Target:Ren,Rina and Elisa +α./episode68
朝8時前。……僕はなんて時間まで寝ていれば気が済むんだ、全く。隣に会長……何故かマドレーヌまで居るし。ま、昨日も居たしな、東條家は。
「しっかしまあ、あんなに僕に向かって色々と言っているくせに、やっぱり恋みたく、寝ている時だけは可愛いな……。恋も黙ってれば可愛いのに」
「――あ?」
「……なっ」
恋の姿がある……だと?
「何だよ凛。何が『寝てる時だけは可愛いな』だよ。『可愛くねえ』だろ?」
「そうか? つかさ、お前すぐにお菓子に食いつくよな」
「なっ……」
「それに、風邪引いて顔真っ赤になって、人の世話なしじゃ何も出来なかった時、めちゃくちゃ可愛かったな。もう、今すぐにでもお持ち帰りしたい、みたいな」
「変態かよ」
「やめて。昨日散々会長に言われたから、これ以上僕を傷つけないで!」
「……はあ。ま言っとくけど、その隣にいるのは会長じゃねえ。ニュクスだ」
「え?」
「――凛、お前寝てる間にニュクスとキ、キスしたらしいじゃねえか!」
「……は?」
いやいや、わけがわからんぞ、これは。そもそも、ニュクス自身を召喚させた覚えはないし、主人の許可なしじゃ悪魔は召喚できないだろ……。
『いやあ、それがですね』
そういう冒頭で始まる話を始めたのはノームだった。そして、心の会話を続ける。
『どうした?』
『いや、昨日マスターと色々有ったじゃないですか、ニュクスさん』
『ああ』
『それでですね、あの結果、愛情度が90%超えたらしいんですよ。そのこともあってですね、彼女はついに、主人の許可なしに自身で召喚できるようになったようで。……いやあ、早くマスターの許可なしで召喚できるくらい、マスターとお近づきしたいです』
いや、お前は『男』だろ。……めちゃくちゃ中性的だけど、君は男だ。
『酷いこと考えますね、マスターは。……ま、僕はこれで失礼します。因みに、イブリースさんはもう会長さんとエリザさんと練習始めたそうです』
『つまり、僕が『最後』ということか?』
『そうですね。……あと、寝てる間にニュクスさんにキスしたそうなので、今のニュクスさんは悪魔じゃないですから、取り扱いというか、まあ悪魔だから、とか思わないでくださいね? 『元悪魔』ですよ、彼女は。『悪魔』じゃないです。戻したければ『キス』すれば大丈夫です』
『わかった。……んじゃ、僕はエリザや会長、恋と一緒に練習をして来る』
『分かりました。それじゃあ、またー』
『おう』
心の会話を終える。すぐ隣にはニュクスとマドレーヌがいる。……マドレーヌはこんな時間まで寝ているようなお嬢様キャラなのか。……しっかしまあ、彼女もまた貧相だなあ、胸が。エーか? ダブルエーか? トリプルエーか? ……でもまあ、彼女に聞くわけにも行かない。いっそ、恋に聞くか。
「なあ恋」
「なに? 練習行くよ、早く支度しなよ」
「いや、その前に聞きたいことがある」
「……何?」
「お前は『豊胸』だからいいかも知れんが、この女に『お前の胸のサイズどれくらい?』って聞くと、どういうエンディングが見えるか予想してくれないかな?」
「……死ね」
罵倒された。……いいだろう。そっちがその度胸で来るのなら、こっちもこっちでこいつに吐かせてやる。僕に言われて思ったこと全てをな。
「ほ、本当に言うだけでいい。他のことは何にもしなくていいんだ」
「そんなこと言って、他人の胸に『豊胸』とか言う凛は何なんだろうな?」
「……お前Dあるんだろ? ……マドレーヌは絶対Aかその下だろ?」
「やめなさい」
「巨乳はいいよな、走る時プルンプルンって揺れて」
「でも、私基本的にサラシ巻いてるから揺れないよ?」
「……お前は親譲りなんだな。つか、サラシ巻くくらいならさ、もっと男っぽく生きろよ! 『男装』して生活してみろよ!」
「いや、それは二次元の世界……」
「リアルも二次も関係ないわああああっ!」
「……うわあ」
マジで引かれたな、今。……悲しいぞ、僕は。この状況が悲しいぞ。
「ま、ま、まあ、その……だな。さっきの発言は撤回を……」
「……受け入れないよ?」
笑顔でそう返答する恋。こいつには『考えを変える』という事が考えられないのか。しかしさ、本当恋は今思うと『負けヒロイン』みたいにみえるよな。『幼馴染』『黒髪』『世話焼き』。ほら、負け属性ばっか。というかさ、幼馴染属性って基本的に負けなんだよ。負け。……エロゲなら負けないんだけど、ラノベだと殆どの確率、90%くらいの確率で負けるからなあ。
それに、そこに『ツンデレ』なんていう属性とかつけて、そして『ちょっと力が強い、言葉がキツめ』なんてことが関わってくれば、完全に『負け』だぞ、マジで。……でもまあ、同じ幼馴染でもエリザの方にはまだ救いがある……のかな?
でも、エリザは『転校生キャラ』だろ? 『茶髪』だし、『外国生まれ』だし、まだまだ日本の文化を全て知っているわけじゃないし。それこそ家事も得意じゃない。世話やきもあんまりしないし、常時甘えてくる感じだ。
なんて言うんだろう。エリザは、『妹』みたいなんだよな。だから、実妹である美来が『実妹じゃない』ように見えて、逆にエリザが義妹に見える。
そりゃ髪の色違うし義妹と義兄じゃないと困るわな。
「――言うべき?」
「ああ」
「……起きてないよね、この子」
「ああ、お前こいつの名前知らねえのか」
「うん。マド……なんとかさんでしょ?」
「イ●なんとかさんみたいに言わないで。後で海から侵略しに来た水色の髪の毛の女の子と似てるって言われるから。やめて」
うるうると上目遣いで恋を見てみる。
「……うっわ。キモ」
「マジでそれ傷つくから」
「傷つくのは普通だろ。傷つかせてるんだから」
「……酷いなあ、本当。……で、早く言えよ」
「ああ。……恐らくAAだと思うよ? ……凛のお姉さんより小さい」
「ほらまた自分が巨乳だって自慢した」
「なっ……」
自慢してない、自慢してないと手で顔を隠してブンブンと手を左右に動かす恋。でも、そんな事で隠れるはずもない。……でも、そんなことをしている恋が可愛いようにも思えてくる。……『デレ』だろ、どうせ。
「ほほ、ほら行くぞ!」
「なんでそんなに動揺してんだ?」
「どどど、どう……」
「……ていちゃうわ!」
合わせてみる。……あ、やばい。今ギロっと恋にこちらを見られて睨まれた気がするんだけど……。あれ。この状況、結構まずいんじゃ……。
「私は女だっ!」
「ちょ、何、お前何処掴んでる! や、やめ、やめろって!」
掴まれたアレ。アレを掴まれてしまうと、結構ヤバイな。痛い。普通に痛い。これ以上の痛みは地球上の何処にもないような痛さだ。それこそ、潰されたら死ぬぞ。事実、どっかの国……いや、色んな国で死ぬ事件が起きてる。
「人のアレを触るな!」
「『アレ』とか変なふうに言うなお前は!」
「え?」
「バカ! 『アレ』なんて言われたら……その、えと、お前が考えてること考えるだろ!」
「僕が考えてること?」
「そ、そ、お前のアレのことだよ!」
「アレ? ……うーん、何のこと?」
「恍けるな貴様! ……ああもう、行くぞ! 行くぞ! お前を連れて行くぞ!」
強引だなあ、と思った時、気がつけばもう廊下に来ていた。ジャージの襟を掴まれたまま、僕は会長の豪邸の床を引きずられていった。
ただただ、ジャージの襟のことを『アレ』と言っただけなのに。過剰反応し過ぎなんだよ、恋は。そのくせ、エロい単語めっちゃ知ってるんだろうな。
***
「連れてきたっす」
「でかしたぞ、恋ちゃん!」
「いえいえ。こいつ、寝起きのままなんですよ。……てか、ジャージで寝てたって一体……。その、こいつケダモノにならなかったんですか?」
「なってないね。私は少なくともそれを『見てはいない』。もしかしたら、隣で寝ていたマドレーヌが知ってるかもしれないね。……ま、そういうことは後々に考えることにして」
「そうですね」
恋がうんうん、と頷いた後、会長が指揮をとったのはいいものの、僕がベースを弾けないのを思い、それについて聞いてくれた。
「じゃあ、皆配置につけ! ……で、凛君は、弾ける?」
「……無理です」
「……仕方ないね。魔力を使おう」
「え?」
「ニュクスを召喚させておいたはずだ。連れて来い」
「……あの」
「ん?」
「ニュクスが朝起きたらすぐ側で寝ていたのって、もしかして……」
「私が召喚させておいたんだ」
「貴方の仕業でしたか、会長」
「ああ。……で、早くしてくれ」
「いや、その……」
「ん?」
「……ニュクスが今、人間の状態でして……」
「キスでもしてこい。そして、悪魔の状態に戻してこい」
「はあ……」
僕はため息を付いた。だが、会長はやれやれ、と思っているから何も問題はないと思っているようなのだが、後ろの二人、特に恋が何かを言いたそうにしていた。なので、僕は恋に振ってみた。少し、恋が何を言いたいのかわかっていたのは事実だが。
「……恋。何でそんなに何か言いたそうな顔しているんだ?」
「いや別に……」
「まあそうツンツンすんなよ」
「こ、こらやめっ……」
近づいて恋の頬をツンツンしてみる。
「何して……」
「いや。何かお前が言いたそうだったからさ、言えよ、って意味でつんつんって頬を」
「……そういうのは彼女にやれよ」
「幼馴染だろ。12年来の長い付き合いじゃねえか。いいじゃん別に」
「……お前そういうキャラ……だからつんつんすんな!」
いいわ。殴ってこないのがいいな、本当。いつもなら殴ってる幼馴染が、今日は殴らないとはな。……ただ、僕はこれくらいのほうが好きだ。殴られて喜ぶようなドの付くMじゃないし。むしろSだし。
でも、恋が風邪引いた時に蹴られてちょっと嬉しいな、と思ったのは隠したい事実だ。……ホントマジであれは一生の不覚だ。
「だ、だからやめろってば……痛いから」
「ごめっ……」
いつの間にか頬をつんつん、ではなくて引っ張っていた。人差し指と親指でつまんで。特に顔を真っ赤にしているわけではないものの、恋の瞳にうるうると涙が溜まりだすと困るしね。こいつ、力は強いけど心はそんなに強くないしね。会長が前に言っていたことを今、思い出してみるとやっぱり恋はそうだなあ、と思う。
「バカ凛」
「わ、悪い……」
謝るのはいいのだが、後ろで見ている二人……いやプラス悪魔が1名がこちらを睨んでいる……いや、なんだ? ちょっと空気が重たいんだがこれは……。
「ねえ、凛君」
「……な、何ですか会長?」
「……公の前で堂々とよーく、そんなイチャイチャ出来るね、君は」
「……し、し、嫉妬ですか?」
「嫉妬じゃない。生徒会長として、君を更生するだけだ」
「れ、れ、恋愛とか別に……。てか、恋は彼女って訳じゃないし……」
「『恋』って感じもそうだけど、読みに関しても『恋愛』に繋がってるよね」
「あの、会長それは……」
「え?」
触れちゃいけないところなんだけどな、それ。どうしてそういう名前になったのか、それに関しては僕もわからないけれど、聞くべきなのか? ……けど、いつもいつも、『やーい、恋愛音痴の恋さーん』とか言うと、怒るし。
「……あの、会長さん」
「な、何かな?」
「……その、恋愛についての話、聞きたいですか?」
「ど、どういうことかな?」
「……名前の由来、といいますか」
「ああ。……聞いてみたいかな」
恋は会長の答えを聞くと、決心したようで、咳払いした上で話をはじめた。
「……今、私の両親は死んでいます。もちろん、私は両親から産まれました。……でも、私の両親って悲しい過去を持っていたんですよね。……恋愛はいっぱいしていたのに、誰かに付きまとわれたり。
それこそ、エリザがつい一昨日くらいにレイプされて悲しんでるみたいに、私の母親はレイプで悲しんだそうですし、父親だってレイプは受けませんでしたが、彼女を作ることを制限され、ゲームも出来ず。……父親はそういう人生を送っていました。
だから、誰か一人に、本当に惚れ込むことで恋愛ができる、そしてその恋愛の大切さをわかってほしいということで、両親は『恋』って名付けたと聞いています。……本当は、『恋』って漢字じゃなくて、『可憐』になるはずだったそうです。でも、両親が『恋』って漢字を選んでくれて」
「……壮絶というか、何というか。……でも、恋ちゃんも色々な人生を抱えていたんだな。私も抱えてるんだぞ、一応。……こんな豪邸に住んでるだけ、色んな人に『金持ち』ってバレないようにしないといけなかったし」
「でも結局、私とか凛、エリザにもバレてるじゃないですか」
「まあね。それでもいいんだ。……大切な人だから」
「いいこといいますね、会長さん」
「そうだろー。だから、副会長の凛君に『会長』と呼ばれているんだろうな」
いやそれは違う、という思いで僕が途中に割って入る。
「……別に『里奈』と呼ぶのをためらっているわけじゃないんだよ。……『会長』の方がいいやすいからさ。それでそう言ってる」
「そうだったのかー」
「ま、年齢は会長のほうが下ですけどね」
「悪いかバカ」
「悪く無いですよ」
僕がそういった時だった。僕の背中に、何やら人肌の温もりを感じた。
「いいなあ。会長さんも、恋も、皆。ダーリンと、色んな思い出持ってて」
「……あのな、言っとくけどな、僕にだって思い出はちょっとしか無いんだぞ?」
「え?」
「小4からの記憶しか無いんだ。……それより前の記憶が無い」
「それでも、羨ましい。だって小4から計算したとしても、会長さんとは3年、恋さんとは8年も付き合いがあるんじゃんか。……私なんて、ドイツにダーリンが居た期間しか思い出ないし。……だから、羨ましいんだよ?」
「え?」
「私とダーリンとの思い出なんて、ほんの一つや二つだし……」
「仮にお前と僕との思い出がなかったとしても、まだ高校生だぞ? こんなところで思い出を『もう作れない』とか、ネガティブ思考になるなよ。頬つねるぞ」
「いいよ、つまんで?」
「お前はMか?」
「ダーリンがMなら私はどんなSをなことでもするし、Sなら私はMになるよ?」
「……マジか」
「うん。だって、ダーリンがお嫁さんを作っても、赤ちゃんは私が産むから」
「……あ、あの、まだそれを言っているのですか、エリザさん?」
「うん!」
頭を抱える僕。ただ、エリザとの会話はそう長かったわけではなかった。丁度、会長が話を逸らしてくれた。やっぱり、会長はこういうことろに気が利いていて凄いなあ、と思う。
「――さ、練習だ。ここに楽器は揃ってる」
「やりますかね」
「待て」
右手を出して会長が僕を止める。まるで僕を犬のようにして扱ってくるので、僕のプライドが許してくれないのだが、それでもまあ、これでも気が利いていると言っていいだろう。てか、いっつもこんな感じだしな。責めて責められる、そんな感じだ。
「ほら、ニュクスとキスしてこい」
「ちょ、なっ……」
「幼馴染の頬をつねれるんだ。いけ」
「……わかりましたよ、もう」
折れる形で、僕はニュクスの元へ向かっていった。




