Target:Rina and Madeline./episode67
11月30日午前0時30分。会長とともにパーティーに参加していた僕は、『未成年はこれで終わりだ』と玲紀さんに言われて、部屋に戻された。淳さんに、「何時まで本当の夜会は続くんですか?」と聞くと、淳さんは「3時?」と首を傾げて答えていた。……3時か。そんな遅くまで、僕は体力もつかな? それこそ明日、『楽器の練習とかしよう』とか言われたら、体力がない状況では話にならない。
「――あの、里奈様」
「いいよ、会長って呼んでも」
「じゃ、じゃあ会長!」
「なんだね?」
「日曜日、練習とかって予定組んでましたっけ?」
「予定組んでた気がするけど……」
「ま……まじですか」
「ああ。確か組んでただろ。ほら、早く寝るぞ」
「でもお風呂……」
「なっ、ばっ! ……凛君、もしかしてボクの裸体を見たいのか?」
何を今更。前に僕が会長の豪邸に泊まった時、朝起きたら裸体のボクっ娘がいてびっくりしたというのに、何を今更……。
「まあ、見たくないって言ったら嘘になりますけど……」
「そ、そ、そ、そうか! そ、そ、それなら、だな……」
「なんですか?」
「『デート』をしないか?」
「家デートですか。……でも、もう夕飯食べましたし、これから夜食をとてしまうと、これまた大変なことになるんじゃ……」
「それくらいボクも重々承知だよっ! ……家は広いからね。今日は、まだ料理人さんたちは仕事に負われているだろうし、流石に料理室に入るわけには行かないけど、ボクは用意周到だから、部屋に冷蔵庫があるのだ!」
「……何か冷えてるんですか?」
「うん。確かアイスが2つくらい余って……」
床の板の下に、その『冷蔵庫』はあった。会長がカーペットをめくり、その場所を教えてくれると、会長の力では到底開かないらしく、僕が手伝ってあげた。まあ、これでも昔は恋と対等にバトルを出来たからな。女っぽいって言われてるけど、それなりの力はある。
「あの、アイス1つしか無いんですけど……」
「え……。じゃ、じゃあ分けて食べようか!」
「付いているスプーン1つですよ? ……間接キスになりますよ?」
「……期待しているくせに」
それは危険球だろ。僕は何も反論できなかった。まあ、ある意味で期待していたんだろうな。これほど『ボクっ娘』で『世話焼き』で、『暴力も振ることもない(一部除く)』ような女だ。それに、テンションも高かったり低かったりして、いじり甲斐があるし、偶にイジられても悪い気分はしない。
「……図星か」
「わ、わ、悪かったですねっ!」
「別にボクは、君にそういうことを言って欲しいわけじゃないんだ。決して、ボクは君に謝罪を要求しているわけではないしね。……まあ、いいんじゃないかな? アイス一つを一人で食べるより、二人で一つ平らげたほうが、カロリーも減るし、摂取する量も減るし、寝る前だからいいと思うよ?」
「……それならそれでいきましょうよ。正直、僕はあんまり太らないんでね」
「そ、それはボクを見下していると認識していいんだよな!?」
「見下してないのに。……まあ、巨乳でほっそりしている人なんて、ごく少数ですし。会長が太って、その胸の大きさを大きくされても嫌なので」
「……凛君は本当、心を開いた相手には、そういうエッチな話を直球でぶつけるよね」
「それが僕ですから。そこに痺れて憧れてください」
「……名言?」
「はい。……ところで」
「なんだ?」
「お風呂って混浴ですか? それとも……」
「こ、混浴だぞ。女湯と男湯で分かれてるわけ無いだろ? 家は豪邸といっても『銭湯』じゃないんだからな。それに、タオルしていれば大丈夫だぞ」
「……へ、へえ。……じゃ、じゃあ、寝る所は?」
「この部屋だぞ。一応、凛君はまだ『私の執事』だからね」
「執事と一緒に風呂はいることって何か意味あるんです……」
「あるよ? ……執事とのスキンシップとかさ、それこそ『守り番』みたいな」
「……タオル一丁で『守り番』とか、会長も随分と酷いこと考えますね?」
「そういうもんでしょ」
「そういうもんじゃありません! ……それに、どうする気ですか?」
「え?」
「僕、パジャマなんて持ってきていませんよ?」
「……むぅ」
今の声かわいいな。
「ワンモアタイムプリース」
「だっ、誰が言うかバカ」
「えー」
「こういう突発的に言っちゃう事を、何で二回や三回も、何度も何度も繰り返す必要が有るんだ! てか、ワンモアタイムとか言うな! 思い出すだろ!」
「……言えばいいのに」
「言わないからな……」
「はあ。……で、そのですね、流石にこの服で居るのも何か……」
「つまり、それを洗濯して乾燥させればいいのか?」
「ちっ、違います! ……なんでもいいので、服を貸してください!」
僕が交渉に入ると、会長は不吉な笑みを浮かべた。その笑みからは、僕の交渉の本当の内容を理解しているにもかかわらず、それとは別の方向に考えを花咲しているようで、恐らくそれは僕に害のあることだということは、しっかりとその顔の表情だけでひしひしと伝わってくる。
「……このドレス貸してあげる」
「いや、そんな……」
「言っておくけどさ、ボクは夜会の最中、このドレスを着てた。でも、ブラなんか着けてないし、下着だって履いていなかったんだぞ。……ある意味あれだ。その、『使用済み』って事だ。お、男の子はこういうのがその……す、好きなんだろ?」
使用済み……。なんだろう。そう考えるだけで、流石の僕のこの男としての本能らしきものが、心の中に溢れて心が高鳴っていくのが分かる。
少々アレなことを言わせていただくと、会長は夜会の最中に3回程度トイレに行ったし、途中でドレスに飲料を零し、僕……じゃなくて、近くに居たメイドさんに拭いてもらっていた。なので正直な所、会長のドレスからその飲料のニオイがしなくもないんだ。でも、拭かれたので結構落ちているらしく、そう強いニオイという訳じゃない。
「いや、流石に男がドレス着ても……」
「じゃあ、制服貸してあげる」
「……はい?」
「ジャージがいい? ……それとも、Yシャツ一枚とか?」
いやいや、いくらなんでも会長の制服を着ちゃうのはダメだろ。……それ、ただの変態だぞ。街中でやったら職質受けるわ。……でも、声さえばれなければ、僕行けるんじゃね? それで、普通に過ごすこと出来るんじゃね?
……となると、Yシャツは……と来るが、これだけは無理だ。男がワイシャツ一枚で誘うとか、何そのホモビデオ。……それに、会長は『ボクっ娘』だ。決して『男』って訳じゃない。そんなホモ方面に走る人じゃないはずだ。
となればやはりジャージか。……でも、ジャージはなあ。僕は男だが、ジャージが身体の一部擦れてしまったら、ちょっと嫌だ。それこそ、一日着ていたシャツを洗わないとか汚い。でも、洗わないでそのまま着用してジャージと身体の一部が擦れぬようにするのもなあ。……汗かいたのを着るとか。
「あの、会長」
「何さ?」
「……しゃ、シャツも貸していただけないでしょうか?」
「乳首がこすれるから?」
「……会長よく言えますね」
「男のくせに言えないほうが……。でもまあ、本当に凛君は女の子っぽいな」
「やめてくださ……」
「名前もそうだし、髪の毛もサラッサラ。……伸ばしたら女の子だよね」
「ちょ、会長どこ触っ……やめっ……」
会長は、ワインとかでも飲んだのだろうか? ……可能性はゼロじゃないな。ここまで会長が僕に迫ってくることなんて、これまで一回くらいしか無かった。あれか? やっぱりワインが原因なのか? でも、それなら何でさっきまでの会長の態度は全て『作っていた』もの、『抑えていた』ものだというのか? ……けど、ジャージと下着を借りれない以上、着ていたものを付けるしか無いわけで……。それは僕も嫌だ。普通に汚い。
と、こう冷静な事を考えている裏で、会長に色々と触られているのだが、今の会長の手つきが非情にいやらしい。もしかして、飲料に媚薬が入っていたのかな?
「……って、背中に何か当たって……むごっ!」
口に手を当てられ、お腹に手を当てられた僕は、密着してくる会長の『エロさ』と『誘惑』に勝てずにいた。……『煩悩退散!』と、心のなかにある『煩悩』を追い出そうとするものの、簡単に行くはずもなく……。
少しして、会長が僕の口に当てていた手を離してくれた。ようやく、息が存分に吸えると思ったのだが、現実はそういう簡単な話なわけがなくて、やっぱり会長は僕から離れずに、離した手を僕の腹部に当ててきた。さっきから当てている手のすぐ上に。
「あの会長、本当そういう誘惑とかやめてください! またこの前みたいに……」
「……はっ!」
「ちょっ……!」
突然、会長が僕の身体を離そうとしたため、僕はその場に倒れそうになった。が、会長が見ていたおかげで何とか助かった。この時、会長が助けてくれなければ、恐らく僕は顎をベットに打っていただろう。
「――か、可愛いと思ってしまったボクがバカだった!」
「僕が可愛いとか……」
「普通に可愛い! さらさらの髪の毛に、その子供のようなつぶらな瞳! ……欲を言うなら、もっと可愛い声でいいのに。中性的な声でいいのに!」
「……駄目だこいつ。早く何とかしないと」
「ま、まあ、いいぞ? ボクはジャージを貸してあげるぞ」
「あ、有難うございます!」
「いや、別にいいよ、そんな感謝なんて。……だけど、シャツ無しでいい?」
「欲を言うなら……」
「女物のシャツならあるけど。……人のシャツなんて嫌でしょ?」
「嫌じゃないで……あ、つい本音が」
「……変態」
「僕を散々『可愛い』と言ったのは、何処の西條さんでしたっけ?」
「……なっ!」
「まあ、これ以上追求して会長に泣かれたら元も子もないし、いいですよ。行きましょう。人の家で、他人がわがまま言うのはおかしいですから」
「……いい子だなあ」
「あ?」
「こ、怖いよ、凛君……?」
「……ま、見せただけです。んじゃ、風呂場に行きますか」
「エッチなこと考えるんじゃないぞ、変態が」
「ぼ、僕は変態じゃないですからね? ……信じてくださいね?」
「信じるか信じないかはあなた次第、でしょ?」
「ひぃっ!?」
会長が悪い噂を流すとは考えにくいけれど、万が一、流されてしまうとやばいので、一応のリアクションを取っておこう。……あ、逆効果か?
「……でも、信じる」
「え」
「てか、信じなきゃダメでしょ。異性とお風呂とかするならもっと」
まあ、それはそうだろうな。
***
午前1時。脱衣所にて。
当然のことながら、この西條家の敷地内にある『風呂場』の『脱衣所』は男女別ではない。その為、今僕の後ろには会長がいる。服を脱いでいる会長がな。……裸体の上に黒ドレスか。……ちょっとくらいチラ見するならいいよな?
ほらまた僕が『煩悩』によって、大変なことをしようとしている。だから、それしたら僕は『変態』って誤解されるんだよ。……ああもう、とにかく早く僕が着替えないとな。なんで着替えでこんなに時間掛かってんだ。僕は女子か。……最も、姉ちゃんに言われても反論できるが、会長に言われると、ちょっと言い返しにくいよな。……さっきの一件があったから。
「あ、あの会長?」
「な、な、なにかな?」
「た、タオル巻きましたか?」
「ボ、ボクはもうとっくに巻いてるぞ……。そそ、それより凛君こそ……」
「僕ももう巻いてます! ……あ、あのですね」
「ん?」
「でで、出来る限り見ないようにするので……」
「……胸が貧しいから?」
「違いますよ? ただその、会長も恥ずかしいでしょうし……」
「ボクの事なんて気にする必要はないのに。……有り難う」
「それはこっちの台詞ですよもう。……こ、こんなことで時間を取られるわけには行きません。じゃ、じゃあ行きますよ!」
「そんなにテンション入ってると、凛君が女湯覗きに来たエロガキに見える」
「酷いこと言いますね、会長」
「悪いか」
「悪いよ!」
「うーん。……でも、風呂はいらないまま布団に入るのは、そして凛君を布団に入らせるのは嫌だから行くよ! ……あ、凛君はボクに洗ってもらいたい?」
「か、会長……」
「冗談冗談! でもまあ、凛君がどうしてもっていうなら別に……」
「いいです。……と、とにかくほら、行きますよ!」
「きゃっ」
会長の手を引っ張り、西條家の風呂のドアを開ける。……と、風呂に使っていた一人の少女がこちらをちらりと向いた。
「……マドレーヌ?」
「変態! は、は、早く出て行きなさい! Go to home!」
「いや、ホームは言いすぎじゃ……」
「ゴートゥーホーム!」
「ひっでえ……」
そんなことを言いながらも、僕は会長と共に風呂に入った。だが、僕が会長と風呂場に入っていく瞬間に、素早くマドレーヌは抜け出し、着替えてどこかへ行ってしまった。
「……結局、二人きりですか」
「なにその『ヒロイン』が言うべき台詞は?」
「会長って、もしかしてメインヒロインになりたいんですか?」
「サブでいいよ」
「でも、きっと会長はメインだと思いますよ?」
「メタな発言をするな。……ともかく、ボクは疲れた。今日は早く寝よう」
「そうだな」
そんなことを話、互いに別に体を洗った後、僕と会長は体をふき、僕は会長から貸してもらったジャージを着て、そして会長の自室へと向かった。




