Target:Rina and Yuna +α Ⅱ./episode66
今回もまた際どい描写が入ります。ご注意ください。
「やりなさい、蒼月トーレント!」
蒼い瞳に輝きを放つ激流。その激流が蒼月トーレント、という少女を包み込む。
「……ニュクスで闘うしか無いのか」
どう考えても相手は水属性だ。……いや、もしかすると『人造人間』ということで、魔力なんかじゃ倒せないのかもしれない。でも、そんなマイナスな事なんか考えなくていい。今はプラスのことを考えればいい。
――これは攻略じゃない。ガチンコの勝負なんだ。
「ニュクス、召喚!」
ニュクスを召喚する。紅の炎は衰えていなかった。……むしろ、その炎が強くなっているようにも感じる。メラメラ、と音を立てながら燃えるその炎の姿は圧巻である。
「……相手を混乱に陥れるんだ」
「はい、ご主人様!」
両手を広げ、ニュクスはヘッドホンを装着した。そして、技を宣言する。
「ナイトフィーバー!」
「……馬鹿め」
東條祐奈の声が聞こえた。東條祐奈は不吉な笑みを浮かばせると、蒼月トーレントはニュクスの方に向かって動き出した。
「――蒼月トーレントは『人造人間』よ? 何を考えているのかしら」
「魔力じゃ……無理なのか……?」
「それは私に聞くべきではないと思うわ。……それより、私が男などという低層な生き物に、そんな重要な事を話すとお思いで?」
「思ってねえよ。ただ、可能性はゼロじゃないと思ったから確かめただけだ」
「バカね。本当、男っていうのはバカよ。……普通、話を聞いていれば分かるでしょう?」
「……わかったかもな。……でも、僕にはそんなの分からなかったよ」
「そう。つまりそれは、貴方がバカということよ」
「真摯に受け止めるよ」
自分が執事であることをつい忘れ、相手を少々挑発するような喋り口調になってしまった。……いかんな。挑発したら、とてつもない強さの矢が飛んでくる可能性がある。ここは安全を第一に考えねば……。
向こうは人造人間、つまり『機械』を使用しているわけである。対して、こちらは『悪魔』を使用しているわけだ。……向こうは魔力などなくとも、人を殺すことが出来るだろう。だが、こちらは魔力がなくなれば人を殺すことなんて出来ない。それが悪魔、魔族、魔法少年だからな。
「やりなさい!」
蒼月トーレントは両手に剣を構え、蒼色の翼を生やすと、即座にニュクスに斬りかかった。
「ニュクス、避けろ!」
「……大丈夫です。剣くらい……燃やしてやります!」
「え……?」
「ご主人様が傷つく所は……見たくありませんから。ご主人様が悲しむところも、馬鹿にされるところも、見たく……ありませんから……」
そうニュクスは言葉を残すと、今まで黒髪が主だった髪を紅に染め、目も紅に染めて、蒼月トーレントに対抗するように紅の翼を生やした。そして、自ら右手に構えた剣に炎を流し込み、その剣を蒼月トーレントに向かって叩きつける。
「――5000度の高熱を……浴びやがれ!」
その言葉を最後に、ニュクスとの交信は途絶えた。デビルマシンが高熱によって停止したのである。勿論、ヘッドホンから僕の声も聞こえないわけであり、僕の指示は一切聞こえていないわけである。
その高熱は、たちまち蒼月トーレントの水を蒸発させた。水が100度で沸騰するが、その上をいったのだ。金属類は、大体3000度あれば溶ける。にもかかわらず、5000度と言うこともあり、その温度は計り知れないものであろう。
蒼月トーレントの蒼い翼は、上の方から蒸発していき、彼女自身を包んでいた激流も衰え始めた。……今、僕の目の前で灼熱の炎を蒼月トーレントに浴びさせている彼女こそ、ニュクスの中にいるもう一人の女神、『ヘスティア』なんだろう。剣を溶かし、水を蒸発させ、相手を枯渇させる……。その凄まじいパワーは、辺り一面を紅に染めていった。
「……ば、バカな! 蒼月トーレントがこのくらいで負けるはずが……」
動揺している東條祐奈。だが、現実はそんなに自分自身をいい風に見せるわけがない。そして、主人公補正たるものもない。
ニュクスの炎は衰えを始めた。恐らく、魔力結界の中の酸素を使い果たしたんだろう。この魔力結界の中にも二酸化炭素が漂い始めた。
「――ダメよ、蒼月トーレント! 立ち上がりなさい!」
「……男を見下して、自分ばかりが一番だと思っている貴方に買われた人造人間が可哀想です。……諦めたらどうですか? 彼女の動力炉は停止しますよ」
「なん……で。なんで、そんなことがわかるの……?」
「だって、蒼月トーレントが白目をむいていますからね」
「え……?」
これ以上、二酸化炭素が漂い出してしまうと困るので、僕はニュクスに早く倒してしまえと命令を下した。……本当は、こんなことしたくなかったが、相手が玲紀さんを騙した女で、要するにビッチであることを考えると、攻略なんてとんでもないな、と思った故に、僕はその決断を下した。
「……ニュクス、やれ」
「はい、ご主人様」
今、ニュクスの周りを包む炎の温度がどれくらいだかは知らない。けれど、デビルマシンが復活したんだ。だから、それくらいにまで温度が下がったわけである。それは、ニュクスが僕の言ったことに返答したことから分かる。
「フレイムソード……ッ!」
ニュクスは剣を振りかざした。今、蒼月トーレントの周りに激流は一欠片もない。ニュクスの炎で蒸発させたのである。だが、当然蒸発すれば水蒸気が出来上がり、やがては雨がこの魔力結界に降ってくるだろうから、早め早めにバトルを進めて、決着させる事が重要であろう。
ニュクスが振りかざした剣は、そのまま蒼月トーレントの動力炉、つまり心臓に命中した。蒼月トーレントは、その動力炉の部分から溶け始め、徐々に彼女の周りを覆っていた服が剥がれ始めた。当然機械であるから、その機械につけられていた塗料もポトポトと流れ落ちていった。
「……ご主人様……これで……い、いい……ですか?」
「ああ。いいぞ。まだ決着は付いていないけど、蒼月トーレントは……」
目の前には先ほどまでと違う、機械本来の色、灰色で体が作られているものがいた。その灰色の体には、ヒトの体で言う心臓の部分だけが切り取られている形になっていた。そして、未だにその心臓から足のほう、手のほう、顔のほう、様々なところが溶けている。
「……疲れました」
ニュクスが笑顔で言った。疲れているのにもかかわらず、付かれていない素振りを見せているわけだ。5000度なんていう超高熱を放出したら、流石の炎の女神、炉の女神のヘスティアでも疲れが襲うものなんだな……。
ニュクスの髪が元に戻っていった。そしてニュクスは、自ら右手に構えていた剣をそっと僕の右手の隣に置き、僕を見上げるようにその場に座った。
「……あとは、攻略で解決したらどうでしょうか?」
「無理だ。僕にあの『ビッチ』を攻略することは出来ない」
「やってみなければわかりませんよ?」
「でも、なんとなくお前でも予想はついているはずだろう? あの女は、男を見下し、低層な生き物として考えている。つまり、人間じゃないと考えているわけだ。そんな奴を攻略するなら、僕が女になるしか方法はない。ただ、それをするためにはサタンの力が必要になってくる」
「いい……ですよ」
「え?」
「……私の身体、お貸しします」
「……え?」
聞き直したかったけれど、こんなこと聞き直していいのか? それが一体どういう意味であるのか、説明を求めたいところだ。
「……はい、説明しますね」
ああそうだった。今、ニュクスのデビルマシンは復活している。だから、人の心で、もとい主人の心と自身の心でで会話することが出来るわけだ。
「一度合体します。そして、合体解除の時に、私がご主人様の身体を想像しますから、ご主人様は私の身体を想像してください。……そして、元の体に戻るときには私と……キ、キスをすれば、元の姿に戻ることが出来ます……」
イブリースに聞いた話では悪魔から人間になる時、またはその逆の時にキスをしなければいけないらしいが、今回はそういうことでキスをするわけではなくて、『身体を交換するためにキスをする』らしい。
しかしまあ、女の体を想像するのか……。いくら悪魔、いや女神とはいえども、女なのだ。僕の不注意で前に裸体のまま魔法陣に戻した時に、こいつが女だということを確認済みである。変な意味は無いし、変なこともしていないけどな。……まあ、前髪の一部だけが赤色なので、前に恋が寝ているのかと思って間違えたりもしたが、そういうもんだ。
だから、あんまり消極的な訳じゃない。そりゃあ、攻略で全て解決できたらどれだけいいか。……でも、攻略がそんな簡単に出来るわけない。今までのヒロインズはみんなチョロかったかもしれないが、目の前の女は普通に成人しているし、それこそ玲紀さんを振った張本人だ。他の男に股を開いている以上、あの女は、東條祐奈という女は『ビッチ』以外の何者でもないだろう。
「――あの、ご主人様。変なこと考えないでくださいね?」
「はいはい」
「……んじゃあ、いきますよ。……せーの」
「待て。気が早い。僕は決して『攻略で解決しよう』なんて結論を出した覚えはないぞ。……別にいい。目の前の東條祐奈という女を、僕は攻略以外で倒すよ」
攻略で倒すというよりも、攻略でデレさせる、の方が正しいと思うが、まあこの際特にそんな細かいことを考えて時間を取るのは間違いだ。それこそ、早くしないと会長が……。会長が……レイプされる。もしかすると、もうされているかもしれないが、そんな最悪の事態にはなっていないで欲しい。
そう考えると、やはり東條祐奈に話を持ちかけ、じわりじわりと彼女自身の心のなかの闇を解決するのが一番か。
「東條祐奈」
「何よ? ……貴方、男のくせに私をフルネームで呼び捨てで呼ぶ気?」
「悪いな。僕はそんな呼び捨てで東條祐奈を傷つけたくはなかったんだが」
「その主人公特有の語り口調、やめていただけるかしら。本当、アニメも漫画もライトノベルもゲームも、雑誌もテレビも、みんな害悪なのよ。そういう事を制限していないから、更に害悪が広がるの。やめてくれるかしら?」
「そうですか。……へえ、そうですか」
「何? ……他人の機械を傷つけ、壊し、弁償も一切しないくせに」
「それは建前でしょう? どうせ貴方自身は、『機械なんてもう一回作ればいい』などとお考えなのでしょう? ……本当、貴方は股を開くこと以外に何の取り柄もありませんね。それではただの『性処理道具』じゃありませんか」
「……性処理道具? 馬鹿かじゃないのかしら。男なんて、女が居なければ子供を産めないのよ? ……いや、男に子供を産む資格はないわね。悪いわ」
「そりゃあ、男は子供を産めませんよ。産みたければ女に性転換したりでもすればいいじゃないですか。……で、『性処理道具』と『妊婦』は違うんですよ。どうせあれなんでしょう? 貴方、玲紀さんと『金』だけで結婚したんでしょう?」
「……金だけ? ええ、そうよ。男は所詮金よ。それ以外何も要らないわ」
「――最低な人間ですね。そういうクズが増えるから、ゆとりが馬鹿にされるんですよ、全く。……どうせ貴方、ゆとり世代でしょう?」
「ああ? ゆとり? 私がゆとり? ……あり得ないわ。最低よ」
「貴方こそ最低じゃないですか。結婚したら、その相手を愛せばいいじゃないですか。愛せないなら、結婚しなければいいじゃないですか」
「言ったでしょう? 『男は所詮金』って。……私はあの男の子供を作ったことがミスだったわ。あんな男の子供に、私の遺伝子を分けたのが」
「じゃあ、マドレーヌは……」
「うちの娘を呼び捨てで呼ばないで頂戴!」
「……じゃあ、マドレーヌさんは?」
「マドレーヌ? あの娘は愛人との子よ。愛人と別れて私が引き取った後、私の友人に『養子』としていかせて、少し経ってからあの子を『養子』として、あの男に伝えたわ。……あの子は『私の実の娘』よ」
「じゃあ、会長。いや、中條里奈は……」
「あの子? あんなの……
死ねばいいのに」
その言葉を聞いた瞬間、僕の心のなかに何かが切れる感じがした。堪忍袋の緒が切れたのか? 仮にそうだとしたら、何故? 会長だから? ……西條里奈、だから? 里奈様、だから? それとも……好きなのか?
「アンタ……最低だ!」
「女を『アンタ』なんて呼ばないで頂戴」
「悪いな。けど、僕は東條祐奈、貴様を許さない。……お前は僕の大切な人に何をした。……最低だ。お前が、金だけを求める最低な人間だったなんて。見損なった。……てめえのそのふざけた幻想を……ぶち壊す!」
少々某アニメと絡ませてみた。しかし、そんなのすぐに考えられなくなった。余裕が無いんだ。目の前の東條祐奈という女に、僕は今相当な苛立ちを覚えている。恋に殴られたりした時には感じなかった。会長にバカにされた時には感じなかった。……でも今、他人をバカにされた時には感じた。
とてつもない怒りを。
「本当、貴方のような低層な男は、何でそうも『主人公気取り』をするのかしら」
「……そうか。貴様はそう考えるか」
「ええ。そりゃあね。だって、私が死んで欲しい女第一位のあの女を貶されて、貴方は私に反抗しようとしているんだもの。そりゃあ、私から考えれば、貴方は『ただの主人公気取り』にしか見えないわよ」
「僕から見れば、貴方は『ビッチ』にしか見えません」
「な、何を言って……」
「数々の愛人に股を開いたんでしょう? 最低ですね。貴方は最低です」
「あらあら。酷い言い方をしないで頂きたいわ。私は、股を開いただけではないわ。しっかりと愛人を愛したわよ。でも、本当の夫は愛さなかったわ。むしろ、あんな男、あんな男のいる家系なんて『死ねばいいのに』とおもったわ」
「貴方が原因を作ったんでしょう? ……なのに何故、何故そんなことを」
「だから何度も言ってるじゃない。『金』が目当てだったのよ」
「……それじゃあ、何故そんな『死んで欲しい』男に会いに来たんだ?」
「殺すためよ」
「え……」
「去年までは殺さないでおいたわ。……正確には分からなかった。でも、今年関西に旅行に来た時に、あの男にあった。……だからスパイを送り込んで、あいつの誕生日に殺してやろうって思ったのよ。……素晴らしい考えでしょう?」
「……何が、何が『素晴らしい考え』だ……。人殺し。人殺しだ……」
「人殺し? ……そんなこと言ったら、貴方こそ私の人造人間を殺して。何が『人殺し』よ。……最低最悪だ」
人を殺した。いや、あれは人じゃない。人造人間だ。……殺してしまったのは、いや破壊をしてしまったということは悪かった。即座に謝らせてもらいたい。……でも、だけど、あれは『人』じゃない。『機械』なんだ。殺してない。『破壊』が正しい表記なはずだ。責められる筋合いは無いはずじゃ……。
「――人殺しじゃない。あれは、ただ『破壊』したまでだ。『蒼月トーレント』というものは『人』じゃない。『機械』だ。だから、東條祐奈に僕がそんなことを言われる筋合いはない。……分かったら、素直になれ。どうせ、心の闇があるんだろう? ……言ってみろ。ぶつけてみろ。……高校生の僕が、貴方みたいな素敵な大人の言うことを全て聞いて、そしてそれを実行できるかわからない。でも、心の闇を……聞かせてくれ。喜びも悲しみも、わけ合えばいいじゃないか。……西條家のトップとその娘に殺意を持ってるのは分かった。でも本当に殺したら、東條祐奈という女は刑務所行きだぞ?」
「……それなら海外に逃亡すればいい」
「何で、そんなにしてまで殺したい? それも全部、金が理由か?」
今まで黙り込まなかった東條祐奈が黙り込んだ。そして、東條祐奈は少ししてから閉じた口を静かに開き、僕への命令から始まった。
「ニュクスを戻せ」
「何故ですか?」
「……そんなこと聞くな。この後の話でちゃんと話す」
「それなら……仕方ないですね」
東條祐奈の言うことを呑み、僕はニュクスを魔法陣の中に戻した。
それを確認した上で、東條祐奈は僕に話を切り出した。
「――『夜炉の女神ニュクス・ヘスティア』。その名前の由来を、お前は考えたことがあるか?」
「無いです……」
「そうか。……そうだろうな。そんなことしている暇もないか、執事は」
東條祐奈は僕が『一日執事』だということを知らないようだ。……まあ、そんなこと考える暇がない、というのは恋やエリザ、勿論会長、愁、梨人。色んな人と接しているから無いんだ。決して、会長の執事だから接している暇がない、という訳ではない。
「……私が、そのニュクスヘスティアを作った」
「……え?」
「私は、夜の女神ニュクスと、炉の女神ヘスティアを合成させた。君と同じ高校生の頃だったかな。私には居なかった。『遊ぶ相手』も、『家族』も。 東京に一人引っ越して、高校に通って、なのに3年の間友達が出来なかった。けど、その中で私と一緒に遊んでくれたのがニュクスとヘスティアだった。……でも、二人が喧嘩するようになって、家が荒らされるようになって、私はどう終息を付けるか考えた。けど、私の考えた案はダメだった。だから12月の夜に、私はニュクスとヘスティアを合成させた。元々、ヘスティアは内気な性格だったし、ニュクスはオープンな性格だった。だから、その二人のいいところが重なって、いい結果になったな、って思った。
でも、あの男と結婚して、離婚して。……ふと気がついてみたら思い出してみたら、ニュクスヘスティアの姿はなかった。あの男に連絡を取ろうとしたけど、もう解除されていた。……だから奪おうとした。あの男から。
――けど、君が持っていたんだね、凛君」
……あれ?
今、東條祐奈が僕のことを『凛君』と呼んだか? 今まで『低層な男』とか『貴方』とか言っていたくせに、何故だ? ……デレか? デレなのか?
「君となら、ヘスティアもニュクスも、安心していられると思うよ」
「え……?」
「ニュクスもヘスティアも、君のことをきっと好きだと思う。だって、君と喧嘩してないじゃん。……羨ましいな。私なんて、何も出来なかったからさ。『待て』と言っても、聞いてくれるはずもなくて。だから羨ましい……」
東條祐奈という女は、会長のように、小さな頃に色々あったんだろう。そして、成長していく過程の中でも、誰一人からも相手にされなかったんだろう。……そういうところが、娘である会長にも引き継がれているのかな。
「……ねえ、凛君。……いや、凛。今日一日限りの執事なんでしょ?」
「ま、まあ……」
「それじゃあ今度、私の『下僕』か『執事』か『愛人』になって」
「……嫌です」
「でも、私は諦めないわ。絶対に、貴方を振り向かせてあげる。こっちにね」
「……何なんですか一体。それと、玲紀さんは殺さないでくださいね?」
「殺すわけない。……私は、嫉妬していただけだ。君のような、友達の多い男に。お金のある男に。……でもなんか、嫉妬が消えた気がする。君のおかげだ」
「いや、別に僕は何もしていませんよ」
「またまた、そんな主人公気取りして。……じゃあ、最後に」
「なんですか?」
「里奈と話がしたいから、呼んできてくれないかな、執事君」
「は、はい……」
「あとそれと」
「なんですか?」
「里奈と相談して、蒼月トーレントの制作費を賠償しなさいよ?」
「……か、考えておきます」
「財閥のトップの言葉には『はい』じゃないと駄目だろ?」
「……はい」
「その調子だ」
怖さに負けて、僕は東條祐奈の思うままにそう答えてしまった。……会長、すいません。お金のご用意お願い致します。頼りない執事で御免なさい……。
***
魔力結界を解き、僕は東條祐奈に背中を押される形で会長の部屋まで向かった。僕と闘おうとしてくれた他の執事さんたちも、拘束を解かれて仕事に戻った。現在時刻は19時58分……か。東條祐奈が言ってたバトル終了の時間より3分なげえじゃねえか。なんてこった。……会長、レイプされていないかな。
「し、失礼致します!」
トントン、とノックを入れて会長の部屋に入ると、ライブという映像で先ほどまで流れていたレイプされそうな会長は居なかった。笑顔で、ドレスの最終チェックをしている会長がそこには居た。
「……遅いぞ、凛君」
「いや、色々とあってですね……」
「知ってる。本当、凛君は凄いわ。大人の女性まで攻略しちゃうなんて」
「いや、別にあれはその、ニュクスに色々言われて……」
「そっか。……それでさ」
「何でしょう?」
「ボクの手紙の件なんだけど……」
「その手紙って、『ラブレター』みたいな手紙のことですかね……?」
「そ、そうだ。……それで、今お父様に聞いて、何時に夜会が終わるか聞いてきた」
「何時ですか?」
「明日の3時。……それで、恐らく寝る時間は5時か6時だと思う。……でも、ボクと凛君みたいな人は、12時前に終わるらしいんだ」
「……で、何をする気なんですか、里奈様?」
「ああ、いやその、練習をだな。一応、豪邸の中に、外に出ずとも練習できるスペースがあるから、ボクと一緒に練習してほしいかなあ、って。……ダ、ダメなら別に……明日の朝からエリザや恋が来てからでも……」
「分かりました、里奈様。今日一日の執事ですが、起きていれば大丈夫ですし、明日の朝まで、練習しましょう。主人のいうことには、逆らえませんから」
「そうだな。……まあ、とにかくだな、そんときに手紙を渡そうかと……」
「文化祭じゃなくていいんですか?」
「……なっ、よ、読まれてたのか!?」
「祐奈さんが朗読してですね……。で、その、あれって本気なんですか?」
「そ、そんなの本気な……」
その時、会長の部屋のドアがノックなしで開いた。
「――午後8時になりました。これから夜会です。会場へ参りましょう」
その執事は淳さんだった。




