Target:Ren and Elisa +α./episode69
「おお、凛君さっすがあっ!」
会長の声とともに、小鳥の鳴き声が聞こえる。……日も暮れ始めた午後4時50分。流石に2日も連続で会長の家に泊まるわけには行かないと思った僕は、会長の家においてあったベース、要は僕の使用したベースを会長の返却し、恋もキーボードを返却した。エリザはボーカルのため、マイクのみだったし、イブリースもギターを返却していた。
「……流石、魔力は凄いわ」
昼飯を食べて、その後4時間弱で僕は1番を完コピしたわけだ。……めちゃくちゃしんどかったぞ。……なんでこんなにまで頭は使うし、身体は動かすし。本当疲れた。まあ、3時くらいに抹茶のアイスを4等分したわけだが、本来ならそれは会長、いや会長と僕のぶんだったやつだからなあ。やっぱり4等分では少々物足りないものだ。
「――さ、帰るか」
恋とエリザにそう話しかける。そして僕は、イブリースを魔法陣に戻して帰り支度を始めた。
「泊まっていってもいいんだぞ?」
「まあ、そういう御恩は素直に受け取りたいんですけど、生憎『ツンデレ』が居るので」
「ああ」
ちらりと恋の方を見る。
「何」
「察しろ……バカ!」
我ながら気持ち悪いなあ、と思いながらもそう言ってみた。……要するに危険球を投げたわけだ、僕は。しかも自分でわかっていて、狙ってしたのだから本当にたちが悪い。
「……キモい」
ほら、言われた。……思っていた通りの反応だからいいか。
「狙ったからな」
「うわあ……」
「なんだよ。ま、帰るぞ」
「はあ。……で、夕飯なんか有るのかな?」
「有るんじゃねえか? ま、無ければ無いで適当に作ればいい話だろ」
「そうだね」
恋がそういったところで、今度は会長に話しを持ちかける。
「……んじゃ、会長。さようなら」
「はいよー。あ、また出動要請出したら凛君の家に行くんで」
「部屋に突入してくるわけですね、わかります」
「ああ、そのとおりだ。分かってくれて有難いよ」
「有難いんですかねえ……?」
「少なくても私にとっては、……ね」
「……。じゃ、また学校で」
「もしくは凛君の部屋で」
グッジョブ、と右手の親指を上に上げ、会長は左目を閉じてウインクをした。
「……じゃ、行くぞ恋、エリザ」
「はーい」
「ほーい」
そうして会長の部屋を後にした時、すぐに咲希さんが廊下に居た。そして、咲希さんに連れられるがまま、車で送っていただけることとなり、お言葉に甘えて僕ら三人は車で家へと戻っていった。
***
「……ただいま」
一日ぶりの帰宅……か。11月30日だ。明日はもう12月なんだよな。時の流れは本当に早いものだ。
玄関を上がり、リビングへと向かう。丁度テーブルの上に、姉ちゃんの文字……いや、美来の文字とみられる文字でメッセージが書かれた紙が上がっていた。
『生徒会長の家に泊まりに行く変態のお兄ちゃんへ
うちのバカ姉がまたやらかした。
カレーに媚薬つっこんだってよ。……あ、このことは言わないでね?
あと、一応姉ちゃんはバイトに行ってます。私はお兄ちゃんに犯されるのは嫌なので、友達の家に泊まりに行ってます。……零奈ちゃんですよ、悪いか。
まあ、お兄ちゃん、今夜はお楽しみになりそうですね。
ハーレムの中心で末永く爆発しやがれ。
by 親愛なる妹より。……キモ』
何書いてるんだ、こいつ。……頭イッてるだろ。第一、何が『媚薬』だ。会長に続いて、姉ちゃんもやりやがったのか……。
頭を抱える僕。ふと、その手紙の裏を見てみると、今度は姉ちゃんの文字でメッセージが書かれていた。
『本当に凛は変態さんですねー
媚薬を近隣住民に貰っちゃったので、消費して貰いたいと思います。
女の子は大切に扱わないといけないけど、凛なら大丈夫だよね!!
……取り敢えず、媚薬で人生狂わさないように。
あと、私は犯されたくないのでバイト行ってきまーす
by 姉ちゃん』
ふざけんな。……つか、基本的に美来の文章って姉ちゃんのに沿って書いただけじゃね? てか、それ小学生でもできる事じゃね? ……何やってんだアイツ。しかも、『親愛なる』って文章書き加えたくせに『キモ』とか文字いれているし、本当アイツは何考えてるんだか。……好きなモノが腐っただけじゃなくて、頭まで腐ったのかアイツは?
「ねーねー。ダーリンどうしたのさー、そんなに髪の毛ワシャワシャして」
「い、いやな、何にもない……」
「嘘だー」
嘘ですよ、悪いか! ……でも、とてもじゃないけど『媚薬入りの夕飯作ったんだ』とか、『作ってあるんだ』とか、言えるわけなくね!? エリザはともかく恋は誤解しちゃうだろ……恐らくじゃない、絶対だ。
「ほ、本当に何もない……から」
「ほんとー?」
エリザはそう言うとテレビを付けてソファに座って寛ぎはじめた。
「ねえ、凛。カレー作ってあるけど、伝言とかある?」
ギクッ、と僕の身体に電流のような感じが走った。これはちょっとまずい状況になってきたんじゃね? やばい状況になってきたんじゃね?
「……特に何も?」
「えー。昨日の夕飯も今朝の朝食もカレーじゃなかったのに。……ま、いいか。じゃあこれ熱加えとくね? 火通ったら、ちょっと早いけど夕飯にしよう」
「そか。……しっかしまあ、本当お前は『嫁』みたいな感じだよな。『メシマズ嫁』より『メシウマ嫁』のほうがいイイと思うけど、お前は後者だし胸大きいし、どっかの財閥の男と結婚するんだろうな」
「財閥の男か。……まあ、お世辞なんだろうけどありがたく受け取っておくよ。で、一つ言わせていただきたいんだけども、私『恋愛音痴』じゃん?」
「恋のくせに」
「だからやめろ。それまじで傷つく。……私豆腐メンタルなんだよ?」
「嘘つけ」
「いや、割と本気で言ってるからね?」
「……え」
「12年来の仲なのに……」
「……し、知らないことも有るよ?」
「嘘つけ。知ってただろ」
「……はい」
「よろしい。……じゃ、風呂でも沸かしておくか」
「まだ夕方の5時半だぞ?」
「いいんだ。5時半でも、全然いい」
「いや、僕が嫌だから」
「でも、どうせエロゲしかすること無いんでしょ?」
「まあな。特にそれといった課題も出ていないし。それこそ、文化祭とかだって7日も先の話だ。……でも、風呂だけはこんな時間から入りたくねえよ」
「別にいいじゃんか」
「えー。……じゃあカレー温めて、食べて、そして寝ようか」
……寝る? ……寝る、だと?
「どうしたの?」
「いや、なんでも……」
「そ。んじゃ、作るね」
「おう」
「ゲームでもしてれば?」
「今はする気がしないからパス」
「そ。……じゃ、5分くらいでいいだろうから待ってろ」
「……おう」
そうして僕は立っているのも何なので、エリザの隣に座る。すると、すぐにエリザが僕の方に倒れてきて、最初は膝の上に倒れてきたのだが、すぐに顔を僕の股間の方に近づかせてきて……って、この体勢はアカン! アカンぞ!
「ダーリン……えへへ」
くそかわええ。くそかわええ。……大事なことなので二回言いました。
なんなのさもう。なんでこういう時に照れるんだこいつは! 頬を赤く染めて、瞳をうるうるさせて。……一応上目遣いだ。自分で言うのも何だけれども、これはもう落ちないはずがない。……僕が攻略されてどうするんだって話だけどな。
「……ねえ、ダーリン。耳かき……してほしいな……?」
「耳……かき?」
「う、うん」
「……わ、わかった。でも、リビングには綿棒ないよ?」
「大丈夫だよ。あるから」
「え?」
エリザが起き上がり、テレビの下から救急箱を取り出して持ってきて、そして再度僕の膝の上に寝た。
「いや、救急箱の耳掻きは僕の部屋に……」
「いや、入ってるよ?」
「え」
本当だ。エリザの言うとおり、救急箱の中に綿棒の入れ物ごと入っている。……あれか? 僕に言われてさり気なくこういう家庭的なことに熱心になってきたのかな?
「ま、これでやっていいんだな?」
「いいよ。……だってさ、流石に1週間も耳掃除してないと、汚くなってると思うし。……どうせ頼むんならダーリンに頼んでやってもらいたいし」
「……なにそれ」
「なんでもないよ」
「……じゃ、やらせていただきますか」
ちょっと強引にエリザの顔を横向きにする。
「――自分の股間の方に私の顔を向けるとは、ダーリンは変態か」
「そういう訳じゃねえから」
「……嘘つけ」
「いや、本当そういう訳じゃないからな? な?」
「……ふーん」
エリザはそう言うと目を閉じて受け入れる体勢を整えた。……って、意味深なことを僕は言ってるんじゃねえっ! ……しかしまあ可愛いわ、エリザは。耳が見えないからちょっとエリザの髪をイジるわけだが。
「……う」
本当、仕草の一つ一つが可愛いんだよな。
救急箱の中から綿棒の入った入れ物を取り出し、そこから一本綿棒を取り出す。そして、それをエリザの耳の中に突っ込んでみる。
「ひゃっ!」
突然入れたからか、エリザは身体をビクビクさせていた。
「……変な声出すなよ」
「びっくりしただけ」
「何かエロかったけど?」
「私はそういう女だからね」
「……そそそ、そか」
「そそそ、そだ」
「いや別にそういう風に返さなくてもいいけど。……で、どうですか?」
「痛くないよ?」
「綿棒だからね」
「耳かき棒よりはいいね」
「だな」
耳かきされているときは結構気持ちいいってのは確かに僕も分かるけど、流石に綿棒淹れられた瞬間に身体をビクつかせたりとかさ、そんなことしないだろ、普通。……エリザは結構エロいくらいだからいいのかな?
「気持ちいい?」
「……ダーリン、そういうのはマイナスじゃないの?」
「いやいや、意味深な方じゃないから! ……やっぱりお前エロ担当だよな」
「なにそれ」
「だってさ、綿棒いれられて『ひゃんっ!』とか言ってる時点で、普通ならならないことなんだし、誘ってるってことだろ? だからイコールで『エロ担当』に通ずるじゃんか」
「別にエロいことが好きな訳じゃないんだけどね」
「嘘つけ」
「いや、本当だよ?」
まあ確かにそれは言えてるのかな? エリザは恋よりまだマシか、やっぱ。なにせエロゲは未プレイだからね。恋なんて、暇さえあればエロゲをプレイしてる人間……いや、それは愁だな。でも恋はエロゲをプレイしているのは確かだ。とはいえ、僕の貯蓄財産しかプレイしないのがあいつの考えらしいけど。
「……耳垢、他に残ってる?」
「大丈夫ー」
「じゃあ反対を向け」
「ダーリンが居ないと怖い」
「お化け屋敷じゃないんだから……。それとも、レイプ受けたからトラウマなのか?」
「それも、あるかな」
「他に何かあるのか?」
「……思い出づくり」
「え」
「小さいころの記憶、無いんだよね?」
「ああ。確かに、小4までの記憶が僕にはない。……それがどうした?」
「昨日、ダーリンがいないダーリンの部屋で、恋から聞いた」
「何をだ?」
「2004年12月12日、ダーリンは交通事故に遭ったんだって」
「……え?」
初耳だった。エリザも、決して知っていたわけではないらしく、あくまで恋から聞いたことをそのまま僕に話しているだけのようだ。
「三宮駅前で燥いでいたダーリンと恋、そして愁、梨人は話に夢中になって駆けていたんだってさ。そして、昼の12時半……轢かれたらしい」
「何にだ?」
「車、いやトラックだったけかな」
「トラック……か」
「うん。でも、決してダーリンだけが轢かれたわけじゃなかったんだって。恋も、愁も、梨人も轢かれたそうなんだって。……でも、恋、愁、梨人は軽傷だった。ダーリンが守ったんだよ。でも、その代償として記憶が消えた」
「そんなことが、8年前に……」
「そりゃあ、私だってその時はドイツに居たから分からなかったよ」
僕だって知らなかった。自分が記憶を失った本当の原因を。今までは、「記憶が無い」ってことを、事故で記憶喪失した訳じゃないって親に言われてたし、姉ちゃんや美来、もちろん愁や梨人も言ってたから、それが共通神式だと思っていた。それこそ、「お前は記憶力無さ過ぎなんだよ」とか言われていたのにもかかわらず、その裏にはそんな事があったとは、思いもしなかった。
「……記憶喪失か」
「うん。……だからさ、それまでの記憶がダーリンには一切ないんだよ」
「そんな風に皆言ってなかったから、ただただ記憶力がないだけだと思ってたんだけどな、僕は。……でも、事実を知ることが出来てよかった。けど、なんで12月12日じゃなくて11月の終わりに言うんだ?」
「……確かに、ダーリンの誕生日に言うのもロマンチックだから一案だけどさ、私はそれ目当てじゃないよ。ダーリンとの思い出を作りたい、ただそれだけなんだ。……わかってほしい、な」
「そうか。……じゃあ、思い出いっぱい作ろうな」
「誕生日までには、一杯作りたいな……なんて」
「お前はもう誕生日迎えただろ」
「勤労感謝の前の日にね」
「だな。……てか、覚えたのかよ?」
「うん! ……ダーリンは日本で暮らしてるし、私も日本国籍取りたいから」
「そか、じゃ頑張れ」
「うん!」
と、そこへ恋がカレーを持って運んできた。
「……夕飯、出来たぞ」
「カレー美味そうだな。……はっ!」
「どうした?」
「い、いや何も……」
誤魔化して、なんとか潜り抜けるのだが、やっぱりダメだ。こんなんじゃ絶対どこかでバレる。……いや、媚薬だから身体に出るしさ。
「んじゃ、ちょっと早いけど夕飯食べようか」
「お、おう。……じゃあエリザ。残りはご飯食べ終わってからでいいか?」
「耳掻き?」
「ああ」
「別にいいよ」
「そか。じゃあ、それなら、そうさせてもらうぞ」
「うん」
綿棒をゴミ箱にぽいっと捨てる。そして、僕の膝の上に寝ていたエリザが起きて立ち上がると、そのまま自分の席へ向かった。僕も、エリザの後に続いて自分の椅子へと向かう。
「――頂きます」
手を合わせて、僕らは少し早い夕ご飯を摂り始めた。11月の最終日の夕飯は、媚薬入りのカレーライスだった。
11月13・14は、テスト勉強に全力を注いだので、小説更新できませんでした! なんで、2日分埋めるべく、明日明後日ハイスペースで更新していきたいと思います! ……でも最近寝不足……って、そんなマイナスなこと考えちゃダメだぞ、俺!!
では、今後とも宜しくお願い致します!
感想もぜひ、お待ちしております!




