Target:Ren and Nyx./episode71
朝5時過ぎ、僕はニュクスとイブリースを合体させておいた。
そしてそれから1時間くらい過ぎてから、寝坊した恋が起きてきた。
「かかか、可愛い女の子が……え?」
動揺を隠せない恋。そりゃそうだろうな。起きて、リビングに行ったら知らない(いや、女神の時の姿は知っている)女が居るんだもんな。
「ねえ凛、この子は?」
「こいつはニュク……」
「ニュク?」
「ニュクスだ。ニュクスヘスティア」
「……私より普通に可愛いじゃんこの子! ……ほっぺぷにぷにしたいよぉ」
「うわキメエ」
「う、うっさいな! 女の子同士ならいいだろ!」
「……聞けばいいじゃんか」
「うう。……ね、ねえニュクスちゃん?」
恋がニュクスに問いを持ちかける。
「な、何でしょうか……恋様」
「恋様!? 凛、お前ニュクスちゃんに何かしただろ……」
恋がジト目でこちらを見てくる。それを見て僕は慌てて反論をする。
「ししし、してないしてない!」
「本当に?」
「ほほ、本当だから!」
「……ニュクスちゃん、本当?」
僕の答えだけでは信用出来ないようだ。……いやいや、ニュクスに聞いちゃダメだろ。僕に対して『害』しか生まないようなこと言う気がしてならないんだが……。
「ご主人様はその……へ、変なことはしていません! で、ですが今朝、ご主人様に押し倒されたといいますか……うう、思い出すだけで……!」
「なっ……」
「ど、どうかされましたか?」
「……凛の事、『ご主人様』って呼んでるってことは、もしかして……」
「?」
「凛に絶対服従とか、まさかそういう……」
「き、基本的には絶対服従ですけど……」
「つまりそれは、凛に犯されそうになっても、か?」
「おお、犯すなんてご主人様がそんな……。確かに私のことをご主人様は愛してくれているかもしれませんが、本命は恋様だと思いますし……」
「わわ、私っ!?」
「そりゃあ、ご主人様は可愛い女の子に目がないですし、幼馴染物のエロゲをこよなく愛していますし……」
「ま、まあ確かに幼馴染モノのエロゲ好きなのは知ってるけど……」
「ご主人様に告白してみてはいかがですか?」
「えっ……」
「まあ、今日はご主人様と私でデートを致しますし……」
「……」
「ホテルにも行こうかな……なんて」
「ななな、ななっ!」
「あれれ? なんでそんなに驚いてるんですか?」
「……おお、驚いてなんかないし!」
「ふーん。……まあ、早く朝ごはん食べましょう」
「ま、待って!」
「な、なんですか、恋様?」
「ちょちょ、ちょっと凛と話してくるから待ってろ!」
恋が顔を真っ赤に染めた上で、僕の方に近づいてきて言い放った。
「つ、付いて来い!」
「は?」
「……いいからこっちこい!」
「ちょ、手がちぎれるから! ア●ザーなら死んでるから!」
「それくらいで死なねえわバカ! ほらいくぞ」
「痛っ……」
恋に手首をがっちり掴まれてしまい、僕は強引に恋に連れて行かれた。そして、連れて行かれた場所はというと……。
トイレの前の通路だった。風呂場も近く、脱衣所もすぐそこに有る、そんな通路だ。しかも、恋はそのまま通路からちょっと入った物置になっている部屋に僕を連れ込み、電気をつけてドアに鍵をして部屋を密室にした。
「なっ……、お、お前何して……」
「一つ、聞きたいことが有る」
「な、なんだよ?」
「――デート、するんだろ?」
「ニュクスとか? ……まあな。朝のうちから決めてることだし、男に二言はないしな。……もしかしてお前、嫉妬してんのか?」
「嫉妬じゃないし。……それに」
「ん?」
「お前なんかに、心配される筋合いはねえし……」
「風邪の看病してやったのに」
「わ、悪いなっ! 私はこういう人間だからな……」
「素直になれない『ツンデレ』だからな」
「何がツンデレだ、このどど、童貞がっ!」
「え?」
「……は? は? あの、なんで『え』って聞き返す……」
「嫌僕もう童貞じゃない……」
事実を述べた。のだが、その事実が気に食わないようで、恋は笑顔のまま、再度僕にその旨の事を聞いてきた。
「嘘だ、そんな凛が……ね?」
「いや、マジだけど……」
「ニュクスちゃんと?」
「いや違うぞ。……誰かは公表しない」
「ま、まさか……二次元?」
「んな訳あるかバカ野郎!」
「や、野郎じゃないし、私女だし!」
「恋愛音痴の恋さん、女っぽく見せるんだったらもっと胸張れ、そしてサラシを取って、もっと意中の男にくっつけばいいじゃん」
「……ささ、サラシって凛、お前何言って……」
「いやだって、『Dカップ』のくせにその大きさはおかしいだろ? ……まあ確かに、たわわに実った二つの果実があると柔道し難いってのは分かる」
「『二つの果実』言うな! 変な言い方すんな!」
「……じゃあ『おっぱい』って言えばいいのか?」
聞いてみると、恋は顔を真っ赤に染めた。照れ隠ししようとしたのか、顔を下に下げたまま電気を消しに歩き出す。そして、この物置部屋の電気を消灯すると、たちまちこの部屋は完全な密室空間、真っ暗闇となった。
「おお、お前何企んでんんだ……」
「――お前、好きな人居るか?」
「好きな人? そりゃあ居るぞ。でもまだ『ライク』か『ラブ』かは分から……」
「そ、その相手は誰……だ?」
「ニュクス、会長、エリザ、当然お前もな」
「そ、そっか……」
暗いので、恋が今一体どういう顔をしているのかは分からなかった。だが、その言葉の後、僕も恋も、一切返答、そして会話のキャッチボールができなかった。照れているんだろうな。僕も、恋も。……そこまで恥ずかしくは無いと思うんだけれど、やっぱり心の何処かで『恥ずかしい』という思いが残っていて、それが勝ってしまった結果なんだと、僕は勝手に推測した。
そして、キャッチボールをもう一度始めようとして、僕が口を開いた。
「……恋に一つ言っておかなければいけないことが有る」
「何?」
「カレー、食べただろ?」
「うん」
「あの中にび、媚薬が入っていたんだ。……知ってたか?」
「なっ……!」
驚きを隠せない恋。それもそのはず。自分は何も知らずに媚薬入りのカレーを食べたのだから。それも、自分から率先して『早く作るね』とか、『美味しそうだね』的なことを言いながら食べたのだから、そして何よりも、自分でそのカレーを作ったのだから、恥ずかしさは大きい。
「……凛が、仕込んだのか」
「違う! 断じて違う!」
「私とエリザを、二人同時で食べようとしたんだ……変態だ。変態だ」
「わ、悪かったって!」
必死に謝る僕。だが、ふと気がついてみると、何やら温かい感触が僕の頬に伝わった。
「だから私熱出したんだ」
「……は?」
でも確かに恋の身体は熱かった。……しかもめっちゃ汗かいてるし。また風引いたのか? ……んなわけないな。じゃあ、そうするとカレーを食べたから? 媚薬の効果?
考えられることは数多く有るが、一応聞いてみるか。
「なあ、なんでそんなに身体を熱くして……」
「媚薬の効果じゃないのかな?」
「そうなのか。……それならちょっと冷えピタ貼るから、早くここを出よう」
「……そういうお節介はいいよ」
「馬鹿か。看病くらい幼馴染同士なら普通の事だ。さ、ここから出るぞ」
「う、うん」
あんまり簡単に行かないのな。前にエリザから『48kgと51kgの差』的な感じで、『私は恋より体重重いんだ』なんて言っていたが、恋の身体って結構軽いんだな。一応目は閉じていないんだろうけど、暗いから恋の顔は把握できない。
「電気付けるか」
「で、電気とか別につけなくても……」
「ドア開けられねえだろうが。自動ドアじゃあるまいし」
そう言うと、僕は電気をつけた。と、ふと僕が顔を下に向けると、すぐそこに恋の姿、恋の顔があった。やっぱり恋は、寝てる時の状態のほうが可愛い気がする。……そして、弱っている方がこいつは可愛い。強気の時は『男
』としてしか考えにくいし、『幼馴染』っていう関係があるから『別にちょっかいくらい平気で出せる』みたいな感じだ。
でも、寝てる時の顔を見ると、普通に可愛いんだよな、こいつ。弱ってる時も、顔を真っ赤に染めてるからそれだけで十分可愛い。これがギャップ萌えなのかな。
「重いだろ?」
「48kgで重いとかさ、お前バカじゃねえの」
「な、なんで凛が私の体重を……」
「そりゃあ、エリザから聞いたからな」
「……エリザがソースか」
「まあ、体重で判断する男は居るけど、お前の体重なら大丈夫だ。てか、普通にお前は『モデル体型』なんだから気にすんな」
「――モデル体型なのはエリザだと思うけどね」
「だからボーカルに選ばれたのかな?」
「さあ。……で、冷えピタとか別にいいし、下ろしてもいいからね?」
「お前自身、こういうの望んでるんだろ?」
「馬鹿か、お前」
「小5の頃までは『将来の夢は立派なお嫁さん!』なんてほざいていた奴がよく言うよ、全く」
「な……ななな……っ!」
事実だ。至って普通の事実を述べただけだ。
恋は卒業文集では『立派なお嫁さん』なんていう事は書いていなかったが、僕の記憶に残っている中では小学5年の頃まで恋はそう言っていたのを覚えている。
「お前のせいで『僕が恋とデキてる』って噂立ってマジ迷惑だったんだぞ」
「……確かにあの噂は嫌だったよね。面倒だったよね……」
「元はといえばお前のせいだけどな」
「お前だって私に告白してきたくせに!」
「そうだけど……」
「……私、お前の告白覚えてるぞ? めっちゃ厨二病じみててキモかったから」
「……やめろ、僕の黒歴史を言うな。脳内が汚染される……」
「じゃあ言ってやるよ、お前を調教するために」
「なっ……」
僕の説得などつゆ知らず。恋はそのまま話を進めていった。
「『我が力を姫様に託すべく、ここに申したいと思ふ。
姫様、我の嫁になっては如何かな?
――ああ、遠慮はいらぬ。我が力で姫様の願いを全て叶えよう。
そして、神である我に掛かれば……』
とか言って、結局話が詰まって笑ったんだよね、私」
「やめろ。めちゃくちゃ緊張した結果だそれは……」
「プレゼントを『僕のキスにして』とか言わないだけマシだったわ」
「なんだそれ。キメエ」
「葉紅姉が現に言われた言葉だってよ。高校2年の冬に、バイト先で店長に」
「うわっ……」
「キモいよね」
「確かにな」
「そう考えると、同じ『キモい』でも凛の方がマシだよね」
厨二病ってだけだからな。そりゃ別にキモくても口説いて気持ち悪いのより全然いいしな。まあ、色々とあって、今こういう事になっているんだ。
「……で、今度凛は、エリザとニュクスちゃんを口説こうとしているわけか」
「……それは違うと思うけど」
「だって、ニュクスちゃんに『ご主人様』って言わせてる時点で、凛がニュクスちゃんに何しでかすか、大体予想は付くでしょ。常識的に考えて」
「なんで僕がそんな酷い扱いを受けているんですかねえ?」
「それが主人公ってもんだろ」
「お前もメタ発言すんのかよ」
「そりゃあね」
「……頭痛えわ、全く」
「そりゃあ可哀想に」
「誰のせいだ、誰の」
そんなことをいいながらも、僕は『死ね』なんていう感情を恋に対して持つことはなかった。なにしろ、恋は僕が一度告白した相手だからな。だから、互いにどこか『これ以上は』という部分と、そして互いに『黒歴史』と認めている部分がある。今回の件は後者の方だったが、ちょっと僕の過去を抉られただけで、それ以外の何物でもないため、僕も怒ることはなかったわけだ。
「……それで、恋」
「ん?」
「媚薬入りのカレー、食べる?」
「要らねえよ。……自分に食べさせたら?」
「僕を犬みたいに扱うんじゃねえっ!」
「駄犬が」
「僕はマゾじゃねえからそんなんで興奮しねえわバカ。まあ、その件はニュクスが平らげると言ってるんだけどよ、お前はどう思……」
「ダメに決まってんでしょうが!」
大声で言う恋。物置部屋を超え、その声がニュクスらにも聞こえそうだ。
「あんな純粋無垢な可愛い美少女に、凛みたいな低層な童貞ヅラした男に、媚薬入りのカレー渡される筋合いは無いでしょ!」
「……酷い言いようじゃねえか」
「悪いか、バーカ」
「じゃあいいや」
「ん?」
「お前が食べろ」
「……は?」
「お前が責任持って食べろ」
「な、なんでさ?」
「お前が加熱したんだ。お前が悪い」
「で、でもあのカレーは私が最初から作った訳じゃないし……」
「でも食べろ。……じゃあ、食べたらお前の願い、一つだけ聞いてやるよ」
「……子作りとかも?」
「エリザみたいだな、今日のお前」
「お前の目には『エリザ=ビッチ』って風に写ってんのかゴルア!?」
「違う、断じて違う」
「そうか。ならいい。……じゃあ、子作りとかはエリザに任せるとしてだな……。あ、そうだ。最後に聞きたいことが有るんだけど、これってあの、『魔法少女になってよ』みたいな感じで、後々悲しい結末にならないよね?」
「少なくとも僕がそんな考え、もといそんな思想を持っている訳ないだろ」
「だ、だよね、あはは……」
ちょっと苦笑いをしたうえで、恋から驚愕の一言が飛んできた。
「デート、したい」
「お前もか。……まあ、今日の夕方にはニュクスと入ってるんで」
「いいよ。じゃあ明日で……いい」
「そうか。それじゃあ、明日でいいのなら、明日にしよう。で、僕からも恋に頼みたいことが有る」
「ん?」
「エリザの保護を、頼みたい」
「わかったよ。でも、登校時は大丈夫でしょ」
「ああ。でも、下校時はこの前は結構夜まで残ったこともあるから、保護と監視をお前に頼みたい。……そして、お前にも対処できない事になったら、僕に電話をくれ。そしたら急行するから」
「そ、そっか。……じゃあ、朝飯にしようか」
「ああ」
物置部屋を出て、僕と恋はリビングに戻る。戻ると、リビングには媚薬入のカレーが皿に盛りつけられていた。だが、僕が席に着く前にニュクスが、言っていた。
「――媚薬は、抜いておきました」
と。魔力を使ったのかな? ……それとも、これがインスタント、という可能性も考えられる。……信用性はゼロじゃないが、もちろんハンドレッドでもないが、信じなければ何も始まらない。ここは信じるという選択をすべきだ。
「いただきます」
スプーンを持ったエリザが、一番初めにカレーに手をつけていた。そして皆、エリザに続けとばかりに、スプーンを持ってカレーを口に運んでいく。
旨い。それに、変にクラっと来ることもないし、本当に媚薬を取ったみたいだな。……やっぱりこれインスタントじゃねえのかな?
味では分からなかったけど、ニュクスの体調がおかしくなればそう考えられることも間違いない。
まあ、ここは様子見が一番か。それに、後で恋に『ニュクスが食べてた』とメールを送っておけば、若干のダメージはあっても、万事解決だろう。
全て万事解決という訳にはいかないけど、僕はそれが最適な手段だという結論に至った。まあ、食べながらメールを打つのは結構難しいので、食べ終わってからメールを送ることにしたけどな。
それでも僕は、恋にメールを送るのは『確定事項』だと脳内採決をしておいた。




