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Future  作者: 浅咲夏茶
5th Chapter;Unpleasant memories of heroines.
66/127

Target:Rina and Yuna +α./episode65

「――お嬢様方。夜会のご準備が出来ました」

 トントン、とドアを叩いて執事さんが入ってきた。執事さんは、身だしなみを整えていて、眼鏡を掛けていた。……本当、夜会って凄そうだな。やっぱり誕生日パーティーと言えど、財閥のトップの誕生日であるし、多くの金持ちが集まっているに違いないだろう。

「お嬢様、行きましょう」

「……じゃあ、凛……いや、新米の執事君」

「はい、何でしょう?」

「ボクの事を『お嬢様』じゃなくて、『里奈様』と呼びなさい」

「はい、里奈様」

「よろしい。……んじゃ、それを夜会が終わるまで続けてね」

「分かりました」

 笑顔で受け答えする。その後、すっと僕は立ち上がり、貰った白い手袋を手に装着した上で、会長に右手を差し伸べた。

「それじゃあ行きましょう、里奈様」

「おう」

 会長の手を引き、会長を立ち上がらせる。遠くから、執事さんが相当にやけていたのが目に焼き付いたが、本当に会長の周りの人たちも楽しそうな人たちばかりだなあ、と改めて思う。

 会長の部屋を抜けて、僕は会長を連れ、執事さんに付いて行った。『執事』とはいえ一日だけであり(正確にはもっと短い)、僕は夜会の会場も聞いてはいなかった。故に、執事さんに頼るしか方法がなかったのである。


 ***


「す、凄い……」

 天井には多くのシャンデリアがある。会場の中央には、大きな大きなタワー型のケーキがあった。……ここは結婚式会場ではないが、ケーキがあるとそう思ってしまうものだ。しかし、本当にそのケーキはデカイ。

「では凛様。我々仕える者達は、もう一つの夜会に出掛けますよ」

「……え?」

「――真の最強を決めるんです」

「え?」

「……事情はあとで話しますので、付いてきてください」

 執事さんがそういうので、僕は会長に別れを告げてその『もう一つの夜会』の開催される場所へ向かった。……が、それは敷地内であったが、豪邸の中ではなかった。

「――あの、執事さん?」

「私の事は『執事』ではなく、『じゅん』とお呼びください。年に一度の夜会なんですから、もう少しビシっとしないと。それに、バトルはダブルで対戦ですからね」

「――バトル?」

「はい。この西條家の広い敷地の中で今夜、真の魔法使いナンバーワンの家系を決めます。勿論、貴方も魔法は使えますよね?」

「……魔法ってことは、悪魔を召喚したりってことも含むか?」

「はい。悪魔は召喚可能ですが、一人一体までとなります」

「一体……」

「はい。……私からは、ドラゴンの悪魔を提供したいと思っております。お嬢様から聞いた話では、凛様は『闇・炎属性』の使い手と聞いております」

「ま、まあそうだが……」

「でしたら、弱点である『水』と『光』の属性に対抗するために、レベルマックスのドラゴンをお貸しいたしましょう。――『草』と『光』、どちらを選択されますか?」

 二択か。そんな危険な選択肢ではないだろうけど、一体どんな竜なのか気になるものだ。こんな時、人の心を読めたらいいんだけどなあ、なんて思っても、それを使える悪魔を持っていない僕からすれば、同しようもない話なわけで。聞くしか選択肢はないのだ。そういうことからするとな。

 けど、聞かない上での決断もありだろう。……ここは『草』か?

「『草』でお願いします。……闇と炎は、互いに炎に弱いですから」

「そうか。だが、そうなった場合、炎属性の敵には凛様がお挑みくださいね?」

「……が、頑張ります」

「その意気です」

 執事さんは笑顔を見せた。そして、何やら慌てた素振りを見せた。

「……時間が迫っています。急ぎましょう」

 執事さんに言われるまま、僕は執事さんの後を追った。


 ***


 午後6時25分。冷え込む11月29日土曜日の夜に、僕は西條家の庭に来ていた。……なんていう状況説明はいいか。けどまあ、多くの執事やメイドが集まっている。メイド同士のコンビも、僕と淳さんのような執事同士のコンビも、執事とメイドの男女混合のコンビも居て、多種多様なパートナーの姿が伺えた。

「Welcome to winter soiree!! 冬の夜会へようこそ!」

 その声の主のハイヒールと地面が当たって、あの独特の音が耳に入ってきた。

「――初めに、私の名を名乗らせていただきましょう。……私の名前は『東條祐奈とうじょうゆうな』と申します。東條財閥の最高責任者であります。以後、お見知り置きを。

 さて、本日の夜会の初めのメニュー、つまり前菜は『執事&メイドの、家系を賭けたバトルロワイヤルです。……この勝負で負けた貴族の方々には、1000万円お支払いいただきますし、負けた執事とメイドからは、魔法を一生使用できなくいたしますので、その点をご理解願いますようお願い致します。

 そして、バトルはトーナメント形式で行います。シードは一切ございません。……そして最後には、私『東條佑奈』との闘いが控えております。私との勝負に勝利した暁には、勝たれた執事とメイドを本当の夜会に出させてあげないこともないですわ。

 それでは、皆殺しを始めてくださいな」

 東條祐奈と名乗る東條財閥の最高責任者は、そう言って姿をくらましたが、その後すぐに彼女からメールが届いて、そこにはトーナメント表が書かれていた。

『魔力開放、と宣言した後に、記述された番号を言いなさい。魔力結界は半径100メートル、高さ100メートルほどに設定いたします。それでは、あと30秒後に配信するメールのアラームと同時にバトルをスタートしてください』

「――凛様。バトルの始まりです」

「は、はい……」

「心を落ち着かせて待ちましょう」

 執事さんの顔にも、真剣な表情が浮かぶ。

『始め!』

 午後6時半。アラームとともに、執事さんは魔力開放を宣言した。続けて僕も魔力開放を宣言する。

「魔力開放! ……5!」

 バトルステージ5、という案内表記が先ほどのメールに記載されていたのでその番号を宣言すると、魔力結界の色が変わった。これは水色の魔力結界だ。

「『西條家』の面子ではありませんか。我々は『紙市かみいち家』の仕えであります。故に、主人様のプライドを貶すわけにはいけませんから、ガチンコのバトルを要求いたします」

「それはこちらの台詞だ」

「ならば……先制攻撃と行きましょう。行け、ヴイ―ブル!」

 多くの光とともにその竜は現れた。……あれは人型の悪魔だな。けれど、尻尾に竜の尻尾のようなものをつけている。……まさか、ドラゴンとエンジェル、もしくはジニータイプの2タイプ掛け持ちの悪魔なのだろうか。

『――そのようですね』

『ニュクス?』

 デビルマシンの効果により、魔法陣の中にいるニュクスの声が聞こえた。

『ご主人様。悪魔は何を使うか、お決めになりましたか?』

『いや、まだだ』

『それなら、私をお使いください。……一発でKOしますから』

『一発でKOってそんな……』

『まあ、見ていてください』

 ニュクスの言葉に僕は折れ、ニュクスを召喚した。『折れた』といっても、ニュクスが使えない悪魔という訳じゃない。最も親密な関係に位置する悪魔は、どう考えてもニュクスだ。ついでサタン、そしてその他の悪魔が続く。

「ニュクス、召喚!」

「それでは私も参りますか。……クエレブレ、召喚!」

 雄叫びとともに、緑色の光とともにその竜が姿を見せた。そして、召喚された瞬間、相手側に毒をまき散らした。

「こ、これは……」

「スキルだ。召喚時に、相手に毒のダメージを与える」

「あ、あの……」

「なんだ?」

「クエレブレって、もしかして『草』と『毒』の融合ですか?」

「……ああ。そうだぞ」

 けどまあ、毒は結構万能である。毒を浴びせたことにより、相手側の行動が遅くなっただろう。それはこちらにとって相当なまでに好都合だ。

「――リーフブリザード!」

 淳さんが宣言をした。とても強い草の刃は、まるで雪のようになって相手を攻撃する。

「うっ……」

 相手側、紙市家の執事も痛そうにしていた。……が、そんな簡単にこれからも魔法を使えるようにするための闘いは終わるはずもなかった。

「クロスサンダーボルト!」

 紙市家側も超魔法を使用した。当然、その光攻撃の狙いは僕、そしてニュクスである。だがしかし、この攻撃をニュクスは避けることに成功した。

「――ご主人様。あの男に、一発かましましょう」

「ああ」

「――ハートフレイム!」

 黒い髪をしていたニュクスの髪は、色を紅に変え、その色と同じ炎がニュクスの身体を包み込んだ。そして、その炎は紙市家の方に狙いが定められた。毒の状態である故に、紙市側は相当苦しんでいる様子だ。

「はあっ!」

 振りかざした剣と先を通り、その紅の炎が紙市家の執事の身体を覆い尽くす。

「あ、熱い……。やめろ、やめてくれえ……!」

 ニュクスからデビルマシンで通達が来た。

『報告通達

 相手側、紙市家の執事は火傷と30000近くのをダメージを負った模様』

 そう通達を受けた僕は『よくやった』、と心のなかで褒めてやると、それがニュクスにも伝わったらしく、『ご主人様のお役に立てたのなら光栄です』と、笑みを浮かべていた。

「棄権する。……こ、こんな奴、倒せるわけねえだろ……」

「いや、ガチンコ勝負なんだろ? ……てか、二人目は?」

「直前でメイドを辞めて一人なんだ。……こんなの棄権するしか無いだろ」

「ご、ごめんなさい……」

「いいんだ。別に謝る必要はないさ。悪いのはこっちだ。本当に済まない。あんだけ調子に乗ったのに、こんなことになって……」

「でも、棄権したらあの悪魔は……」

「大丈夫。その時はその時だから……」

「そうか」

「じゃあ、準決勝で会えるのを楽しみにしているよ」

 そういうと、紙市家の執事は潔く棄権を表明した。


『西條家の勝利が確定しました』

 メールで通達を受ける。僕はニュクスを、淳さんはクエレブレをそれぞれ魔法陣に戻した。

「……勝ちましたよ、凛様」

「ああ。……けどまあ、良かったのかな、これで」

「いいんじゃないんでしょうか? 相手だって、自ら負けを認めたわけです。私らが、それを『なし』にしようとするのは、相手の意志を踏み躙る行為だと考えます」

「……成程な」

「それでは、次の通達を待ちましょう」

 こんな勝ち方でよかったのか、と今更考えるも、これで良かったんじゃないかと思う自分が居て、これじゃ駄目なんじゃないかと思う自分が居て、その二人の『自分』が、僕の本当の意思を揺らしている。



 ***


 全てのバトルの決着が付いたのは午後6時58分の事だった。そして、ランダムに抽選が組まれ、その場所へ執事とメイドは移動した。もちろん、僕と淳さんも移動した。『5』のバトルステージから『2』のバトルステージへと。

『始め』

 午後7時。第二回戦の試合の火蓋が切って落とされた。敵は『白神しろかみ家』。こちら『西條家』が男同士のコンビに対し、敵の『白神家』は女同士のコンビだった。しかもその二人は顔が似ており、『姉妹』だと推測できる。

「ニュクス召喚!」

「クエレブレ召喚!」

 召喚は一体までのため、先程召喚した悪魔を戻して他の悪魔を出すことは出来ない。……敵は一体何で攻撃してくる気なのだろうか……。

「ヘルプレス!」

 白神姉妹はその技を宣言し、即座に巨大なアームで僕に襲いかかってきた。

「ご主人様、ふせて!」

「お、おいニュクス……何をする気……」

「ご主人様。……ちょっとだけ、お力をお貸しください」

「何をすれば……」

「合体です。……時間がありません。早く!」

「んじゃ、せーの……」

 声を合わせ、合体を宣言する。

 ニュクスの背中から紅の翼が生え、その翼は巨大なアームの攻撃すらも防いだ。しかも、ニュクスは1のダメージも喰らっていないようで、ニュクスのすごさが改めて分かった。

「……大丈夫、ですか?」

「いや、合体してるから身体も声もお前のしか外に出ない。僕の脳はあるけどな」

「……ナイトメアフレイムソード!」

 遠距離技のはずだったのだが、ニュクスはその欠点を剣に込める力の強さで補った。そしてその巨大なアームにその剣が刺さり、白神姉妹の創りだしたアームが消失した。

「合体解除」

 ニュクスに宣言され、僕とニュクスの身体が元々の身体に戻った。とはいえ、危機的状況に居たことを忘れていたために状況をつかめなかったのだが、今考えてみれば、ニュクスに押し倒されている形になっている。

「――ご、ご主人様。……次の指示を」

「わかってる。……ああ、ナイトメアフレイムソードで、火傷したんだよな?」

「はい」

「……そうか。因みに、あの敵の悪魔は何属性で、なんという名前だ?」

「『闇・草』の属性で、『凶暴巨人ダークネスタイタン・リーフ』ですね」

「ダークタイタン……リーフ……」

「はい。ただ、ご主人様なら大丈夫です」

「ありがとうな」

「いえいえ、とんでもないですよ、ご主人様」

 ニュクスはそう言うと、剣を構え、僕からの次の指示を待った。一方の淳さんは、敵である白神姉妹の姉の方と闘いを始めた。白神姉妹の姉は、自らの『悪魔』ではなく、自らの『魔力』で淳さんと闘っていた。

 剣同士が当たる音が何度も何度も聞こえてくる中、僕は白神姉妹の妹の方と闘うことになった。……しかし、妹の方は簡単に動こうとはしなかった。

「……何故動かない?」

 心配になって、妹のほうに近づこうとしたが、それはダメだ。相手の思う壺である。……だがしかし、妹が死んでいる可能性もゼロじゃない。

「タイタン、今よ! 絡みつきなさい!」

「なっ……」

 逃げようとするも、木属性の主人の鋭い観察力のお陰で、僕とニュクスは触手のような木に絡まってしまった。火の力でそれを解こうとするも、それをすればするほど、絡みついてくる力は強くなる一方だ。

「ご、ご主人様……」

 僕とニュクスは、同じ枝に絡まってしまった。しかも、どんどん絡みついてくる力が強くなるため、ニュクスの出ている部分が僕の身体に当たってくる。

「炎属性攻撃でも駄目……か」

 相手は闇と木。炎技を喰らわせれば、途端に4倍のダメージを食らわせることが可能だ。しかしながら、それを相手は許そうとしない。凄い強い絡みだからだ。また僕は、ニュクスから心の会話で『相手のスキルに、炎属性攻撃で受けるダメージを80%カットする、という効果がある』と聞いて唖然とした。

「……なあ、ニュクス。炎属性攻撃で受けるダメージを20000と仮定した時、80%カットのダメージというのはどれくらいだ?」

「20000×0.2ですよ? そんな計算、ご主人様なら軽々と……」

「お前の計算能力を見てみたいんだよ」

 嘘だけどな。頭いいとか言われるけど、僕自身暗算は苦手だしな。

「4000ですね」

「ごめん、既に計算終わってた」

「なっ……」

「ごめんな」

 その程度の問題は5秒もあれば解けるわバーカ、と言っておきたいところだ。とはいえ、本当に暗算は苦手で、出来れば紙か電子端末ならメモのアプリが欲しい。……後者は電卓付きが多いからメモを取り出す必要もないな。

「4000……か。HPはどれくらいだ?」

「50000ですね」

「そんなに低いのか?」

「あ。桁間違えました。『50万』が正解です」

「50万……!?」

 そんなにHPあったら、相手のHPを削っている間にこちらのMPが削られて、結局は僕が痛い目を見る羽目になるだろう。……なら、一発でKOさせるのが第一か。……難しい質問だぞ、それは。

「ニュクスには一撃必殺技があるわけでもないしな。光属性の攻撃か……」

「ありますよ?」

「本当か?」

「ご主人様、そこは把握しておくべきですよ?」

「済まないな。……で、その技の威力はどれくらいだ?」

「前に、レヴィアタンを神戸港で倒した時に使用し、レヴィアタンを一撃で、ワンパンで仕留めた技ですよ? ……結構な火力はあると思いますけど」

「そうか。……試しに打ってみよう」

「は、はい!」

 ニュクスが一度大きく息を吸う。そしてすぐにニュクスが技を使用した。

「ゴッドデスソードブレイク!」

 光の煌きとともに、その光線がダークタイタンを襲う。

「なっ……」

 白神姉妹の妹は絶望しただろう。ダークタイタンは一撃で死んだのだ。木属性以外の攻撃はそれなりにダメージを喰らうのはわかっていた。しかし、一撃というのは少しあり得ない感じがした。50万のHPなのに、一発で死ぬのか? ……無理だ。ゴッドデスソードブレイクは、そんな超高威力の技ではないしな。たとえ二倍だとしても、8万くらいだ。それこそ、向こうは相当な防御力があるはずだし、一発で死ぬなんて、あり得ない。

「……ふざけるな。ふざけるな……」

 ただただ、目の前の状況に白神姉妹の妹のほうは何も出来なかった。確かに自分は魔法少女である、それは彼女自身もわかっていただろう。

「――なんで、こんな」

 それは僕の言いたいことでもある。何故、ニュクスの技がここまで強い威力で相手に当たったのか。……これもスキルの影響なのか?

「……スキルの影響のようですね」

「……え?」

「あのスキル、木属性から受けるダメージは80%カットしますが、変わりに光属性から受けるダメージを80倍にする、そんなスキルだったようです」

「そ、それってめちゃくちゃ弱いんじゃ……」

「けど、ダークタイタン・リーフは、進化させればそのマイナス面が消えて、逆に『光属性から受けるダメージも80%カットする』とのことです」

「……つまり、あ白神姉妹の妹はそれを間違えていた、という事か?」

「恐らく、そうだと思われます……」

 頭を抱えるしか無かった。相手がそんなミスを犯すなんて。

「――御免なさい」

「え?」

「……こんな妹が」

 それは白神姉妹の姉の方の言葉だった。しかも、その姉の方は僕の目の前で土下座をした。……そんなことする必要ないのに、何故するんだ。

「――か、顔上げてくれ。僕は別に、そんなことして欲しいわけじゃない」

「私は敗れました。そちらの執事さんに。……でも、それでもいいのです。魔力なんて無くても、大丈夫です。だから、降伏します……。でも、これだけは言わせてください。

 ――私達姉妹の分まで闘ってください。そして、絶対にあの悪女に勝ってください。西條家のお方なら、絶対に分かると思います」

「財政の、事か?」

「……はい。だから、絶対に勝ってください。応援、ちゃんとしますから」

 白神姉妹は笑顔だった。降伏という苦渋の決断にも関わらず。……何で皆、僕……いや西條家にこんなに優しいんだろうか。

『――降伏が受理されました。西條家の勝利が確定しました』

 メールが届いた。第二回戦は、相手によるミスで結末を迎えた。……そして、その勝利の鍵を握っていた人物である淳さんはというと……。

「凛様」

「はい?」

「3回戦、出来るものなら互いに停戦関係を結んで、その上で最終戦にもつれ込みませんか?」

「別にそれでもいい。けれど、これはバトルロワイヤルなんだろ? それを相手側は受け入れてくれるのか? ……淳さん。採算はあるんですか?」

「……採算程度あります」

 その採算の内訳を聞き出すことは出来なかったものの、淳さんが笑顔だったので、それはそれでいい……か。


 ***


 第二回戦の決着は19時20分頃についた。

 そして、第三回戦。相手は『六条家』だった。……しかし、この『六条家』は『西條家』と関係の深い相手であった。何しろ、相手は西條財閥から生まれた財閥なのだからな。俗にいう、子会社のようなものだ。とはいえ、西條家の血筋を引いているわけではないため、家系は異なる。

「採算ってまさか……」

「そうです。六条家がここまで勝ち進んできたのなら、我々連合軍が屈することはないでしょう。……ラストが相当な強さでない限り」

 向こうも僕らと同じく、『執事』と『執事』のコンビだった。そして、僕らは自分たちを『西條連合家』と名乗り、最終決戦の相手である『東條祐奈』に話を持ちかけた。

「我々は、貴様、東條祐奈に宣戦布告をする。この魔力結界に来たまえ」

「……そう。……男って、本当バカしか居ないわね」

 そう台詞を言うと、東條祐奈は魔力結界に降り立ち、こう言い放った。

「――私は一人よ。1対4なんていう、そんなバトルは望まないわ。代表者を一人選出しなさい。……他三人は拘束するわ。精霊たちよ、召喚!」

 東條祐奈は精霊を召喚し、その精霊の右手に縄を、左手にスタンガンを持たせてその場に待機させた。


 最初から、誰を選出するか決まっていたそうだ。なんというご都合主義、と言いたくなったのだが、ラノベなんて所詮『ご都合主義』だ。ラッキースケベなんざ、そんなのリアルで起きる確率は少ない。それこそ、異世界の住人、もしくは恋人以外の誰かが自分の家に、部屋に居るというのは絶対にあり得ない。

 ……そして、僕が選ばれるなんて絶対にあり得ない……はずだった。主人公補正なのだろうか、そういうことはわからないけれど、僕が選ばれた。

「……選んだのね。それじゃあ、ウンディーネ、シルフ、ノーミード、あの3人に手錠をかけて押さえつけなさい。バトルはそれからよ」

 ただただ、東條祐奈の前に何の対抗も出来ぬままに、僕以外の執事は皆、手錠と縄をつけられて、巻きつけられて、更にもう一体サラマンダーも召喚され、結局四精霊の力で執事たちは押さえつけられてしまった。

「――さあ、凛君」

「な、何故僕の名前を……」

「聞いているのよ、娘から」

「……え?」

「――『里奈の彼氏のくせに、他の女の子とデートしてる』って」

「……っ!」

 娘、恐らく東條マドレーヌの事を指すのであろうけれど、まさかマドレーヌが僕が幼馴染と遊んでいる姿を盗撮しているとは思わなかった。

「盗撮なんて……心外だ!」

「あらあら。……お菓子屋で幼馴染にお菓子を買ってあげたり、学校で女の子と密室で指導されたり……。貴方、本当に彼氏なの?」

「え」

 東條祐奈は、誰かのスマホを取り出した。……見覚えがある。

「ねえ、このスマホ、誰の所持物か分かるかしら?」

「……お嬢様」

「ああ?」

「会長の、里奈お嬢様の、西條里奈の……スマホ……!」

「そうだ。大正解だ。君の愛おしい愛おしい彼女のスマホだ」

「そのスマホを、何故お前が持っているんだ……?」

「……彼氏ヅラするんだ。ほら、見て見なよ」

 そう言うと、東條祐奈はそのスマホのロックを解除しようと、ロック画面をつけた。そのロック画面の背景には、会長を僕が家に誘った際、僕が寝ていた時のを撮ったのだとみられる写真があった。

「……なっ」

 顔には『肉』と赤色の落書きペンで文字が入れられている。そして、右下辺りなどには☆のマークが散りばめられていて、女の子らしい、というのを確認させられる。

「……パスワードも、君の誕生日なのにね」

「……え」

 1、2、1,2……。僕の誕生日は12月12日だから正解だ。……ところで、この東條祐奈という女は一体何がしたいのだろうか?

「そして、ここまで君を愛している証拠に、里奈の部屋からこれが見つかった」

「……え?」

 里奈のスマホを東條祐奈は自分のズボン全面上部の右ポケットに入れ、同じ位置であるが対称の、左ポケットの方から自分自身のスマホを手に取り、自分でとった写真を僕に見せてきた。

「これって……」

「俗にいうラブレターよ。12月7日の文化祭終了後に渡すつもりだったようね」

「……」

「……ちなみに、今の里奈はこうなっているわよ」

 僕のフレンドでもない東條祐奈は、僕のデビルマシンに動画を送ってきた。……もとい、動画じゃない。これはライブの映像だ。つまり、生の映像だ。そして、その生映像に映しだされた会長はあまりにひどい姿だった。

「お前……なんてことを……」

 里奈様、いや会長は、着用していたドレスを引きちぎられ、裸体を晒しながら、さっきまで僕も居た会長の自身の部屋で、ガタイのいい男7人がかりに押さえつけられて、そして髪にも、肩にも、胸にも、そしてありとあらゆる体中の全てのところに、あのネバア、とした透明の液体をつけられいた。

「最低だ。人の彼女を、レイプするなんて……」

「『人の彼女』? 何を勘違いしているのかしら、貴方は。……観覧車内で、デートの終わりにこう里奈は言ったそうね?



 ――『仮想デートお疲れ様でした』って」



 否定出来ない。思い出が蘇っていく。観覧車、不良、色々なことが蘇っていく。楽しかったデートが。そして、楽しかった会長との思い出が。


『――里奈はな、さっき言ったけれど、自分を『ボク』と名乗るのは、本当に親密な人との間じゃないと何も話さないんだ。それこそ、里奈だって、いっつもとまではいかないけど、殆ど君のことを話している。『今日は凛君が馬鹿げたことした』とか、『今日は凛君に手伝ってもらって生徒会の仕事が早く終わった』とか。……だから、里奈は君との関係を『絶とう』となんて、絶対思ってないはずだ。絶対、『もっと関係を深めたい』と思っているはずだ』


 玲紀さんのあの言葉が脳内をよぎる。……『関係を深めたい』、か。なのに、なんで僕はこんなことをしてしまったんだ。……最低だ。僕はなんて最低な人間なんだ。……助けることも出来ず、ただただ目の前の東條祐奈という悪女に立ち向かうことも出来ず、屈しているじゃないか。


『――そうです。六条家がここまで勝ち進んできたのなら、我々連合軍が屈することはないでしょう。……ラストが相当な強さでない限り』


 クソ。……クソ。僕は、なんて最低な人間で、仲間との約束も、パートナーとの約束も守れないクソ野郎なんだ。……惨めだ。見難い。こんな自分が嫌だ。けれど、ここで挫けて泣いちゃダメだ。男だろ。泣くんじゃねえぞ、凛。


 ――最後のバトルは堂々と剣を構えて闘え、そして……勝つんだ。


 ――これからの自分は、今までの自分とは違うんだって。


 ――ニュクスに背中を見せるのかよ。あいつのお陰でここまで頑張ってこれたんだろ。背中なんか見せるな。仲間を信じろ。お前ならやれる。


 ――僕ならやれる。


『ご主人様なら、殺れますよ』

『ニュクス……ありがとう』

 励ましの声が聞こえた。そして、魔法少年としての心が揺らいだのをはじめに、魔力を開放して、右手に剣を構えた。

「魔力……開放!!」

「平和的な解決を望んでいるはずなのにねえ。……まあいいわ。ここじゃなんだし、最終決戦くらい会場を移しましょうよ。……ねえ?


 ――それと、知らしめてあげるわ。人造人間の本当の強さを」


 不吉な笑みを浮かばせると、東條祐奈は僕を拘束して、バトルステージゼロへと運んだ。


 ***


 バトルステージゼロについて、東條祐奈から言われたことが一つある。「僕が勝ったら、皆の魔力を一生使えなくするのは無し、変わりに、僕が負けたら、僕は死ぬ」……リアルの世界でだぞ? 空想上の世界でではない。


 そうして19時40分。西條家の豪邸の中に僕は連れ込まれた。そして、夜会の会場である部屋、そしてこの豪邸全てが、バトルのステージになることが確定した。とはいえ、西條家の家は壊れない。魔力結界を張っている限り、壊れることはないからな。

「……制限時間は15分。19時55分がタイムリミットよ。貴方が私を倒せたなら、里奈も解放するし、貴方に富を与えるわ。そして、執事たち皆を……開放してあげる。メイドたち皆を開放してあげる。……ふふ」

「お前を……倒せばいいんだな?」

「そうよ。ああ、私は男が大っ嫌いだから、君には容赦しないわ。女の子なら、救ってあげたのにね……。ふふ。それじゃ――


 ――バトル……スタートよ!」

 東條祐奈の声とともに、僕と東條祐奈とのバトルはスタートした。

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