなんて、何か言いたいとかそういうことで入ってきたんですよね? 重要なこと話すんですよね?」

「ああ。……ま、お前の言ってる質問に回答することから始めよう」

「はい、お願いします」

「その件は、私も考えていた。ただ、エリザに伝えていないし、そうなれば皆名前振られたら自分で自分の楽器でちょこっとアレンジした、というかだな、まあ私であればこんなふうに……」

 会長は自分の言いたいことがハッキリしていたものの、具体的に言葉で示せないようだったので、ドラムの前に向かった。

「まあ、こんなかんじに座ってだな。……ああ、凛君。私の紹介を頼む」

「『ドラムス、里奈』って感じでいいですか?」

「出来れば英字表記で頼む」

「わかりました。……でもこれって、エリザの役ですよね?」

「ああ。だから、ある意味彼女をボーカルにしたのは正解だったかもしれないな」

「そうかもしれませんね。……それじゃあ、行きますよ?」

 僕はそう会長に断った上で、息をいっぱい吸って心を落ち着かせてから言った。

「Drums……Rina Saijo!」

 一応僕が会長に振ると、会長はそのまま置いてあったバチを手に持ち、シンバルを自分の思うままに叩いた。バン、バン、バン、バン……と、叩いている会長は、何かすごい『ロック』な印象を受けた。

「じゃあ続けてイブリースもするか」

「えっ」

「大丈夫。……お前、一応完コピしてるんだろ?」

「確かにそうですけど……。そんなこと言いましたっけ?」

「言ってないけど、お前、何かめっちゃやってそうだな、って」

「ただのイメージですか……ご主人様」

「ああ。……ま、取り敢えずお前に振るから、ちゃんと答えろよ?」

「は、はい……」

 オドオドしているイブリースだったが、僕はそんなイブリースに対して、一切の余裕等作らせず、すぐに僕はイブリースに振った。

「Guitar……あ、お前の下の名前ってなんだっけ?」

「イブリースです。つか、それ苗字こと言いたいんじゃないですか?」

「悪い、間違えた」

「そこまでくると、もう『文章量稼ぎ』って言われますよ……」

「なっ、何故誤解を招くような事を言うんだお前は!」

「わ、悪かったです……。あ、私の苗字は無いんですよ、言っときますけど」

「無い……のか」

「はい。まあ、ニュクスは『ニュクスヘスティア』ってあるから、本来ならば両方『下の名前』なんですが、彼女の場合は、『ニュクス』を苗字として捉えることもできるので、意外とその面いいですよね」

「その面……か」

「はい。……ま、躓いて何にもしないのも嫌なので、早くしましょう、早く」

「そうだな」

 あんまり乗り気でなくなってしまった。……別にイブリースが悪いわけじゃないんだ。ニュクスとヘスティアが元は別の女神同士であったということを、仮にイブリースが知っていたとしても、別にいい。……悪いのは言ってる人間じゃない。合成させた人間だ。東條祐奈という女が悪いのは知っている。でも、彼女にだって悪意はなかったはずだ。嫌々ながら、そう嫌々ながらやったはずだ。

 だが、合成と合体の意味の違いが僕にはあまり分からない。何か違うのか?

「――合成は、主人が強制的に悪魔、女神などを合体させ、二度と戻れない合体のことを指します。逆に合体は、必ず戻れる合体の事を指します」

「そうか」

「はい。……まあ、そんなことは置いておいて、早くしましょう、早く」

「急かすな急かすな」

「ご主人様だって急かされたくせに」

 嫌なところをつかれた僕は、そっぽを向いて話題を逸らそうと頑張った。

「……よしいくぞ」

「人名ですか?」

「『う』が足りねえだろ。……まあいい。はーふー……」

 息を吸って吐く。本番じゃないのにここまで深呼吸する男って、引かれるだろ。

「Guitar……Iblis!」

 イブリースは、僕の振りに答え、ギターの独特の音色を自由自在に奏でる。……上手すぎだろこの女。悪魔だから、魔王だからなのか? 何れにせよ、流石だ。

「疲れました」

「あんなに手を動かしてるんだもんな」

 30秒くらい経つと、イブリースが手を動かすのを止め、そういったのを皮切りに、皆『疲れた』と言い始めた。……まだエリザも恋も来てないのに。

「凛君はこのバンドどう思ってる?」

「凄いバンドだと思ってますよ?」

「そうか」

「はい。でも会長、なんでそんなこと……」

「気にしなくていいよ。私はそんな変なことを聞くために凛君に問をした訳じゃないんだ。構わなくてよかったんだが、流石は自己犠牲者だ」

「やめてください。『事故犠牲者』って聞こえます」

「……犠牲、ではなくても事故にはあったんだろ?」

「まあ、そりゃそうなんですけど、その頃の記憶が僕には無いんです。なので、ここの所、ニュクス始め、色んな人からデートのお誘いが着てるんです……」

「恋愛相談か?」

「会長って恋愛経験豊富ですよね?」

「人の家来て、まだそんなこと言えるのか凛君?」

「嘘です、すいません、調子乗りました」

「よろしい。……ま、私も恋と同じように恋愛音痴だ。友達も居なかったからな。当然、幼馴染と呼べる関係の人もいなかった。唯一いたのは『姉妹』だな。マドレーヌ、あいつだけが私の身近な、昔から側近に居た奴だ」

「マドレーヌ……か」

「ああ。……さ、暗い話は置いておき、明るくかっ飛ばそう」

「そうですね。バンドは楽しくなくちゃ! 僕らが楽しまなくちゃ、皆に伝わらないですからね」

「そうだ。……じゃ、ちょっと物足りませんが、練習始めますか」

「ですね」

 そう会話を弾ませながら、僕とイブリースと会長の3人はバンドの演奏練習を始めた。楽しみながら、欠けた部分を補いつつも、自分たちの克服しなければいけないとこを見つけては、ちょこっと生徒会室から会長が持ってきたお菓子を一口頬張り。バカやってる感じは、本当に『青春』って感じがするものだ。


 ***


 結局、あの後恋とエリザが来たのは午後5時半だった。うちの高校では、基本的に文化祭前の最終1週間のみ、『午後7時までの居残り』が許される。……と言っても、本当に居残れる時間は更に長くすることも可能である。生徒会長か、副会長(つまり僕)、または文化祭実行委員長に頼むことで、最大21時半まで延長することが可能である。

 これは22時という、某条例に反しない為の学校側が取った処置である。元々は『23時まで居残りOK』という案が有ったそうだが、流石にそういうわけにもいかず、結局『21時半』が最終下校時刻となった。

 だが、生徒会副会長である僕は、見ての通り『軽い』印象があり、恐らく今後、色々と言われると思う。『延長おねげーするっす』みたいな感じで。まあ、僕なら簡単に「いいぞ」というだろうな。軽くはないけど、僕はそこまで時間にはこだわらない主義だし。何よりも文化祭を成功させたいしね。

 ただまあ、「それじゃあ24時間耐久出来ないじゃん!」と思うかもしれないが、それはまあ……うん、大丈夫なんだ。去年大丈夫だったからな。今年も行けるだろ。ダメなら会長の家に場所を移せばいい。僕らのクラスだけでもいいから泊めさせてもらえばいいだろう。


 まあそんな甘い考えを考えつつも、少々厳しいようなバンド練習に耐え、僕は夜7時半、皆とともに高校を後にした。当然、これからニュクスとのデートが始まるわけで、そうなれば恋とエリザは別行動ということになる。エリザは前例として『レイプされた』ということが有るため、恋に一緒になって帰ってもらうよう頼んでおいた。

 恋なら大丈夫だ。力強いし。


 僕は今日、あえて自転車じゃなくて徒歩で来た。ま、現実的に言えば『チャリ』だが、これは『愁の自転車の後ろに乗せてもらった』ということからだ。ああ、変なことを言っているわけじゃない。確かに抱きつかなければいけなかったが、変なことを考えたりはしていないぞ。

 途中で警察に止められたけどね。

「――さ、ニュクス。行くぞ」

「ご、ご主人様……!?」

 暗い話から一変し、僕は笑顔でニュクスの方に右手を差し伸ばした。

「今日は僕徒歩だから、10時までに帰れるなら、何処に行ってもいいよ。あと、所持金3000円以内で頼む。変に金を遣わさないでくれれば、僕はそれでいい」

「じゃ、じゃあ……」

「なんだ?」

「ラーメンを、食べたいです……」

「ほう。……日本の文化に親しみたいというわけか。それもいいな」

「ご、ご主人様、連れて行ってくれるんですか?」

「ラーメンくらい奢ってやるよ。適当に三宮行けば見つかるだろ」

「あ、有難う御座います!」

「別にそんなに感謝する内容でもないと思うがな。だが、お前がそこまで感謝するとなれば仕方ない。……ちょっと、恋人っぽく演出するか」

「ふぇっ……?」

「まあまず、デートの時は『ご主人様』と呼ぶな。『凛』と普通に呼べ」

「で、でもご主人様はご主人様……」

「凛でいい。これは主人の命令だ。ニュクスはそれに従わないのか?」

「しし、従いますっ!」

「よろしい。じゃあ、凛と僕を呼んでみろ」

 笑顔でニュクスにそう言うと、ニュクスは顔を紅潮させながら言った。

「……凛?」

 普通にニュクスは可愛いんだよ。でもいつもいつも、『ご主人様』と僕を呼んでいるせいで、あんまり抱きついてきたりせず、後ろ向き、というかあんまり出しゃばらないキャラだからか、そこまで意識することが出来ないんだろうな、僕は。

 ただその影響で、同じく『ダーリン』と独特な名前で呼ぶエリザが際立っているようにみえる。意外と、エリザって『外国人キャラ』だから際立ってるんだろうな。でも、その影響で恋が……ね。

 メタなことを言いながらも、僕とニュクスのデートは幕を上げたのだった。

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